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    🐱ぽと🐰与です

    1日だけの白昼夢「大変です!乱歩さんと与謝野さんが異能にかかってしまいました!」
    乱歩と与謝野と三人で任務に当たっていた敦が扉の向こうから叫んでいる。なんだろう、と探偵社員たちは一斉に扉の方を向いた。
    「とりあえず入ってこい、敦」
    「僕、今両手が塞がってて扉を開けられないんです」
    「分かった、俺が開ける」
    国木田が立ち上がり、扉の方へ向かう。そして開けられた扉の向こうには、猫と兎を抱きかかえた敦が立っていた。
    漆黒の毛並みに少し切れ長の翡翠の瞳の猫と、やや紫がかった黒い毛並みに柘榴石の瞳の兎が、敦の腕の中から探偵社員を見ている。その色合いに何だか嫌な予感を覚えつつ、まずは現状把握をしようと国木田が口を開いた。
    「乱歩さんと与謝野女医は?」
    「猫が乱歩さん、兎が与謝野女医です」
    「つまり」
    「二人とも動物になる異能をかけらたみたいで……眠れば元に戻るらしいんですけど」
    国木田の動きが一瞬にして固まった。ぎぎぎ、と音が出そうなほどぎこちな二匹を見ていると、
    「ま、そういう事だからよろしく」
    「悪いねェ、国木田」
    と猫と兎が喋った。
    猫が日本語を喋ることなどありえないし、声帯のない兎が声を発しているのもありえない。つまり、目の前の二匹は正真正銘、乱歩と与謝野なのだ。
    「……はあああああああああ!?」
    探偵社員たちの声が、ヨコハマに響き渡った。

    「太宰、異能無効化は使わなくていいよ。なんか面白そうだし、今日はこのまま過ごそうかな」
    乱歩が先手を打って太宰に声をかける。それを聞いた太宰は「乱歩さんが言うなら仕方ありませんね」と笑っていた。乱歩の望みなら異能を解く訳にも行かず、太宰に無効化を頼もうと思っていた国木田ががくりと項垂れる。その様子を、与謝野が(可哀想に……)と哀れみの目で見つめていた。
    「それじゃあ、僕たちは眠るまで医務室にいるから。何かあったら声かけてね」
    地面にすたっと降り立った乱歩と与謝野が、医務室の方に歩いていく。二匹が入れるようにナオミが扉を開けてやる。
    「ありがとね、ナオミ」
    「お礼を言われるほどのことでもございませんわ!おふたりとも、お大事に」
    乱歩の後ろを着いて歩いていった与謝野が、ナオミに軽く声をかける。笑顔で二匹を医務室の中に送り出したナオミは、ちゃんと医務室の中に入ったことを確認してゆっくりと扉を閉めた。

    与謝野は、普段よりずっと大きく感じる医務室を興味深そうに眺めていた。動物の視点から見ると、人間は正に巨人に見えるし、今いる場所も巨人の住居にしか見えない。医務室のベッドの下にも簡単に潜り込めそうだ。そう思っていると、乱歩が
    「与謝野さん、毛並み乱れてるよ」
    と声をかけてきた。
    「え?どこだい?」
    「後ろの方。さっき敦に抱きかかえられた時の跡がついてる」
    後ろの方。それを聞いて、与謝野は軽く絶望感を覚える。人間の長い手があれば簡単に届くのに、兎の短い手では後ろの方まで届かない。とはいえ、いつも身綺麗にしている与謝野は、毛並みが乱れているのに耐えきれない。
    どうしよう、と思案している時だった。
    「僕が毛づくろいしてあげるよ」
    「乱歩さんが?」
    「そう。これなら、後ろの方に届かなくても大丈夫だろ?」
    ニコッと笑った乱歩が、与謝野の身体の横にくっついた。あまりにも近い距離に、与謝野の心が悲鳴をあげる。
    与謝野は、乱歩の事が好きだった。ずっと乱歩に恋をしていた。それでも、乱歩にとってこの思いは障害になるから諦めよう、そう思っていたのに。
    今の自分たちは猫と兎とはいえ、彼に毛づくろいして貰っていいのだろうか?
    「与謝野さん?よーさーのーさん。返事してよ」
    考え事をしていた与謝野の意識が、乱歩の一言で現実世界に戻ってきた。与謝野の中にある下心が顔を出す。今なら、乱歩となんの障害もなくイチャイチャできる。人間に戻った時には全部なかったことにするから、今だけは乱歩と近い距離で触れ合っていたかった。
    「あ、ああ。毛づくろい、お願いできるかい?」
    「いいよ」
    乱歩のざらついた舌が、与謝野の身体に触れた。そのまま跡がついた毛並みを撫でられる。
    ……まずい、これ思った以上に気持ちいい。
    乱歩の優しい力加減の中に加わるザラザラとした感触がちょうどいい刺激になって、与謝野の身体を包み込む。
    丁寧に丁寧に跡をなおされていく。こんなことを乱歩さんにしてもらうなんて、と与謝野の背筋がゾクゾクと震えた。
    そんな与謝野の心なんて露知らず。乱歩は与謝野の身体から顔を離すと、
    「終わったよ」
    と優しく声をかけた。ああ、もうこの優しい時間が終わってしまった。本当はもっと、毛づくろいして貰いたかったのに。
    ……いや、今の与謝野は兎だ。少しぐらい甘えたって、バチは当たらない。多分。
    「乱歩さん」
    「なあに?」
    「その……耳の方も、お願いできるかい?」
    言ってしまった。一度心に芽生えた誘惑は、簡単には止められなかった。乱歩さんにもっともっと触れてもらえるチャンスだ。そんな気持ちに負けてしまった与謝野は、乱歩が毛づくろいをOKしてくれるかドキドキしながら待っていた。
    「いいの?」
    「ああ、いいんだ」
    「そう。じゃあ、舐めやすいように横になって」
    乱歩の指示通り、与謝野は乱歩の方にコロンと転がった。すると、乱歩もコロリと転がって、二匹で顔を見合わせるような形になる。
    「ちょっと待ってね」
    乱歩が与謝野の首の辺りに前足を回す。乱歩のふわふわとした前足が、与謝野の身体に触れた。
    (近い近い近い!!)
    首に前足を回されたことによって、乱歩と与謝野は口付けでもかわせそうなほど近い距離になっていた。今は兎であるから顔をあからめるなんてことは無いが、人間の状態でやっていたら間違いなく赤面していたことだろう。
    ぎゅっと与謝野の身体を抱き抱えた乱歩が、「いくよ」と与謝野に声をかける。そして、与謝野の耳のあたりを舐め始めた。
    (……ああ)
    猫の舌はザラザラしていると知っているのだろう。痛くもなく、かと言って触れるだけの舌触りでもなく、ザラザラした舌の刺激が丁度いいと思える力で舐めてくれている。
    乱歩が、自分のために力加減を調節してくれている。あの乱歩が、与謝野だけを見て、与謝野の為に力の入れ方を考えてくれている。
    それだけで、与謝野のほの暗い恋心が少しずつ満たされていった。
    耳の間を舐め、耳の横を舐め、耳を舐め。そうされているうちに、与謝野は段々と眠くなってきていた。普段なら我慢出来る眠気も、今は兎の身体だからか我慢ができない。
    (待って、まだ寝たくないのに)
    もっと、乱歩の毛づくろいを受けていたい。それなのに、瞳はどんどん閉じられていく。
    それに気づいた乱歩が、前足で与謝野の身体をぽんぽんと叩き始めた。まるで母親に寝かしつけられている時のような状況に、与謝野の瞳がトロリと溶けていく。
    「おやすみ、与謝野さん」
    ぽん、ぽん。一定のリズムで叩かれていくそれに耐えきれず、与謝野の瞳は完全に閉じられた。

    (全くさ、無防備すぎだよね)
    目の前で眠ってしまった兎―与謝野を見ながら、乱歩はひとつため息をついた。さっきまで与謝野を毛づくろいしていたのは仮にも男であって、今は猫だけど元は人間であるのに、毛づくろいを許した挙句足の中で眠ってしまうなんて、本当に警戒心というものが無さすぎる。
    乱歩が彼女に下心を抱いているなんて知らないくせに。人間の身体でこんなことを許されたら、襲ってしまいそうだった。
    (……)
    すっかり綺麗になった与謝野の身体を見る。もう毛づくろいが必要な場所なんて無いほど綺麗な毛並みはつやつやしている。乱歩に兎の美醜はよく分からないが、今の与謝野は美しい兎なのだろうということは何となく想像できた。
    「こんなに警戒心がないんだもん。ちょっとくらいイタズラしたっていいよね?」
    乱歩は与謝野を抱きしめた体勢のまま、翡翠色の瞳を閉じる。次に目が覚めた時は人間に戻ってるよね。そう思いながら。

    乱歩のイタズラ。それは、与謝野の目が覚めた時に乱歩に抱きしめられていたらどんな反応をするかを見ることだった。
    人間に戻って目が覚めた与謝野があまりの状況に耐えきれず逃げ出そうとし、乱歩に捕まる話もあるのだが……それはまた、別の機会に
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