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    消火栓下のうさぎ

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    ネームの続きがどうしても書けないので小説形式

    書きかけ

    妄想の塊なので整合性は一切ないです

    [廃ビルの一室]

    繋がらないトランシーバーを握りしめる沢渡。
    仲間との連絡がつかなくなり、時折音割れのした雑音だけが流れてくる。それは自分の同僚達が何らかのトラブルに見舞われ…最悪の場合全滅したことを意味している。
    自分は元々現地での内通者役。某国の工作員の面々とは最低限の面識しかなく、大して知った仲というわけでもない。そのため心が痛むわけでもなかったが、この状況で孤立することになんの支障もないかと言われれば嘘になる。
    沢渡は表情を変えることなく、いつもの冷ややかな目線で自分の左手を眺めた。
    爪の剥がれ落ちた指だけが痛ましく並んでいる。

    「う、ぐ……?」
    部屋の隅で呻き声が上がる。
    寝起きの倦怠感と頭痛に顔を顰めながら、男はゆっくりと顔を上げた。
    サムライソード、近い将来その名で呼ばれることになる彼は、自分の置かれた状況を把握しようと痛む頭を捻っていた。
    路地で出会った女のせいで、デビルハンター同士の戦いに巻き込まれた。
    チェンソーの悪魔…デンジのペットのことを知ってる様子だったので、問い詰めてみたら返り討ちにされた。
    そのまま隠れ家の廃ビルに連れ込まれ、飲まされた缶コーヒーに睡眠薬が…

    なるほど、おそらくこの頭痛は薬の副作用ということだろう。

    「てめぇっ…」
    件の女デビルハンター…確か名前は沢渡アカネ、その女が今まさに自分の顔を覗き込んでいる。
    女を痛めつける趣味はないが、状況が状況だけに一発殴ってやりたい気分だった。
    そしてそれが出来ないとわかっているので、余計に腹立たしい。と同時に、背筋に冷たいものが走った。
    怒りと同時に頭が冴えてきて、自分の置かれている状況は瞬時にわかっていた。
    古びた金属製の椅子に座らされ、手足は縄で縛られている…それだけなら多少暴れて見れば拘束が解けたかもしれない。しかし、どうやらご丁寧にも椅子が床に溶接されている。
    ヤクザものの端くれとして、これがどういう状況かはよくわかる。尋問、あるいは拷問の始まり。

    「目が覚めた?」
    初めに会った時から変わりのない、感情の読めない瞳がこちらを覗いている。
    悪態の一つでもついてやりたかったが、情けないことにまだ頭が回っていない。
    せめて精一杯睨み返してやろうと眉を顰めていると、女が妙なものを突き出してきた。

    「読んで」
    顔の前に差し出された紙の束。何かの書類、研究記録?
    沢渡を睨みつけてやるはずが活字の山と睨み合う羽目になり、思わず狼狽えたが、どうやら状況が好転したというわけでもないらしい。書類に添えられた幾許かの写真…そこには明らかに異形の人間が写っていた。
    不出来なホラー映画よろしく、医療台に縛り付けられ、解剖された様子で血に塗れている。しかし、頭部が明らかに人間の形状をしていない。
    率直に言って、首から上の容貌は悪魔だった。

    「これはある国で作られた兵器の記録。
    数少ない生存体のね」
    「兵器…魔人ってやつとは違うのか?」

    置かれた状況よりも好奇心がまさったのか、思わず尋ね返してしまっていた。
    「魔人じゃない。死体を乗っ取った悪魔のように頭部の形状が異形化していはいるが、見ての通り変異の度合いが違う。そして何より…彼らの"中身"は紛れもなく人間だ」
    怖いもの見たさ、という点ではまさにホラー映画のような
    沢渡の語る言葉にはどこか魅惑的な、そして危険な香りが漂っていて、そこからはただ黙って話を聞き入れるばかりだった。

    「かつて 大陸で最初のデビルハンターが活動を始めたとき
    彼女は悪魔と契約し使うのではなく 悪魔と人が一体となった極めて特殊な存在だった。

    人の人格を保ったまま悪魔の力を振るう能力。
    当然世界各国がその力を欲し、真似事をし続けたけれど、今のところマトモに成功した例なんて数えるほどもありはしない。
    ほんの一握りの成功例も 悪魔の器としての負荷に耐えきれず大半は自壊していった。
    安定して力を保てるような完全な武器人間なんて、多分今は力のある国に1体ずつ保有されているくらいだろうな」


    「悪魔の力…」

    「そう お前の目当てのデンジと同じ状態」


    「数週間前、某国から数人の悪魔使いと共に、調整の終わったばかりの兵器…武器人間が送られてきた。
    日本国内にあるチェンソーの心臓を奪取するための戦力としてね。
    私はそれを現地で手引きをする協力者。
    でも実戦に投入された武器人間は戦闘の負荷に耐えられず、いきなりガタがきた。内側から悪魔に食われて自滅…」

    そして沢渡と仲間たちは、某国政府からの次の指示を待つため、日本国内で待機することになった。
    しかし悪魔が闊歩するこの世界で、どんなトラブルも想定しうる。
    まさかこんな形で仲間の消息が途絶えるとは、思ってもみなかったが。

    「おそらく増援の入国はない 私は下請けの駒として使い捨てられる」
    その言葉に、彼はほんのわずかながら安堵した。一貫して無感情だった沢渡の口調に、ようやく感情の一端が感じられたからだ。おそらくは焦り…出会ってからここまで隙の垣間見えることのない女だったが、人並みに焦燥はするらしい。
    あるいはそこを突けば、この状況を打開することもできるのでは…
    そんな甘い考えは、よぎった端から脳裏を締め出されることになった。

    「だから正直時間の余裕がないんだ。 
    悪魔の心臓を奪われる前に、手当たり次第にでも 武器人間の製造を始めないといけない…」

    ああ、これはまずい。
    寝起きの頭でもはっきりと察しがつく、この女が何を思って自分を誘い込み、ここに拘束しているのか。

    「ちょうど被検体が欲しかったんだ。
    お前はちょっと頼りないけどガタイも良いししぶとそうだから 案外良い素体になるかもしれないな」

    「お おい ちょっ待て…」
    __________


    会話はそこで途切れた。
    再び眠らされたわけでも、問答無用で手術台送りにされたわけでもない。
    ただ凄まじい音と衝撃で脳が揺さぶられ、自分が置かれた状況が再びわからなくなってしまっている。
    目の前を覆う粉塵、天井から降りかかる瓦礫、火花を散らす配線。
    咳き込みながら何とか把握できたのは、闖入者が床下から現れたということと…今そいつが天井に突き刺さっているということだ。


    「あっ見つけた!
    首横取りした蛇の飼い主」

    不協和音のようなその声は、おそらく頭上にぶら下がった巨大な刃物から聞こえてくるのだが。
    なるほど、よく見れば三日月状の刃の中央には人間のように唇が付いている。
    それを視認できた次の瞬間、そいつは刃についた鎖に引き戻される形で床下へと戻っていった。ただし、突き破った穴をそのまま潜り抜けるような上品な真似をするはずもなく、力任せに床をぶち抜いて。
    再び凄まじい衝撃が走り、今度は完全に足場が崩落を始める。


    幾度目かの前後不覚。
    何せ椅子に縛られたま宙に投げ出されたのだから、平静を保てと言われたって無理な話だ。
    それでも彼が無傷でいられたのは、体に巻き付いている長い物体が自分を抱きとめてくれたからだろう。
    落下の寸前に沢渡が「蛇」を呼んだのだ。砂塵が落ち着くと、当の沢渡も蛇体の悪魔に体を預けて墜落から逃れているのが見えた。

    暗い。何階層か落下したのだろうか。
    時刻はとうに深夜を回っているはずだが、落ちてきた穴から差し込む微かな光のおかげで、かろうじて周りの様子を伺うことができた。
    地下駐車場…かなり奥行きがある。廃棄されているのか違法駐車か、未だまばらに車が停められているのでそこまでは理解できる。
    そして今しがた遭遇した刃物のようなバケモノ、あれは確か…


    「くそっ あのじじいこんな知性の低い悪魔と契約しやがって!」
    どこかで聞いたような怒声が聞こえてくる。
    見ると二人組の男が、暗闇の先で何かと必死に格闘していた。あの制服は、おそらく沢渡と出会った際に見かけた公安のデビルハンターだろう。

    沢渡達と交戦していた彼らは、居合わせた民間のデビルハンターと共に戦っていたが、その老人は沢渡が蛇の悪魔で仕留めたはずなのだ。なのに何故か契約していた悪魔が姿を消さず、その場に留まり無差別に暴れ始めた…
    公安のデビルハンターとして放置するわけにもいかず、彼らも悪魔を追ってこの場に辿り着いていた。

    そして公安側が契約していた蟷螂の腕の悪魔は、ちょうどいま、刃物の化物に切断されて地面に倒れ込んだところだった。手際のいいことに、契約していたデビルハンターの首も同時に切断されて宙を舞っている。

    仲間の死を確認したもう一人のハンターは撤退を決意したのだろう、悪魔から離れるように後退り始めた。
    が、後ろから襟袖を掴まれて体勢を崩した。
    次の瞬間、近くの柱に刃物の悪魔が突き刺さり、大量の瓦礫を周囲に撒き散らしていた。

    「あぶねえな…ちょうどいいとこにいてくれて助かったぜ」
    いつの間に縄を解いたのか、彼は公安の男の後ろから礼を言った。肉壁にされた男に彼の声が届いているのかは怪しいところだが。

    「真っ暗で何も見えやしねえ…おい、何がどうなってる!」




    沢渡アカネは通路の中央に立ち、じっと闇の中を見つめていた。
    さっきの悪魔は「首を横取りした」と喋っていた…蛇の悪魔で契約者の首を食いちぎったことで、おそらくあの悪魔から何らかの恨みを買ったのだろう。
    何にせよ、狙いが自分なのであれば話がわかりやすい。相手が襲いかかってきたところを迎撃するのだ。

    そしてやはり、沢渡めがけて鎖を引きずるような音が近づいてくる。
    そちらの方向を見ると、微かに光を照り返しながら三日月状の刃が迫ってきていた。
    左手をかざし、瞬きもぜず沢渡が口を開く。

    「蛇 丸呑み」

    勝負は一瞬でついた。
    飛来する刃よりさらに高速で飛びかかり、真正面から飲み込むと、蛇の悪魔はそのまま闇の中へと消えていった。

    沢渡の鼻口から、赤い線がつうと垂れ落ちてくる。
    この時初めて、彼女の表情がはっきりと青ざめた。



    爆風。 閃光。 降りかかる瓦礫とガラス片。
    一体何が起きたのか。衝撃から我に帰った彼の目に映ったのは、炎上する自動車と、そこから鎖に引きずられて戻っていく刃の悪魔。そして、地面に倒れている沢渡アカネの姿だった。

    「おい…お前なにしてんだ!」
    正直この女が倒れている姿など想像もしていなかった。
    駆け寄って見ると、割れた窓ガラスによる切り傷か、脚から出血している。見たところそれ以上のことはわからない。打撲、骨折、脳震盪か…とにかく、彼の目に映る沢渡はひどく血の気が無かった。
    かける言葉に詰まりながら顔を上げると、あまり喜ばしくないものが目に飛び込んでくる。

    燃え上がる車に照らし出され、今まで闇の中にいたものの姿が浮かび上がっていた。
    自分達を襲ったのと同じ、鎖のついた三日月上の刃の悪魔…それと同じものが都合三体ぶら下がった巨大な肉塊が、駐車場の天井に接する高さで浮かんでいた。

    こうなるともはや考える前に体が動く。
    両腕で沢渡を抱き抱えると、できるだけ炎から遠い闇の中へと一目散に走りぬけた。

    「おい、しっかりしろ!」
    駐車場の柱の影に身を隠すと、改めて沢渡の様子を見る。
    全身の血を抜かれたように顔が白い。脚からの出血自体は大したものではないはずなのに。
    微かに呻き声を上げているから、かろうじて死んではいないようだ。
    彼は懐からハンカチを取り出すと、辿々しく沢渡の脚に巻き始めた。
    「と、とにかく止血だ止血…そしたらさっきのでかいので呑み込んじまえ」

    「…蛇はもう出せない」
    それは弱々しい声だったが、彼の耳には確かにそう聞こえた。
    「なに…?」
    「力の強い悪魔は呼び出すたびに対価を要求する…
    ここ数日で蛇を使いすぎた… もう差し出せるほどの対価とと体力が残っていない」
    力なく目を開くと、愕然とした男の顔を見つめて彼女は言った。
    「さっきのが最後の1発だったんだ」

    息も絶え絶えに言葉を紡ぐ沢渡を見て、彼の額からも血の気が失せ始めていた。

    「本体を見誤った 私の負けだ」

    死を受け入れる、というのはまさにこの感覚を言うのだろう。
    自分の気持ちに先行して、どうしようもなく体の感覚が薄れているのを感じながら、沢渡はもはや逃れられない死期を察していた。
    自力で逃げる事は不可能、どう足掻いても自分はあの悪魔に殺されて終わる。

    「お前はもう逃げていいよ 運が良ければ生きて帰れるかもしれない」

    柄にもないことを口走る。
    実際今更この男をどうこうすることなどできないのだが、それでも態々気に掛けるような言葉が出てくるのは、我ながら奇妙だった。死ぬ寸前になって湧いてくるこの感情は、もしかしたら、どうしようもない寂しさだったのかもしれない。

    「んなこと言ったって、お前はどうすんだよ」

    男の口からも到底柄とは思えない言葉が返ってきて、沢渡は思わず微笑した。

    「…変なヤクザ」

    この空気に当てられて、お互い気が変になっているのかもしれない。
    男に抱き上げられながら、沢渡がか細い声で言葉を紡ぎ始めた。
    目を瞑り、眠りにつくような表情で。

    「ごめんね…あんたの爺ちゃんのこと酷く言って。
    あんたの爺ちゃんは幸せだと思うよ、あれだけ悲しんでくれる孫がいてさ
    いざ死ぬって思うと…誰からも気にも留められないのは やっぱさみしいね…」

    嘲笑されるだろうか、同情されるだろうか。
    しかし男の口から返ってきたのは、全く予想していなかった内容だった。

    「沢…おい、沢渡!
    どうすれば良いのか言え」

    どうすれば? この男は何を言っているのだろう。
    訝しむ沢渡に向かって、彼は話し続ける。

    「悪魔が必要ってんならやる、俺がなってやる。
    どうせこのまま生き延びたって糞デンジにも公安にも手出しできやしねえ…
    お前の言う通りにすりゃ悪魔相手でも負けねえってんなら、上等じゃねえか 願ったり叶ったりだ」



    武器人間の製造はいまだに不明な点が多い。
    確かにこの男を利用するつもりではあったが、それは虱潰しの予定の一部、しかもかなり投げやりな希望でもあった。

    それなのにこの男は…まさか自分から武器人間になる事を志願するなんて。
    これが平時なら信じられないものを見る目をしていただろう。けれど今は顔色を変える余力すらないし、なにより、なんとなく納得してしまっている自分がいる。
    この男に打算はない。極限すぎる今の状況が、その事実を鮮明に物語っていた。
    生きて帰る事すら危ういこの状況で、自分の命を天秤にかけてまで最後に望んだのは、あくまでも祖父の仇討ち…ああ、そういうことなのか。

    この男、ばかだ。

    ひたすらに馬鹿で愚直で、
    ただどこまでも爺ちゃんの事が好きな…おかしなヤクザ。



    そんな様を内心気に入ってすらいる自分に気づいて、沢渡アカネは心の中で苦笑した。


    「話した通り 上手くいくとは限らないよ」
    「急げ、もう時間ねえぞ」

    とうに覚悟が決まっていたのか、あるいは無鉄砲なだけなのか、やはり彼は本気だった。
    沢渡は一瞬考えこむようなそぶりを見せ、彼の顔を見つめて言った。

    「目を閉じて」

    言われるがままに目を閉じる。
    すると胸の辺りに奇妙な衝撃があり、妙に熱くなってきた。


    目を開くと、沢渡が彼の胸に短剣を突き立てていた。
    絶句する男の前に、沢渡が奇妙な肉塊を掲げて見せる。
    どこか生き物の顔のようにも見えるそれは、自らが生きていることを誇示するかのように鼓動していた。

    「これは 刀の悪魔の心臓。
    今から胸を切り開いてこいつにおまえの心臓を食わせる。
    受け入れられれば刀の悪魔はおまえの心臓と一つになり、人でも悪魔でもないものに生まれ変わる…

    でも大半の人間は許容できずに体を全部食い尽くされるけど。
    そうなったら死ぬしかない、お前も私も」

    思わず待てと叫びそうになったが、その時には既に短剣が彼の胸を切り裂いていた。

    刀の悪魔が孫の心臓に喰らい付き、侵食を始める。
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