【2】モブの指先。「いたっ」
ノートを捲るときに指先が痛くてつい声に出た。
「どうしたモブ。指に何かあんのか?見せてみろ」
師匠にちょいちょい、と手招きをされて呼ばれた僕は、師匠のデスクの前に移動をした。
「昨日からここがささくれちゃって痛いんです」
「お前、ちゃんと手入れしてないんだろ?あー爪も伸びてるじゃねぇか。ほら、ここに来い。切ってやるから」
言われるままに師匠の膝に座って手を差し出す。
「師匠の爪は綺麗ですね」
「当たり前だろ。お客サマをマッサ……ぅゔん、除霊する時に誤って傷付けないようにだな。あと、お祓いグラフィックするときも爪が長いと効率が悪いからな」
そうなんですか、と僕はぼんやりと師匠の声を聞きながら切ってもらっている爪先を見ている。
「モブは部活で手を使うことも多いんだろ?意外と掌の皮が硬いな。豆も出来てる」
頬っぺたはもちもちなのに、手はもう男の手をしてるな〜なんて言いながら師匠は僕の爪切りを続ける。
「はい。ダンベルを握ってますからね。その時に皮が剥けたりもします。あ、師匠の指かっこいいですね。角張っていて。それになんか指がツヤツヤしてる」
あぁ、それならこれも塗ってやるか、と引き出しから師匠は何かのチューブを取り出して僕の手に塗り広げた。それの蓋を開けると柑橘系の爽やかな香りがする。
甘爪もマッサージしてやるといい。逆剥けにもなりにくいんだぞ、師匠は説明を続けているけど、僕は手を揉み揉みして貰うのが心地よくて段々眠たくなってきた……。
「うぉっ!?」
「あ、失敬」
「モブ、超能力で体重軽くしてたのか?通りで重さあんまり感じなかったはずだわ。つーか今居眠りしてた?」
「へへ。僕もう14歳ですからね。それなりに重たいですよ」
あんなに小さかったお前がな〜、と師匠は言う。僕も師匠の手を見ていたら、師匠とあまり変わらなくなった自分の手の大きさに嬉しくなってきた。
「お前ら、また何やってんだ?」
事務所の扉をすり抜けてエクボが入って来て呟いた。