ひみつのティータイム レンが初めて持ってきてくれたクッキーは、満月のようなプレーンクッキーだった。
【ひみつのティータイム】
女中がティータイムの準備を一通り終えると、レンが「ありがとう、下がっていいよ」と声をかける。人を使い慣れている様子は、子どものそれとは思えない。伊達に、この屋敷の主を自称していないということか。
女中が下がったのを見届けると、レンがきょろきょろ周囲を見回しながら俺を呼んだ。
「真斗、いいよ。おいで」
茶器の精霊たる俺を、随分気安く呼ぶものだ、と思わないでもなかったが、子どもの面倒を見てやるのも精霊の優しさであろう。別にレンの手元の缶が気になったわけではない。
「呼んだか?」
ひょこり。
ティーポットの後ろから顔を覗かせる。レンが一瞬嬉しそうにぱっと目を見開き、しかしすぐ澄ました顔で、手元の缶の蓋を開けた。
2002