寝起きの話。 整った横顔に朝日を受けてぼんやりと輪郭を光らせているのは、俺の美しい恋人だった。邪魔になるんじゃないかと心配になるほど長い睫毛が、開ききっていない瞳をキラキラと彩っている。
きりりと意志の強さを表す眉に、普段は冴えた光を湛えている切れ長の目、手入れの行き届いた髭。いつもはぴしりと整えられる前髪は、いまはまだ気だるげに額に垂れている。
鋭さや苛烈さを思わせるパーツを持ち、頭の回転が速く知識もたくさん蓄えている、俺の頼れる兄貴。そんな完璧なひとなのに、寝起きの彼はなんだかふわふわと浮ついた雰囲気で、かわいい。
「……ん、アクタル……?」
普段は引き結ばれた薄い唇がゆるみ、名を呼ばれる。
昨夜酷使したであろう喉から出る、ひどく掠れた甘い声。よく通る澄んだ声を持つ兄貴は、身体を重ねた翌朝は劣情を煽られる、とてもマズイ声を出す。
しかも覚醒しきっていないせいか、甘えてこちらに手を伸ばしてくるのだから始末が悪い。甘えているのか、弟分を甘やかそうとしているのかは定かではないが、とにかくマズイ。
なにがって、もちろん俺のあそこである。
昨夜も深くつながった。ここのところ俺たちは休みのたびにそういうことをしている。そんなつもりがなくとも、遅くまで兄貴の部屋で語らっているとそういう雰囲気になってしまう。もちろんそれが嫌なわけではないが、頻度が高い気がする。
だって、昨日もお互いくたくたになるほど交わって、疲れ果てて眠ったはずなのに。寝起きのさわやかな兄貴を見て、あらぬところが疼くなんて。
「アクタル」
俺の葛藤むなしく、寝ぼけた美丈夫がキスをねだる。
ゥグ、と自分の喉から変な音がした。切れそうな理性をなんとか結びなおした音だ。あさからねだるなんて、そんなはしたないことはしたくない。だって彼はベッドに腰掛けたまま俺を呼ぶのだ。
「アクタル?」
こちらに伸びている手を取るには取るが、引き寄せようと力の入る腕には抗い距離を保つ。そのまま二度寝でもしそうな穏やかな表情。ベッドに転がされては堪らない。
不思議そうに小首をかしげる男に、噛み締めた歯のあいだから言葉を紡いだ。
「……このままキスしたら、我慢できる気がしねえ」
威嚇でもあり、懇願でもあった。三分の一しか見えていなかった光を含んだローアンバー色が大きく見開かれ、直後、大きく三日月を作った。
「なんだ、そんなことか。しなければいいだろう、我慢なんか」
言って兄貴は俺の指先に唇を落とした。きゅん、と腹の奥が鳴く。
「か、勘弁してくれ……」
うつくしい男は意地の悪い笑みを浮かべてこちらを眺めていた。