「近づいていい?」
お香で満たした寝室の空気を震わす声はいつだったか、窓際で羽を休める小鳥のさえずりを思わせる美しさだ。
しかしピクリと肩を震わした若い女はどう答えれば良いのか分からず、赤い顔を伏せるばかりだった。
正座を崩してシズカは女にすり寄った。衣擦れの音が近づき、袖と袖が触れ合うほどで止まる。
ゆっくりと、赤い耳に紅を引いた口を近づけ
「ハナシじゃなくてごめんね、でも怖いことはしないよ」
と優しく諭す。
柔い女の手を取り、紙風船を持つように包み込む。手の甲を人差し指と中指で撫でながら囁いた。
「一晩かぎり、君の心以外を僕に頂戴?」
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