こどものときの夢のような「ほ、本当に……しても、いいのか?」
「ああ。きっと、大丈夫。今だけ神様は、目をつむってくれているから」
彼はそう告げると、カーテンを閉めた。
ルカとアンドルーは、いわゆる『恋人』という関係になっていた。どちらが先に恋に気づきどちらから愛を告白したかなんてことは、彼らですら覚えていない。
本来出会うことのなかった彼らが、この荘園で、この部屋で、交わるのだ。
「もし、神様に見つかったら……こんなことをしてると知られたら、きっと……二度と手を繋げないじゃ、済まされないぞ」
ぎぃ、と寝台に腰掛ける音が部屋に響く。
「いいんだ、そうなっても。最初から見てくれさえしなかったくせに、今更なんだ」
ぎぃ、と寝台に腰掛ける音が、もう一度部屋に響く。
「きみを失いたくない」
「ぼくはずっと一緒だよ、ルカ」
低い体温の手のひらが、ささくれだった細い指に重なった。高さの揃わない並べた肩が、少しずつお互いに傾く。
瞳に反射した自分の姿を見て彼は微笑んだ。
「もし神様に気づかれて太陽に焼かれたって、きっとぼくはまっしろなままだから。ルカなら、見つけてくれるだろ?」
そう言いきるアンドルーの頬を撫でた手は、繊細な機械内部をいじるときと比べものにならないほど、やさしかった。
「こわいんだ。神様がきみだけを裁くわけない。きみが太陽に焼かれるなら、わたしは首を切り落とされてしまうだろう。きみを見つめる目だって、きみを記憶している脳みそだって、手足がないとさがせないんだから」
「……そうだな。でもルカなら、首だけになっても跳ねてぼくをさがしにきてくれるんじゃないかって、そう思えるんだ」
少しだけ体温を奪った冷たい両手が、包帯まみれの首をすくい上げるようにして頬を包んだ。
「そうしてきみを見つけても、こうして撫でてあげられないんだよ。わたしは、それがつらいんだ」
熱のこもった親指が左頬の傷を撫でた。
「……ぼくは、そうなってもいいって思える。だってそれなら、ぼくたちが次に会うときは、物語みたいにすてきな出会いになるんだよ」
そう告げるとアンドルーはルカの顔を引き寄せ、くちびるにキスを落とした。
「ルカの体がなくなっても、ぼくの体が焼け焦げても、これならきっとできるから」
隙間から射し込む月の光が、愛し合う彼らをやさしく照らしていた。