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    ナナ氏

    なんかいろいろ置いてる

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    ナナ氏

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    【世界樹Ⅲリマスター】
    星術師のスオウがとある青年の未来を見て現実を突きつけるお話

    星術師は破滅の未来も見る 海都アーモロードは夜を迎えていました。
     夜と言えどもアーモロードは冒険者の街、太陽が地平線に消えても人々の活気は収まらず、樹海から帰還し今日も生き延びることができた冒険者たちの歓喜と意気込みと雄叫びと嘆きの音が街の中で混ざり合い、ひとつの「街の音」として奏でていました。
     騒がしい街の中、繁華街からほんの少しだけ離れた海岸沿いの道は、街の音がほんの少しだけ小さく聞こえる代わりに、砂浜を行き来する波音がよく聞こえる所でした。
     行き交う人々はそれほど多くなく、とはいえ決して人気のない寂しい道とも言えない場所に彼女はいました。
     街灯の真下、折り畳み式の小さいテーブルを広げて白いテーブルクロスを敷いてその上に透明な水晶玉を置き、折り畳みの椅子に座っていました。テーブルの前には「アナタの未来を占い〼」という張り紙を貼って。
     非常に簡易的な店構えをしているこの場所が他者の未来を見ることができる星術師兼占い師、スオウの占い屋さんでした。
    「暇ねー」
     呼び込みなんてしないものだから客ひとり寄り付かず、スオウはテーブルに肘をつき、桃色のふわふわの髪をいじって暇を潰していました。
    「マジで暇ねえ……今日は常連が来る予定もないし……テキトーなヤツの未来でも見て面白そうだったら声かけてみようかしら? 最近このスタイルで商売してなかったし……」
    「あのー」
    「ん?」
     ふと、正面から声をかけられたので見上げてみれば、テーブルの前に青年が立っていました。
     身につけている装備品や腰に下げている護身用の武器からして冒険者だと一目でわかりました。
    「あら、何用かしら?」
    「占いをしてもらえるとあったので、是非とも自分の未来を占ってもらいたくて!」
    「わかったわ」
     本日初めての客です。スオウはテーブルの下から予備の折りたたみ式椅子を取り出すと、テーブルの正面にセッティング。これでお互いが向かい合う形で席に座ることができます。
    「これでよし、じゃあそこに座りなさい」
    「はい!」
     やや態度の大きい彼女に不満そうな表情ひとつ見せることなく青年は椅子に座り、スオウも元いた椅子に腰を下ろしました。
    「アタシに声をかけるなんてアンタ見る目あるわね。それで、何を見てもらいたいのかしら? 初回だけは無料で占ってあげるわよ」
    「ええっ!? 本当ですか!? タダで!?」
    「アタシはリピーターにしか金を取らない主義だから二回目以降は有料よ。それなりの金額は頂くからそのつもりで」
    「わ。わかりました」
    「で? 何をご所望かしら」
    「あの、明日自分、好きな人に告白するのでそれが成功するか占ってほしいんです……!」
    「ほほう」
     恋愛相談です。それを聞いたスオウの口がほんの少しだけ緩みました。
     ただしやや悪いことを考えていそうな表情で。
    「交際の申し込みが成功するか不安だから先に未来を見てもらおうって魂胆ね。慎重な行動は嫌いじゃないわよ、占いの結果次第で明日の告白プランを考え直す必要もあるかもしれないでしょうし」
    「そ、そうなんですか!?」
    「当たり前でしょ、言葉遣いや服装や場合によっては贈り物。それらひとつひとつ取っても告白が成功する確率は大きく左右されるわ。持ってきた花束の色が白だったからフラれたなんて奴、何回か見てきたんだから」
    「奥が深いんですね告白って……」
    「好きな人への交際の申込なんて今後の人生を大きく左右するかもしれない行為よ。それこそ大人も子供も関係ないわ。そもそも人間関係なんて一口で表すことなんてできないんだからややこしくて当然、その人間関係を良い方向にも悪い方向にも大きくブレさせる告白が単純な話なワケないでしょ」
    「は、はあ」
     今まで暇だった分を取り戻すように喋り続けるスオウに青年は唖然としながら話を聞くことしかできません。
    「で? その好きな人ってどんな娘なの? 占いの参考にしたいから教えてもらいましょうか」
     そう質問しますが彼女の未来視は無条件で他者の未来を視ることができる術なので、この質問の意図はただの個人的興味と暇潰しです。
     もちろん青年はそんなこと知らないので、占いのためにと淡い初恋の話を始めるのです。
    「とにかく、綺麗な人だったんです。直接お話ししたことはまだないんですけど、あの横顔と潮風になびく髪がどうしても忘れられなくって」
    「あん? ちょっと待って? 話したことはない? つまりそれって一目惚れってこと?」
    「そうです! こんな気持ちは初めてで……最近では探索にやや支障をきたす事態になりつつあるので、仲間たちに“さっささと告白してケリつけろ!”と背中を押してもらいました」
     一度口を閉じるスオウ。青年の仲間たちは彼のためではなく探索のために告白しろと叱咤激励を飛ばした心境を悟りました。面倒なので言いませんが。
    「でも後一歩のところで勇気が出ず……だから、こうして占ってもらおうと」
    「動機はよーく理解したわ。でも、ほぼ初対面の男に“好きです! 具体的に言うと性的な意味で好きです! アナタのことはよく知らないけど交際したいです! あわよくば肉体関係になりたい!”なんて意味で告白したら、大抵の女は警戒するか嫌悪感抱くわよ」
    「え」
    「ま、仕事だから未来は占ってあげるわ。アンタの無謀で考えなしの無鉄砲な告白が通用するかどうか……どれだけ酷くフラれるか見たいし」
    「え、あ……えっ、動機が最悪なんですけど……それを客の前でわざわざ言う必要ってあります……?」
    「アタシはなるべく包み隠さないタイプなのよ。そういう占い師の方が信用できるでしょ?」
    「…………」
     絶句する青年ですがスオウは構わず彼に右手を出すように指示し、青年は戸惑いながらも右手を出します。
     スオウは彼の手を両手で包むように握ると目を閉じました。
    「水晶って使わないんですか?」
    「そんなのアタシの勝手でしょ」
    「えー……?」
     意味が分からず戸惑い続ける青年を無視してスオウは目を閉じ、未来を観ました。
     蛇足ですが彼女は万能なので相手に触れなくても未来は見えます。手を握る行為は占いに信憑性を持たせるためのパフォーマンスです、青年は知る由もありません。
     ほんの数秒だけ目を閉じて、すぐに目を開けました。
     青年、どんなに酷い未来が見えたのか心配で不安げな顔のままスオウの次の言葉を待ちます。
     そもそもこんな簡単に占えるのかと半信半疑にもなりつつあって、
    「……あのさあ」
     スオウは唐突に切り出しますが、最初の不吉な笑みはどこへやら、苦虫を噛み潰したような顔。
     青年から手を離すと額を抑え、言葉を続けます。
    「アンタが惚れた女らしい女が見えたんだけどさあ……」
    「今ので!?」
    「アンタが一目惚れした女って、赤髪で頭に花飾りを着けてて目は桃色で腰に刀を下げてて足を怪我している和装の女?」
    「そうです! その人です! 何も言ってないのに分かっちゃうなんてすごいですね!」
     初恋の彼女の身体的特徴を言い当てた占いに青年の拍手喝采が鳴り止みません。
     普段なら鼻を鳴らすところですがスオウは小さく首を振るばかり。
    「当たり前のことを褒めたって何も出ないわよ……てか、アンタ……その、告白なんだけど」
    「はい!」
    「命が惜しかったら絶対にやめなさい」
    「はい! はい……はいぃ!?」
     馬鹿にされるどころか強く制止されてしまい青年絶叫。道ゆく人々が二度見するほどの声量でした。
    「そっか、そうよね……こうなる可能性だってあるってものよね本人にその気がなくても……あの子、見た目だけは抜群に良いんですもの……同性から見ても抜群に……」
    「な、な、何が?」
    「正直に言うわ。アンタが惚れた赤髪の女ってね、アタシが所属しているギルドのメンバーなのよ、怪我で療養中だけど」
    「なんですってぇ!? すごい偶然ですね!? というかアナタも冒険者だったんですか!?」
    「そうよ。で、その女とは一年以上の付き合いがあるからよーく知っているの。アンタは絶対に告白したらダメってことがね」
    「ど、どうしてなんですか……? 理由を聞かないと納得ができないんですけど」
    「当然よねえ……ま、アタシだって初対面とはいえ知ってしまった仲の人を見殺しにするほど落ちぶれてないし、軽くならあの子のことを教えてあげてもいいわ、無償で」
    「マジっすか!? お願いします!」
     命がどうとかという問題よりも好きな人のことが分かるとあって歓喜の子を上げる青年。それはそれは期待に胸を膨らませていました、子供のように無邪気な顔でした。
     が、それもこれで終わりです。
    「あの女を一言で表すなら、クレイジーサイコレズよ」
    「は!?」
     青年、驚愕。道ゆく人々が耳を塞ぐほどの声量でした。
     言葉の内容もさることながら、スオウが真顔で言うものですから余計に。
    「クレイジー……!? サイコ!? いや、いやいや!? あんな美人をこんな差別的表現で表すとか意味がわかりませんが!? ギルドの仲間を庇いたくて嘘とかついてます!? それとも僕のことからかってます!?」
     捲し立てる青年が言い切ったと同時にスオウはテーブルを叩き、彼を睨みまして。
    「はぁ?! こっちは親切心で言ってやってるのに何よその言い方! こっちはリピーターになるかもしれない客を相手にしてんのよ! そんな下手な真似する訳ないでしょ! ちょっとは考えてモノ言いなさいよ!」
    「本当にリピーターにする気あります!?」
    「あるに決まってるでしょ! だからこうして商売してるのよ!!」
     テーブルを叩きながら怒鳴る様は誰がどう聞いても客に対する態度ではありません。相手に非がほとんどないので余計に。
     言動の矛盾により相手が言葉を失ったのを良いことに、スオウは話を続けます。
    「アイツはね、大の男嫌いなの。この世にいる全ての男が死ねばいいとか本気で思っているような狂ってる女。だから男が声をかければ最期、返って来るのは返事じゃなくて首を狙って振り回される磨がれた刀よ」
    「え、そ、そんな……でも確かにそれはクレイジーかも……」
     手で口元を押さえて静かに驚愕する青年ですが、
    「あと、女だけど女が好きなレズだけどそっちは大した問題じゃないわね。アンタの命に関わるようなことでもないし」
    「いやめちゃくちゃ大した問題なんですけど!? 僕の相談の前提が根源から覆されるんですけど!?」
     静かな驚愕が大きな驚愕へと変貌した瞬間でした。
    「サイコレズってマジだったんですか!? 比喩表現とかじゃなくて!?」
    「当たり前よ。誇張なんて使っても何の得にもならないわ。この商売においては特にね」
    「…………」
     淡々と言い切ったスオウの言葉を受けた青年はがっくりと項垂れてしまいました。そう、告白する前から失恋が確定してしまったのです。
     失恋の真っ只中にいる男を正面から見つめるスオウはテーブルに肘をつき呆れてため息。
    「だからやめとけって言ったのよ。傷つく前に諦めて別の女を探しなさい。さすがのアイツも自分に恋愛感情を抱いた男を察知する能力は持ってないから、関わりのない今ならまだ無傷で済むわよ」
    「……でも」
    「でも?」
    「でも、同性愛者の方とはいえ人間は本来異性愛者ですし、異性から告白されれば多少の可能性は」
    「アンタマジで失礼な奴ね。だからモテないのよ」
    「は!?」
     顔を上げた青年が見たスオウの顔は、信じられない生き物を見ているような呆れ果てた表情でした。軽蔑も混じっています。
    「間違った道を正すための清らかな求愛なんですって言う“自分はすごく正しいことをしている!”って清い自分に酔いしれてるとかマジでキモい。相手の気持ちを一切考えてないところがガチでキモい」
    「いや考えて……考えてますよ!?」
    「あの女の同性に向ける性愛は持って生まれた生粋のモノだからアイツにとってそれが“本物で正しいこと”よ。それを真っ向から否定してアイツにとっての間違いである異性愛を勧めるとか惚れた女への態度じゃないわ。だた見た目がものすごく好みな子を自分好みに改造したいってだけじゃない。独占欲の塊ね、きっしょ」
    「……」
     青年、反論の余地無し。自信の浅はかさとスオウのストレートな言葉により泣きそう。
    「人間って母親の胎内で最初に肉体を形成された時は絶対に女の子なんですって。成長過程で男になるか女のままになるか決まるそうだけど……つまりそれって、本来の人間は誰もがみんな女の子だったワケだからさ、突然見知らぬ男に“最初は女性だった本能に則れば異性である男を好きになってもおかしくないはず!”って言い寄られたらアンタ喜ぶ? 目を覚させてくれてありがとうとか本気で思う?」
    「……いいえ」
    「でしょ。アンタがやろうとしているのはそういうことよ。だから諦めなさい、アンタのためにもね」
    「……」
     口を閉ざした青年は立ち上がりました。最初の元気の良さなど遠い過去の出来事のような立ち姿でした。
     そして、スオウに向けて一礼すると、
    「その、色々とありがとうございます……少し、考えてみます」
    「考えるんじゃなくて諦めなさいよ。こんだけ言ってやったのに」
    「すぐに諦められるほど簡単な気持ちで彼女を好きになったワケではないので……」
     声に覇気はありませんが完全に折れていない辺り頑固な性格のようです。
     スオウはこれ以上は彼を止めようとはしません。呆れてため息をつくだけに留めます。
    「あっそ、じゃあせいぜい死なないように回避率は上げておくことね」
    「善処します……ところで、ひとつ教えてもらってもいいですか?」
    「内容によるわね」
    「俺の手を握って未来を見た時、どんな光景が見えたんですか?」
    「路地裏で手足をバラバラにされて五体不満足にされてたわよ」
    「ホワイ!?」



     三日後。アーモロードの夜は今日も晴れていました。
     スオウは三日前と同じ場所でテーブルを広げ、未来を見て欲しいと言う酔狂な人間を退屈そうに待っていました。
    「暇ねー」
     今日も今日とて暇な彼女、ウェーブのかかった桃色の髪を指先で弄りながら些細な暇つぶしに興じていまして。
    「テキトーな奴の未来でも見て脅しつつ客引きでもしようかしら。最近はこの手もあまり使ってなかったしなあ」
     シンプルに酷いことをぼやいた時、不意に頭上から声をかけられます。
    「あのぉ」
    「ん?」
     顔を上げた瞬間、視界に入ってきたのは三日前に占って欲しいと頼んできたあの青年でした。
     ただし、頬には大きなガーゼを貼り、右腕はギプス、頭には包帯が巻かれているという誰がどう見ても立派な「怪我人」という姿でしたが。
     これだけ見れば彼の身に何が起こったのか察しはつくもので。
    「あら、アイツと関わってその程度で済んだなんて運がよかったわね」
     心配する素振りは一切ありません。あれだけ忠告してやったのにそれを守らなかったのです、彼の自業自得なのは誰だってわかります。
     青年は小さく頷いて、
    「ええ、まあ重症には変わりありませんけどね。五体満足で生還できただけ良かったです」
    「まあ座ったら? どうせこっちは暇だし」
    「はい。失礼します」
     青年はあらかじめ出されてあった椅子に座り、スオウと向き合います。
     次に出てきた言葉は当然、呆れ果てた彼女の言葉。
    「やっぱり告白したのねアンタ。やめとけってあれだけ言ったのに、馬鹿ねえ」
    「惚れた勢いと燃え上がっていた恋心には勝てませんでした。そして、疑ってすみませんでした」
     次に頭を深々と下げた青年ですがスオウは心底どうでも良い顔。
    「だから言ったでしょ、クレイジーサイコレズって」
    「……」
     一旦黙った青年。
     スオウが首を傾げた次の瞬間、彼は左手で自身の太ももをバシバシと叩きながら、こう訴えます。
    「もう、本当、本当にっ……! マジで、話が通じなかったぁ……! 言葉は交わせるのに会話はしてくれなくて……! 本当に、怖くて……自分、情けないけど怖くって……!」
    「アイツは男と会話のキャッチボールなんてしない。ただ一方的に球を投げつけてくるだけの暴力しかなかったでしょ」
    「ええ! 俺が何を言っても思い込みでしかない暴言しか返って来ないし、いちゃもんばかりつけられるし挙げ句の果てには死ねだの殺すだの言われて!」
    「でしょうねー。で、言葉の暴力だけじゃなくて純粋な力としての暴力もぶつけられたと」
     まるで見てきたかのように言うと青年は勢いよく顔を上げて「そりゃあもう!」と叫びます。
    「“ワタクシに惚れているということはワタクシがお前を殺してもワタクシは問題なく社会的に清らかな身のまま冒険者を続けることができるということですわ”って言いながら一方的に斬りかかってきたんです! アレが唯一まともに会話できた場面だったと今になって思います!」
    「よかったじゃないの最期に聞いた言葉がサイコの暴論じゃなくて」
     なんて言えば男は何度も何度も首を縦に振りました。
    「本当にそう……というか、あの人は足を怪我しているのにどうして健常者と同じように刀を振り回すことができるんですか……?」
    「アイツは男が相手になると事実上無敵になるから何をされても怪我しないし封じや状態異常といった身体的異常も無効化するわ。それで怪我の痛みなんかも一時的になかったことにしているのよ。前に男だけの野盗がばら撒いた睡眠ガスも完全無効化してたわ、自力で」
     当たり前のように超人的な身体能力の話をするものですから青年は驚きません。驚くどころか顔色を悪くして素直な気持ちで引いています。
    「こ、こんなことを言ったら失礼かもしれませんけど、あの人は本当に人間ですか?」
     本当に失礼なことを尋ねましたがスオウは顔色ひとつ変えずに答えます。
    「そうなんじゃないの? 断面図とか見たことないから断定できないけど」
    「ひえ」
    「ま、とにかく生還できただけでも大したものよ。良かったわね、そしてアタシに感謝しなさい」
    「へ?」
     これでもかと分かりやすく首を傾げた青年に向かい、スオウはニヤリとほくそ笑み。
    「アンタがサイコレズに殺されかけた時にウチのギルドのギルドマスターが助けに来てくれたでしょ? 手引きしたのは他でもないアタシよ? いつもだったら黙って放置するけど今回ばかりはそうもいかないしねー」
    「この度は本当にありがとうございましたあ!」
     絶叫しつつテーブルに頭をぶつける勢いでお礼を述べました。事実本当に額をぶつけていました。
     声量が大きすぎるとはいえ心からのお礼は気分が良いもので、スオウは鼻を鳴らすのです。
    「常にアタシに感謝することね」
    「そりゃあもう! 本当に! はい! また今度、怪我が完治したら改めてお礼に伺わせてもらいます!」
    「立派な心構えだけど不用意にウチのギルドに近付くんじゃないわよ。じゃないとアンタ、今度こそ殺されるかもしれないんだから」
    「肝に銘じます!」
    「てかアンタも冒険者なんでしょ? こんなに怪我して大丈夫なわけ?」
    「全然大丈夫じゃないです! 仲間たちにすっごく叱られましたし!」
     なお、大怪我を負いつつも生還した青年に向けて仲間たちは「こんな怪我して明日からの探索どうするんだよ!」とか「お前の気功術なかったら探索できないだろうが!」とか「樹海の魔物に怪我負わされたなら仕方ないで済むけど告白した女に半殺しにされるのは百パー君の責任でしょう!」とか「色ボケあんぽんたん!」とか散々罵られたそうな。
    「俺が欠けてしまったせいでしばらくうちのギルドは樹海探索ができなくなってしまったから、仲間たちから白い目で見られまくってる毎日です」
    「アタシの忠告を聞かなかったアンタが悪い。甘んじて受け入れなさい」
    「ひん……」
     反論の余地のない青年から小動物のような鳴き声が生まれて消えました。
    「ま、アンタがメチャクチャ感謝してたってことはアタシからギルマス……というか傲慢女に伝えておくわ。アンタはさっさとその怪我を治して名誉挽回に努めることね」
    「傲慢女!? わざわざ言い直す必要ありました!?」
     驚愕の青年の言葉は無視してスオウは続けます。
    「で? 怪我を負った体になってもアタシの所に来たのは生存報告だけかしら?」
    「あっ、えと、その、今回は悲惨な結果で終わってしまったんですけど、やっぱり彼女は作りたいなっていうのはあるので、未来を……」
     と、ようやく顔を上げた青年。瞳の中に光はまだ宿ったままでした。
     スオウは、恐怖体験をしてもなお女性に恐怖を抱かなかった彼に、
    「……へぇ」
     ニヤリと不敵に笑いました。
    「ま、見てあげてもいいわよ。占いは二回目以降は有料になるけどそれでもいいならね」
    「で、ですよね! でも大丈夫です! お小遣いは持ってきましたから! 今度はアナタの言うことはちゃんと従います! なのでどうか! 占ってください!」
    「心意気は良し。怪我人だしまけてあげてもいいわよ? とりあえずひとくち一万エンね」
    「たけぇ!?」
     思わず本音が飛び出した青年にスオウは身を乗り出す勢いで彼を睨み、
    「うっさいわね! 安く使わせてやるほどアタシの技術は簡単なモノじゃないんだから当然の値段設定でしょ! やるの!? やらないの!? どっちなのか答えなさいよ!」
    「お願いします! でもできれば分割払いでお願いしたいです!」
    「よし乗った」
     こうして、命知らずな恋を終えた青年はスオウのリピーターになったのでした。
    「でも、アナタのギルドマスターさんも素敵な女性でしたね……ああいうクールビューティーなタイプもいいなあ……」
    「アイツ不倫歴あるからやめた方がいいわよ」
    「やめます!」
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    🙏
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    ナナ氏

    DONE【世界樹X】付き合ったばかりのクレナイとカヤが夜にトラブルに見舞われるお話
    (花ショー×ショタパラ(女性設定)の百合)
    ※直接的な表現はないけど背後注意、強姦を思わせる描写あり
    秘めた想いの攻防戦 カヤとクレナイが交際を始めてから一週間が経ちました。
     若い二人の初々しい交際……やりたいことやしてみたいことが溢れ出てくるような毎日、過去の悲しい記憶を塗り替えるような楽しい日々。
     その中で、思うことがありまして。

    「クレナイさんのことだから、そろそろ性行為がどうとか言ってくるんだろうな……交際前は怪しいぐらい何もしてこなかったというか意外なほど誠実だったけど、そういう話題は好きそうな感じだったからいつ誘ってきてもおかしくない……もう私から誘った方が……? いや、こっちがガツガツしてそうで嫌だなあ……」

     そう考えるカヤ。

    「カヤちゃんと……したい……! しかし、カヤちゃんは性的交渉にトラウマを持っている子。本当なら今すぐにでも押し倒したいものですがご法度、迂闊に事に及んでしまってはフラッシュバック等を発症してしまう恐れがありますわ。事は慎重に進めなければなりません。カヤちゃんから誘ってくれれば話は早いものですが…」
    18189

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