[廃ビルの一室]
繋がらないトランシーバーを握りしめる沢渡。
仲間との連絡がつかなくなり、時折音割れのした雑音だけが流れてくる。それは自分の同僚達が何らかのトラブルに見舞われ…最悪の場合全滅したことを意味している。
自分は元々現地での内通者役。某国の工作員の面々とは最低限の面識しかなく、大して知った仲というわけでもない。そのため心が痛むわけでもなかったが、この状況で孤立することになんの支障もないかと言われれば嘘になる。
沢渡は表情を変えることなく、いつもの冷ややかな目線で自分の左手を眺めた。
爪の剥がれ落ちた指だけが痛ましく並んでいる。
「う、ぐ……?」
部屋の隅で呻き声が上がる。
寝起きの倦怠感と頭痛に顔を顰めながら、男はゆっくりと顔を上げた。
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