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    umi_duki

    @0umi_duki0

    物語の海を漂う海月。
    中華BL。雑記。
    絵描けないので文字書きます。

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    umi_duki

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    泥酔阿絮。
    阿絮を酔わせてみた。

    #山河令
    mountainAndRiverOrder
    #温周
    temperatureMeasurement
    #泥酔阿絮
    muddiness

    依微香雨泥酔阿絮

    「老温」
     基本的に酒の強い周子舒は、どれほど飲んでも呑まれることなどほとんどない。
    「老温〜?」
     それは周知の事実であり、最近になって韓英から託された弟子すらも、提げた瓢箪の中身が酒であることを知っていた。
    「どうしたの? 阿絮」
    「老温、おまえも飲むか?」
     実に景気よく発せられる言葉は、普段よりは気安いものの温客行としては見慣れたものだ。
     だが、それが四季山荘の広間でなければ、という前提があるもので。
    「なんだ? 老温、いつもおまえは鬱陶しいくらい俺の隣にいるのに、どうして今日は、そんな離れてるんだ?」
    「……師匠?」
     目をパチクリとさせる張成嶺は、普段凛々しく時に優しい周子舒の背中ばかりを見てきた。それでも時折り見え隠れするうちに押し殺した脆さを見てより師匠として敬い、神仙となっても尚こうしてふらりと四季山荘へ顔を出す師匠と、師叔の二人を心から尊敬し敬愛していた。
    「――阿絮、おまえ、いったい何をどれほど飲んだんだ?」
     日頃の立場とは逆転し、宴の歓談に身を投じる周子舒を険しい表情で温客行が見下ろしていた。
     それぞれが子弟と話していたために同じ房でも常に隣り合っていたわけではない。
     徐々に近づく温客行に、子弟の前では滅多に見せない微笑みを浮かべた周子舒とは対照的に温客行はその整いすぎた要望を歪めていった。
    「……阿絮啊――」
    「老温」
     まるでうっとりと見惚れるように近づいてくる銀白を纏う麗人に手を伸ばして、その頬に触れようとする。
     しかし、ようよう頬に触れるか触れないかという際で温客行がその手を掴み丁寧に、かつ有無を言わせぬ力加減で包み込んだ。
    「阿絮啊、部屋に戻ろうか。成嶺、宴もたけなわなところ申し訳ないけど、わたしたちは――」
    「どうしてだ? 老温、せっかくこうしてお前と飲めるのに、さっさと引っ込もうとするやつがあるか? ん?」
     辞去する旨を伝え張成嶺も頷こうとし、多少の手遅れはあれど万事解決の筋書きを描いていた温客行と、意を汲み取り気早に首を振ろうとした張成嶺が当人に出鼻を挫かれ、瞬きの間二人の視線は交わった。
     しかしそんなことに気が付かない、珍しくふわふわとした雲の上に立つ周子舒は温客行の腕をさり気なくとって隣に座らせる。すると張り詰めていた糸がするすると緩められるように相好を崩し、また酒を煽って温客行にも勧める。
    「ほら、これ。飲め。これは、俺が師匠とみんなと漬けた梅酒だ。言っただろう? いつかお前にも飲ませてやるって」
    「阿絮」
    「それとも、もう飲んだのか? どうしても、おまえには飲んでもらいたかったんだ。こうして、新しく加わってくれた俺の弟子と、おまえと」
     ふと陰がさす表情に思わず口を挟んだ温客行だったが、続けられた言葉に色々な意味で何も言えなくなってしまった。
    「師匠は、よほど憂なく師叔と宴を囲めるのが嬉しいのですね。今日は何度もそのお話をしていらっしゃいますから」
     鈍いのか鋭いのかわからない一番弟子の張成嶺は、ニコニコと嬉しそうに口角を上げながら周子舒へと向いてはそんなことを言ってくる。
    「そうだったか? 俺はこの話はしたのか」
    「はい、師匠。師匠が師叔のことをとても大切に思っているのだということを、私たちはみな知っています」
     胸を張って誇らしげに答える張成嶺は、まるで褒めてくれとでも言わんばかりの様子だったが、それをいつの間にか静かに眺める観衆と化していた他の子弟たちはオロオロと成り行きを見守っている。
    「……そうか」
     ふっと顔を下に向けた周子舒に、ようやくハッとした温客行は、愛弟子の言葉に羞恥ゆえの怒りが込み上げたのではないかと不安になって喜びをひと先ず鎮めると目の前にしゃがみ込み覗き込んだ。
    「阿絮、私は――」
    「あぁ、もちろんだ。老温は、俺の唯一無二だからな」
     慈しむように、切ないような、訳もなくこちらの胸が詰まる、まるで雪の下に閉じ込められていた花が開いて顔を覗かせるようなその微笑みに、見たものは吸い寄せられるように釘付けとなる。
     周子舒の右手は持ち上がり、髪の後ろを触れるような仕草で酒精とは別の理由から頬を染めた。
    「これは、一度無くしたと思っていたのに。老温が見捨てることなく再び俺に挿してくれたんだ」
     その言葉にドキリとしたのは、張成嶺以外の全ての目撃者だ。
     そして唯一の例外は、手を叩きそうな勢いで目を開いて納得の表情を示す。
    「あぁ! やっぱり、そうなんですね! 師匠がずっとら身につけていらっしゃるから、何か意味があるのかと! ……そういえば、簪を相手に送る意味って――」
    「成嶺。阿絮は少し酔ったみたいだ。師匠がこうなってはおまえたちもやりづらいだろうから、私たちはもう今日は休むとするよ」
     成嶺の言葉に半ば被せた温客行だったが、どう見ても周子舒の日頃とはかけ離れた様子から特に疑問も持たず、温客行をむしろ促した。
    「もちろんです! 私たちは、師匠と師叔にこうしてお会いできるだけでもとても嬉しいですから」
    「あぁ、わかってるよ」
    「では、お休みなさい。師匠、師叔」
    「おまえたちも、ほどほどにしておけよ」
     周子舒の頭上で、端的かつ口早なやり取りを呆然と見ていた子弟だったが、立ち去ろうとする温客行にようやく事態を飲み込んだ。
    「ほら、阿絮。立って? 房に戻ろう」
     もとより四季山荘にしばらく逗留するつもりだったので、部屋は用意されている。なんとかそこに誘導できればと甘く考えた温客行は、言葉通り促すように、しかし真綿に触れるように優しく腰と肩を支えた。
    「んん、? 老温、おまえは飲まないのか?」
     素直に身体を預けながら、酒壺を大事そうに抱えた体勢で見上げる。
    「いつもは私が飲むとほどほどにと嗜めるのは阿絮の仕事ではなかった?」
     揶揄うような、僅かな呆れを含んだ温客行に、周子舒はただひたすらその男だけを視界に入れて雨上がりの虹のように微笑んだ。
    「俺は、おまえと飲むのが好きなんだ」
    「――阿絮啊」
    「お疲れ様です、師匠、師叔!」
     周子舒の腰を抱き寄せる腕と言わず手に力の入った温客行が、僅かに低くまた完全に身体を傾けてくる重さを正面から受け止めたとき、子弟の若干野太い声が響く。
    「――お疲れ様。あぁ、明日の稽古は昼からか、これとも……」
    「大丈夫です、師叔。師匠が起きた時に伺いますから」
     よくできた弟子へと育った張成嶺に、温客行はふっと力を抜いて微笑むとその頭をかき混ぜるように首をグリングリンと回しながら撫でつけた。
    「――わわっ」
    「利口だな、成嶺。さすが阿絮の弟子だ。しばらくこちらの房には近づかないように」
    「心得ています」
     今度こそ振り返ることなく歩み進める温客行の腕の中で、周子舒は首を傾ける。
    「老温。もう行くのか?」
    「阿絮は、私と二人はいや?」
     逆に聞き返した温客行に、周子舒は数度目をパチクリとさせた。そしてからかうようにクツクツと笑い始めるが、酒のせいか別の理由か、膜を帯びた瞳に血の巡りが良くなった顔では一分の腹立たしさすらも湧いてこない。
     そして徐に抱えていた腹を伸ばして、両手を広げ赤子を撫でるような手つきで両頬を挟む。
    「老温。そんなことあるはずないだろう? でなければ、俺は今ここにおまえと来てはいないんだから」
     ――コツン。
     額と額の合わさる音がしめやかに響き、吐息の当たる風に前髪が揺らされながら温客行は驚きと喜びからしばらく動けなかった。
    「おまえと二人で長明山に籠るのも、なかなかに悪くはない。だが、おまえが弟子らに囲まれているのが、俺はどうしようもなく愛おしいんだ」
    「……阿絮」
     硬直していた身体は徐々に解れ、周子舒の柳腰に絡めるように巻きつける。
    「老温」
     呼ばれて顔を上げれば、唇に触れるだけの接吻が落ちた。
    「――阿絮啊――」
     片腕を腰から頬に回そうとしたその時、周子舒の身体がカクンと折れるように崩れ落ちて。
     咄嗟に受け止めつつもその名を叫んで無事を確かめる。
    「阿絮……!? ……阿絮? 寝てる?」
     規則正しく上下する胸と、苦しくもなさそうな息継ぎ。
     紐で吊るした人形の糸が切られたように急激に抜けた身体の力だったが、眠っているだけだと分かった途端温客行はハッとした。
    「ちょ、阿絮啊……!!」
     満足そうに、幸せそうに腕の中で眠る周子舒を見ながら、中途半端に煽られた身体を持て余す温客行だった。
    「阿絮? 阿絮ー!!」
     四季山荘には暫く、温客行の悲鳴が響いていたとか居ないとか。しかしそれが、ある時からパタリとなくなったとかなくならなかったとか。
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