年の初めのためしとて 市井の賑わいは、悪意を包み隠すのに丁度いい。何かとお祝いムードのこの時期、城内・外問わず人々が浮き足立っている。大小様々な門松を横目に、フリー忍者の山田利吉は忍術学園に向け歩みを進めた。淡々と任務をこなした結果として、報告すべき事柄が山ほど生まれたからである。
京の底冷えなど、氷ノ山に比べるまでもない。うんざりするほどの積雪がないだけで、こうも過ごしやすさに違いが出るのかと仮住まいを引き払いながら思う。さぞ煌びやかな商売がやりやすかろう。指先を真っ赤にし、ガチガチと歯を鳴らし、鼻水をすすりつつ雪掻きをする。そんな経験など、どうせしたことがないのだ。まあ、しないに越したことはないが――と、利吉は冬真っ只中の実家に思いを馳せる。秘境者コンプレックスがあまりに自然に顔を覗かせそうになり、少し焦った。
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