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    招き犬

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    招き犬

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    フロジェイでフロイドが監督生にばかり構ってジェイドが嫉妬して衰弱していく話

    嫉妬と初恋「フロイド…」
    そっとジェイドは片割れの名を呟く。視線の先にはフロイドとフロイドの最近の”お気に入り”である監督生の姿があった。
    監督生は異世界から迷い込んだ女性だった。
    フロイドは自分と違う性別である監督生が気になって絡んでいるのだろうとジェイドは察せるのだがそれでも心は悲鳴をあげる。
    フロイドには隠しているがジェイドはフロイドの事が好きだった。それこそ、フロイドの事が好きだと自覚したのはエレメンタリースクールの時からだ。
    長い片思い。ジェイドは特等席からフロイドを見つめていた。フロイドは気になった者には絡み、そしてすぐに飽きる。
    今までの最長期間は1週間だった。
    その事にジェイドはいつも安堵し、嬉しそうに微笑みを浮かべていた。
    それなのに、今回のお気に入りである監督生は飽き性なフロイドから構われる期間の長さの記録を更新し続けていた。
    ジェイドは表面上は普段の笑みを浮かべながらも、心の中は荒れ狂っていた。フロイドは今のお気に入りに夢中なのかジェイドの感情に気付いていないが、アズールは察していた。
    モストロラウンジの締めの作業の時にジェイドがアズールに今回の売上と品薄になった材料のリストを渡した時に呆れた目でジェイドは見られた。
    「ジェイド、今の貴方は集中力に欠けています。早めに対処してください」
    「っ…承知致しました」
    アズールからの言葉に一瞬吃ったジェイドだがいつも通りの笑みを浮かべ頭を垂れる。
    アズールはジェイドを見ながらも溜息を1つ吐き出し書類を確認し始めた。
    ジェイドの心は日に日に傷付き、悲鳴を上げ続けていた。
    黒ずんでいく隈、目が窪んでいき頬はコケていく。
    化粧で誤魔化すが限度があるだろう。同じクラスのリドルにはバレてしまい心配し、観察眼が鋭いルークからまでも心配されてしまう。
    食べる量も段々と減っていく。胃が食べ物を受け付けなくなっていっていた。
    日に日に衰弱していくジェイド。フロイドはやはり監督生に夢中でそんな片割れの体調すら気付いていなかった。
    そして遂にジェイドは飛行術の時間に倒れてしまい、リドルに付き添ってもらい保健室に連れていかれた。
    「はぁ、ジェイド。まだ無茶をする気かい?」
    リドルは咎める様な視線でジェイドを見る。
    ジェイドは儚い笑みを浮かべるとこくりと小さく頷いた。
    「えぇ、すみませんが僕にこの”心”を捨てるには1人では重すぎるようでして…」
    捨てる事が出来たのならこの現状でも目を逸らせると思ったのですが。
    ジェイドはそう続けると強く目を閉じる。リドルにはジェイドの今の姿は全てを拒絶しているように見えた。
    そっとジェイドのベッドにリドルは移動するとジェイドの頭を撫でる。
    「僕から言われても心に響かないと思うけど、君はもっと自信を持つべきだ。厳しい事を言うかもしれないが、その心は今の君を締め付けるだけの様に見受けられる」
    「…そう、ですよね」
    やはり、他者から見ても今のジェイドの様子は不安定に見えていた様だ。ジェイドはゆっくりと目を開きリドルに礼を伝えるとベッドに横になる。リドルは心配そうな視線を向けながらも次の授業の為保健室から出ていった。
    「ジェイド。大丈夫ですか」
    「ん…アズール…今何時でしょうか…?」
    「もう放課後ですよ、今日の出勤は休みなさい」
    「っ、でも」
    「明日から馬車馬の如く働いてもらいます。だから今日は休養しなさい」
    アズールはジェイドの頭を撫でると保健室から去っていく。ジェイドはポカンとした表情で撫でられた頭に触れながらアズールの出ていった扉を見つめていた。
    数分経ってジェイドはベッドから下りるとフラフラとした足取りで寮へと戻り、自室へと入ると着替えないままベッドに倒れ込む。
    「…」
    燃費が悪い癖に食べれていないジェイドは少しは栄養を取らないと、と何とかゼリー飲料だけは飲んでおりベッド付近のゴミ箱にはゼリー飲料のカラで埋まっていた。
    前より骨張った指で近くに置いてあるゼリー飲料を手に取ると飲み口を咥えゼリーを胃に流し込む。
    「…っ」
    ジェイドはカラになった容器をゴミ箱に投げ入れ口元を抑え、吐き気を堪える。そうでもしないと直ぐに吐いてしまうからだ。
    身体を丸め、ふぅふぅと息をしながら胃が中に入っていった食べ物を消化するまで動かずじっと耐える。
    「ただいまぁ〜ってジェイド!?大丈夫?」
    フロイドは部屋に帰ってくると丸まり苦しげなジェイドに驚き駆け寄りジェイドの背を撫でる。
    「フ、ロイド…おかえりなさい。僕は大丈夫ですから」
    青白い顔でジェイドは微笑むとフロイドの手を払う様に退かす。
    そこでやっとフロイドはジェイドの異変に気付いた。
    「ジェイド…?いつから体調悪かったの!?」
    強くジェイドの肩を掴むとフロイドは呆然とした顔をした。
    ジェイドはいつから寝れてなかったのだろう、ジェイドはいつから食べれてなかったのか、何故オレは気付けなかったのだろうか。
    フロイドは涙を流しながら薄くなったジェイドの身体を強く抱き締める。
    「フロイド、苦しいです…先程食べたものが吐いてしまいます」
    「食べたって…それは食べたって言わない!!固形物食べたのいつ?」
    「…」
    「ジェイド?」
    「2週間くらい前…ですかね?」
    ジェイドが目を逸らしながらそう呟くとフロイドは歯を噛み締める。
    「ジェイド…何で食べれなくなったの?」
    「っ、それは…」
    「ねぇ、教えて?オレのせい?」
    フロイドの言葉にジェイドはビクリと身体を震わせる。フロイドの言葉は当たりだったようだ。
    フロイドはジェイドの頬を撫でると優しげな声を発する。
    「オレのせいなんだね。ごめんね、ごめんねジェイド」
    「いえ、これは僕のエゴですのでフロイドは気にしなくて大丈夫ですよ」
    ジェイドは泣き出したフロイドに慌てた様子でフロイドを慰める。
    「フロイド、そんなに泣くと目が溶けてしまいますよ?」
    「だっでぇ”…」
    「フロイドが悪い訳ではないですよ」
    「…じゃあ、ジェイドが何でこうなったか教えて?」
    フロイドはジェイドに抱き着きながら軽く首を傾げジェイドの答えを待つ。そのフロイドの目は絶対に理由を聞き出すまで逃がさないという意思が見えていた。
    「…フロイドが監督生さんばかり構っていたので…」
    「…え…ぁ?」
    ジェイドから発せられた斜め上の答えにジェイドを抱きしめていたフロイドの腕が緩む。その隙にジェイドはフロイドの腕から逃げ、部屋から抜け出そうとする。
    「待てってジェイド!」
    「嫌です離してください!」
    ジェイドが取手に手をかける1歩手前でフロイドはジェイドの腕を掴むとフロイド自身の方に顔を向けさせ、1つの考えに辿り着いた。
    「っ、離して…ください…」
    「ジェイド…?何で顔が赤いの?」
    もしかして、オレの事…好き?
    フロイドのこの言葉は当てずっぽうの言葉だったが、当たりだったようだ。
    更に顔が赤く染っていくジェイドにつられフロイドの頬もじわじわ熱を持っていく。
    「ねぇ、ジェイドってもしかしてオレが小エビちゃんにばかり構ってて嫉妬したの?」
    「っ〜そんな事ありません!」
    「あはっ、その顔で言われても説得力ないよ♡」
    ジェイドはフロイドの肩を軽く押しながら顔を伏せる。これ以上この顔を見せたくなかった。
    フロイドはそんなジェイドに微笑みながら耳元に口を寄せる。
    「オレもジェイドの事が好きみたい」
    フロイドの言葉にジェイドは驚いた様子でフロイドの方を向く。その顔は涙でぐちゃぐちゃでお世辞にも綺麗とは言えなかったがそんな表情もフロイドには愛おしく感じた。
    ”ジェイドがオレの事でこんなに情緒が乱れるなんて”
    ぞくぞくと今は無い背鰭に何かが走る。
    「あはっ♡ジェイド可愛い」
    フロイドはジェイドの後頭部を掴むとジェイドの唇に軽く口付ける。
    「ぇ…嘘、でしょう?、」
    「ほんとほんと、ジェイドが小エビちゃんに嫉妬してくれたって分かった時に気付いちゃった」
    「っ…」
    フロイドの言葉にジェイドは更に泣き出した。夢なら覚めないで欲しい。この夢から覚めたくない。とジェイドはフロイドの服に縋り付きながら必死に頭を寄せる。
    「夢じゃないよ、ジェイド。安心して?」
    ジェイドの考えは筒抜けだったのだろう。フロイドはジェイドの頭を撫で旋毛にも口付ける。
    ジェイドは震える声でフロイドに問いかける。
    「本当ですか?」
    「うん」
    「likeの感情ではないですか?」
    「うん、likeじゃなくてLoveの方だよ」
    「…僕、嫉妬深いですよ?」
    「オレも〜ジェイドが他の雑魚に構ってたら監禁しちゃうかも」
    「…本当にいいんですか?」
    「うん、ジェイド。オレと番になって?」
    フロイドの最後のこの言葉にジェイドは嗚咽をあげながらもこくこくと頷きフロイドの背に手を回した。
    「今度から小エビちゃんには近付かないようにするね」
    「…フロイドのお気に入りではないのですか?そこまでしてもらわなくても」
    「いいのいいの、番を泣かせるよりよっぽどマシだし」
    フロイドはジェイドのベッドにジェイド共々横になるとジェイドの左手を取る。
    「いつかこの薬指にオレのって印付けさせてね」
    「っ、はい。僕もフロイドの指に付けさせてもらってもいいですか…?」
    「当たり前じゃん!」
    フロイドの言葉にジェイドは心の底からの笑みを浮かべフロイドもジェイドの表情に耳を赤くしながらも笑いかけた。
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