Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    真蔵(ポチ)

    @arc_maggots0120

    以前の原稿中に眺めて下さっていた
    心優しき方への御礼も果たせぬままに
    新しい原稿の季節になると言う大罪…!
    それでも人権は欲しいので、
    12月までに何かは出せるように
    逃げずにやっていきたく思います…!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🍤
    POIPOI 200

    真蔵(ポチ)

    ☆quiet follow

    7/11 23:05
    7500字ぐらい。
    漸く前置きが終わっていかがわしくなる流れになったけれど、これ本当に成立する??と言うか話として筋が通っている??あと前提にありとあらゆる注意書きが必要そう過ぎでは??てかここで終わりでも良くない??そもそもマジで何なのこれ???と私の中の解釈違い警察の私がずっと騒いで全然進まないので(※いつも)、進捗を植えると言う体で今書けているところだけ置いてみます…。

    (進捗ダメマン断末魔の続き)
    実際問題毎日原稿をやれている訳ではなくて、すーーーぐ脳内解釈違い警察の自分が騒いで詰まったり、時代考証やら時系列やらが良くわからなくなって詰まったりしてサボりサボりのダメ進捗なのですが、それでもずっと証拠が置けていないと自分自身でも本当に自分が何もやっていない気がしてくるので…『やってる感』は大事なので…(???)
    ただ、この怪しい断末魔植え畑を眺めて下さる方がどれほどいらして、そしてそんな心優しき方が読める内容なのかどうか…と言う、百個ぐらいハードルを乗り越えたところから始まるような内容なので、中身を置いたところで果たして読める方がいらっしゃるのかは全くわからないのですが!!まあ、もし運良く読める方がいらしたら「は~~今はこんなの書こうとしてるのか~」と暇潰しに眺めて下さい!
    『やってる感』!とにかく私は自分自身をごまかす為に『やってる感』が欲しいんだ!!(最悪)
    (断末魔終わり)





    ■尾形入隊直後ぐらいの時間軸、まだお互い相手を特に意識していないようなところから始まる話(でも当人に自覚がないだけで尾形は既に中尉が好きだし、中尉も尾形が気にはなっていると言う脳内の設定はある)
    ■名前も台詞も具体的な容姿の描写等も一切出てこないし尾形と接触する事もないけれど、複数人のモブ将校が尾形を性的な目で見て夜を共にするよう求める描写と、尾形が心底嫌がりながらも応じようと出向く描写があり、モブ鶴の要素もある
    ■尾鶴がいかがわしい事になる流れの話だけど、なる前までの部分しか書けていない
    ■注意書きに何を書けば良いかわからない人間が書いている



     志願兵として入隊してから大して月日が経たないうちに、どうやら俺が花沢中将と芸者との間に生まれた子だと言う話は師団の中で広まっているようだった。
     己の両親について俺自身は入隊の折りに鶴見少尉へ話したのみだが、上官と言う立場の人がそんな話を無遠慮に吹聴するとも考えにくい。そうなると一体どこから漏れたのかは不思議なのだが、実際に真実ではあるのでそれ自体は別に構わなかった。
     むしろいっそ、俺の入隊が噂としてでも父上の耳に入ればあちらから何か反応があるかも知れないとも思ったのだけど、流石に師団長などと言う高貴な身分の人までは届かないのかそんな様子は全くなく、ただ俺がその辺りの兵から半笑いで遠巻きにされる程度なのは残念だったが。
     だが、事はそう呑気に構えてもいられない話だったらしい。


    「……いま、何と仰いましたか?」
     話があると呼びつけられた鶴見少尉の執務室。
     そこで言われた言葉があまりに信じ難いものだったから、思い切り顔を顰めて聞き返してしまった。
     良く考えなくても上官にこのような態度を取ったら指導なり制裁なりが入るはずなのだが、鶴見少尉は俺の態度を気にした様子もなくもう一度それを繰り返す。
    「貴様の事を気に入った少佐殿が居て、今夜待合に来て欲しいそうだ」
    「…それはつまり、私に尻を貸せと言うお話ですか」
    「こら!下品な言い方をするんじゃない!」
     脳が理解をする前に言葉が口を滑り出てしまったら、今度はしっかり咎められた。
     次にこほんとわざとらしい咳払いをして、鶴見少尉は「あくまで先方の気持ち次第だが」と言いながら続ける。
    「まあ確かに…互いに親睦を深めるうちにそのような流れとなる事も、もしかしたらあるかも知れんな」
    「はあ……」
     やっぱり尻を貸せと言う話だ。よくもまあ、そんなおぞましい話を平気で部下に言えるものだとある意味で感心する。
     そう言う嗜好の人間が居る事も、軍隊のような縦社会では己の立場を平然と私欲へ利用する人間が居る事もわかってはいたが、いざ自分の身にその火の粉が降りかかってくると想像以上の嫌悪に思考が完全に停止してしまう。
     まるで感情のこもらない俺の相槌に、机の向こうの鶴見少尉が怪訝な顔をした。
    「尾形、貴様何を考えているかわかり辛いと良く言われないか?」
    「特に言われた事はありませんな」
    「本当か…?」
     鶴見少尉は納得しかねると言った様子で首を傾げる。そんな話に及ぶほどの長い会話を他人とする機会自体がなかっただけだが、嘘は言ってないだろう。
     それよりも俺にとって重要なのは目下の呼び出しだ。
     誰とも知らない少佐殿とやらに自分の身体を好きにさせるなんて絶対に嫌だが、だからと言ってただの新兵である俺がそれを体よく断れる手段などと言うものも今は何一つ思い浮かばなかった。
    「…先方は私を気に入ったと仰いましたけれど、何かの間違いではないのですか?」
     そもそも俺は入隊して以降、鶴見少尉以外の将校とまともに顔を合わせた事がないのだから、気に入るも何もないだろう。人違いと言う可能性に賭けてそう聞いてみる。
     たとえ人違いだったとしても、相手が「来い」と言えば従うしかないのは変わらないのだが。
     けれど鶴見少尉からの返答は俺の僅かな望みも打ち砕くものだった。
    「いいや、尾形百之助を呼べと名指しで言われたのだから間違いではないだろう。…あちらは元々貴様のお父上をご存じで、貴様の生まれに関する噂を聞いてご興味を持ったとの事だ」
     想像以上に最悪の理由を答えられて一瞬視界が眩む。
     その『興味』とやらがどう言った意味合いのものかは知らないが、何だとしても最悪だった。
    「………なるほど」
     俺の出自が広まるとこう言った事になるのか。腑に落ちた気持ちとなる反面、それではどうあっても断れそうにないどころか、下手をすれば今後もまた似たような呼び出しを受けるかも知れないなと胸の内が澱んでいく。
    「お前にそのつもりがあるのなら、上の人間と個人的な関わりを持つ事だけはそう悪い話でもないんだがなあ…」
     確かに自分が上手く立ち回れる自信があれば、この呼び出しを利に変える事も出来るのだろう。他人事のように呟く鶴見少尉の声と合理的な考え方に、ほんの少しだけ納得はした。
    「…わかりました」
     結局のところ、どれほど俺が嫌がったところでこの話には初めから拒否権など用意されていない。
     それでも無駄な抵抗を試みていた俺は、観念して選ぶ余地のない答えを選んだ。
    「そうか。では今晩一時にこの店に行きなさい。番の者には私が話を通しておくから」
    「はい」
     多分鶴見少尉が書いてくれたのだろう。店の名前と簡単な道順が小綺麗な筆致で書かれた小さな紙を渡される。
    「…ああ、肝心の相手方の名前を教えていなかったな。あちらのお名前は…」
    「いえ、結構です。どうせ私とは面識のない方でしょう」
    「それはそうだが…尾形、貴様そんな調子では出世せんぞ」
    「ははは」
     この不愉快な会話の中で鶴見少尉の困ったような顔だけは唯一おかしくて、俺は適当に笑ってから執務室を後にした。


    ■■■■■■■


     どうせ呼ぶならもっと早い時間に呼べよと、顔も名前も知らないどこかの少佐へ心の中で毒づきながら待合に向かう。
     就寝時間から兵舎を出るまでの数時間を「どうにかして無傷で夜をやり過ごせないか」の算段に費やしたものの、結局有効そうな案と言えば相手を酔い潰すかいっそ刀で刺して逃げるかぐらいしか思いつかなかった。
     前者はまだしも後者は流石に実行へ移す訳にはいかないので、相手が酒に弱い事を祈るしかない。もっと事前の時間があれば睡眠薬でも買いに行ったのだけど。
     とにかく募る嫌悪と殺意を引き摺って漸く待合の近くまで辿り着いた俺は、店の入り口に一人の女性が立っているのに気付く。
     客引きにしては質素な服装をしたその中年女性は何かを探すように辺りをきょろきょろとしていたが、俺の姿を見つけるなり「あっ」と微かな声を上げ、突然小走りにこちらまで駆け寄ってきた。
    「あんた、あそこの店に呼ばれた兵隊さんだよね?」
    「…あ、ああ」
     急に近付かれて面食らう俺をよそに相手は言葉を続ける。
    「店のお客さんから伝言を頼まれたんだけどさ、あんた今夜はやっぱり帰って良いそうだよ」
    「は…?」
    「私もあんたが来たらそう伝えるように言われただけだから、詳しい事はお相手さんに聞いとくれよね。とにかく、私はきちんと伝えたからね!」
    「あっ、おい…!」
     自分の言いたい事だけを一方的に告げた後、女性は「はーやれやれ」などとぶつぶつ言いながら俺に背を向けて店の中へと戻っていってしまった。
     残された俺は仕方なくその場に立ち尽くしつつ、今し方言われた言葉とこの状況を頭の中で整理する。
     あの女性は俺がこの時間に店へ呼び出された兵隊であると確認した上で、今夜は帰って良いのだと言った。こんな時間に待合へ向かう兵士なんてものが俺以外に居るとも思えないし、そうすると他の客への伝言を人違いで伝えてきた可能性はかなり低いだろう。
     あとは突然呼び出した上で帰れなどと言ってきた相手方の理由だが、正直それは俺にはどうだって良い。どんな事情にせよ俺が自分の上に他人を乗せる事とならずに済んだなら、また相手の気が変わって「やっぱり戻れ」だなんて言われる前にここから離れるほうが先決だ。
     うんうんと、自分の考えを正当化するように闇の中で頷く。
     そうと決まれば少しでも早く兵舎に戻って明日の為に寝ておこう。俺はこの妙な展開をそれ以上深く気にする事はなく、さっさと来た道を引き返した。


     一度目の呼び出しはそれで終わった。
     二度目に呼び出しを受けたのは、それから二週間が経つかどうかの事だった。
    「……またですか」
    「貴様は意外ともてるんだなあ」
     鶴見少尉から呼びつけられてそれを告げられた俺は死んだ目で呟き、目の前の彼はさりげなく失礼な事を言いながら愉快そうに笑う。
     考えるまでもなく、一度目の呼び出しが顔合わせすらなく反故になったならば日を改めて再び呼ばれる可能性は十分にあった。
     わかってはいたけれどあえて思考の外に置いていた事が現実となってしまい、俺は自分の姿勢が悪くなっていくのを感じる。
    「…少尉殿もこんな事の橋渡しをさせられて災難ですな」
     本心と八つ当たりを半分ずつ交えてそう言うと、鶴見少尉は何でもない事のようにまた笑った。
    「私の可愛い兵士達へ、私を飛び越えて手を出されるほうが厄介だからな」
    「はあ」
     果たしてそう言うものなのだろうか。良くわからないので曖昧に頷く。
    「それで今回の将校殿だが…」
    「今回の?」
     まるで見合い話でも進めるように相手の紹介へ入ろうとした鶴見少尉の言葉を思わず遮ってしまう。
     てっきりこの間の少佐が仕切り直しを求めてきたのだと思ったが、どうにもそうではないらしい。
    「うん。先日の少佐殿はもう満足したとの事でな、今回の話はそちらとは別の方だ。なんと今度は中佐だぞ!」
     なんと、と嬉しそうに言われても俺には何の感情も湧かないし、それ以前に俺の頭の中は鶴見少尉の返事から広がった疑問符で一杯だった。
     満足も何も、俺はそいつと会う前に帰されているのだ。まさか世の中には、夜半に呼び出した相手を顔も見せずに追い返す事で満足する輩と言うものが居るのか?
     訳がわからず混乱する俺を余所に、鶴見少尉はどんどん話を進めていく。
    「まあ今回も貴様と直接の面識はないが、あちらからの話を聞く限り人違いではないだろう。時間と場所はこちらだな。名前は……」
    「…いえ、興味はありません」
    「だろうな!」
     店と時間の記された紙切れを受け取りながら言い切ると、予想通りの返答がよほど面白かったのか鶴見少尉は前と違っておかしそうに笑い声を立てる。
    「ではまあ、頑張って気に入られて来なさい」
     そう言えば俺は鶴見少尉へ前回の呼び出しが反故にされた事を報告していない。だから恐らく俺はこの人に、前回の呼び出しを『嫌がっていた割には上手くやり通した』と思われているのだろう。
    「……この辺りに象でも眠る睡眠薬を置いてる店はありませんかね」
    「さあなあ」
     俺が他人に尻を貸していると思われる事も、それを『上手くこなせている』と思われる事も酷く不服で最後に半ば本気で聞いてみたが、鶴見少尉は適当に笑うだけだった。


    ■■■■■■■


     その夜に向かったのは前とは別の待合だったが、信じられない事に俺はまた、店に入る手前で店の者から「帰って良い」との伝言を伝えられて追い返された。
     それどころではなく、次の、更にその次の呼び出しでも、店も時間も相手さえもみな違うのに俺は門前払いを受け続けた。
    「……嘘だろ?」
     通算四度目の門前払いを食らい、それを告げてきた女性が店に戻るのを眺めた後に思わず呟く。
     一人目二人目は心変わりか偶然かも知れないと納得出来たが、これで四度目となればどう考えても流石におかしい。それを言ったら顔も知らない俺の尻を借りようと呼び出す人間が四人も居る事自体がおかしいのだが、それ抜きにしてもこれは妙だろう。
     将校達の間では花沢中将の妾腹を待合に呼びつけて追い返す遊びが流行っている…などと言う理由でもない限り、これはもう俺の知らないところで別の思惑が動いているとしか思えない。
     とりあえず、今夜俺を呼びつけてきた奴を捕まえて聞き出せば何かしらの情報は得られるはずだ。
     得体の知れない門前払いを四度も受けた苛立ちからそう決めた俺は、一度大人しく引き返す振りをしてからこっそりと戻り、店の向かいの路地へ身を潜めて将校殿とやらを待ち構えてやる事にする。
     運良く明日は日曜だから、たとえ明け方までに相手が出てこなくとも待っていられる時間はある。
     そう考えたところで、これは運が良いのではなくて相手が『そのつもり』で曜日を選んだ結果なのではと思い至ってやや気分が悪くなったが、とにかく俺は路地の端に腰を降ろした。


     店から人の出てくる気配がしたのは大体十五分ほどが経った頃だった。
     これまで一体どのような理由で追い返されてきたかもわからない以上、この待ち伏せが長丁場になるか否かも全く予想がつかなかったが、思ったよりも中途半端だ。
     となると無関係な他の客だろうか。普通に店を出るにしたって些か妙な時間ではあるが。
     頭の隅でそんな事を考えながら出てきた人影を注視して、その顔を確認するなり俺は二、三度瞬きをする。
     次に目を擦って良く見直してみたが、そんな事をしたところで結果が変わる訳もなく、俺の視線の先に居るのはどこからどう見ても鶴見少尉だった。
     何故鶴見少尉がこんなところにと言う驚きと、まあそうだろうなと言う納得が折り混ざって胸に渦巻く。
     俺が今夜ここに呼び出された事や時間を知っているのは相手の将校以外には鶴見少尉しか居ない訳だし、どのような形であれあの人が関与していると言うのは考えてみれば当たり前の可能性ではあった。
     始めの驚きを納得が塗り潰したところで、俺は気配を殺して鶴見少尉の後を追う。
     もっと待てば相手の将校も出てくるのかも知れないが、俺の疑問の全てに答えられるのはきっとあの人のほうだろう。
     そう思い、彼が店から十分に離れるのを見計らう。
     そして後ろから名前を呼んで驚かせてやろうとしたところで、残念な事にこちらの名前を呼ばれてしまった。
    「──思ったよりも遅かったなあ、尾形。貴様なら三度目までには気付くかと思ったんだが」
    「……狙撃手と言うのは慎重なものですから」
     人通りの多い昼間ならまだしも、こんな夜更けに軍人相手に尾行してばれないほうがおかしい。どうせ始めからわかって遊んでいたのだろうなと言う声で彼が声を掛けてきたから、反射的に負け惜しみを返してしまった。
     俺の返事に鶴見少尉がくすくすと笑いながら振り返る。
    「それで、こんな時間まで私を待ち伏せて何の用だ?」
     俺が後を追ってきた時点で用件などわかっているだろうに、白々しくそう言って彼は俺のそばまで近付いてきた。嗅ぎ慣れた鶴見少尉の匂いの中に、僅かだけ記憶のない匂いが混ざっている。
    「四度も私の相手を寝取るとは、一体どんなおつもりかと伺いたくて」
     もしかしたらただ同じ場に居ただけで、俺が考えるような事は何もなかったかも知れない。
     声を掛ける間際まではほんの少しそうも思っていたけれど、昼よりもずっとゆるく撫でつけられた前髪が振り返った拍子に揺れ、いつもならきちんと一番上まで留められている襦袢の釦が外されているのを見たら、言葉が喉を滑り落ちていた。
     制裁どころでは済まない俺の無礼な問い掛けを、鶴見少尉は否定しない。
    「おや、貴様は乗り気ではないと思っていたが?」
    「だからと言って少尉殿が横から取っていく理由にはなりませんでしょう」
    「言っただろう?上と繋がりを持つ事だけは悪い話ではないと。だが貴様はそれが要らんようなので、代わりに私が有効に利用してやったと言う、それだけの話だ」
     あれは皮肉でも悪趣味な冗談でもなく、この人の経験に基づいた価値観からの助言だったのか。鶴見少尉の言葉で腑に落ちてしまうと同時、言いようのない不快感が俺の胸元をじっとりと撫でていく。
    「それで連中に尻を貸したんですか」
    「適当に酒でも飲ませてお帰り頂く事も出来なくはないが、満足させねば『次』には繋がらんからなあ」
    「……立派な上官殿も居たものですな」
     得体の知れない苛立ちと嫌悪が湧いてきて吐き捨てたら、鶴見少尉は何が面白いのか「ふふっ」と笑い声を立てた。
    「どうした?拗ねているのか、尾形百之助」
     自分の行いが軽蔑されているだとかではなく、俺が拗ねていると判断するだなんてこの人の頭の中はどこかがおかしい。
    「私は…あなたはもっと真面目な方かと思っていたのですが」
     清廉潔白とはいかずとも聡明で理知的、軍人らしい合理的な冷徹さや剛胆さもあるが自分を慕う下士官や兵達を無碍に扱う事はなく、むしろ状況が許せば下の者と軽口を交えて会話する事を好むような親しみやすいところもある。
     俺から見えた鶴見少尉と言う人はそんな印象で、かつて母から繰り返し語られた『立派な将校さん』と言うものに一番近いのはきっとこの人なのだろうと、何となく思っていた。
     だからだろう、個人的な会話と言うものは待合への橋渡しをされている時ぐらいしかなかったが、それでも俺はこの人の事がそう嫌いと言う訳ではなかった。
     けれど実際の鶴見少尉と言う人は、俺が勝手に思っていたほど立派でお綺麗な方ではなかったらしい。
     胸の内で質量を増していく不快感を言葉にして吐き出すと、心外だなと言う顔で彼が僅かに肩を竦める。
    「…褥を共にすれば大概の人間は相手に情を抱く。情報であれ資金であれそれ以外であれ、そこから得られるものは決して少なくない。私や、私を慕ってくれるお前達の為にそれを手に入れようと言うのは、さほど不真面目な判断ではないと思うんだがなあ」
     目的の為に使えるものを使っただけだと悪びれもせずに言い切る姿に、俺は自分の周りの空気がざらついていくような錯覚を覚えた。
     俺だって、彼の言い分が全くわからない訳ではない。結果的には俺が彼から身を挺して守られた形ですらある事も理解出来る。
     それでも得体の知れない不快感と違和感、そして苛立ちが拭えないのはきっと、この人が俺を利用して将校達へ身体を開いていたと言う行為自体への嫌悪なんだろう。
    「……では、私にも分け前を頂けませんか」
    「うん?」
    「鶴見少尉殿が得られたものとやらの幾つかは私のお陰でもあるのでしょう?でしたら、私がその分け前を頂く権利もあるはずだ」
     胸に灼けつく苛立ちのまま、俺は自分でも稚拙な要求だと感じながらそう述べる。鶴見少尉は一瞬驚いたように瞬きしたものの、すぐに瞳を細めてくすくすと笑った。
    「ふふ…貴様も存外強かなんだな。まあ、構わん。情報は渡せんが資金なら多少の融通はしてやろう」
     自分の貞操観念を咎めた部下がその口で分け前を寄越せと言ってきた事が、彼としてはおかしくて仕方がないらしい。或いは俺が自分から共犯を望み、口止めの手間が省けて楽が出来ると思ったか。
     愉しそうにこちらの要求を飲んでみせた鶴見少尉が話はついたとばかりに再び俺へ背を向けたので、俺はその腕をぎゅっと掴んだ。
    「尾形?」
    「…金なんて要りません。そんなものより、将校達をたらしこむあなたの手腕と言うものを私にも少しばかり教えて下さい」
     振り向いた彼の目を見てそう告げる。
     上官を相手に面と向かって尻を貸せと言うなどいよいよ制裁どころの話ではないが、俺ばかりがこの人から一方的に利用される格好となったままで居るのは我慢がならないのだから仕方がない。
     俺にはこのぐらいの要求をする権利があり、この人の行いにはこのぐらいの屈辱を受ける謂われがあるのだ。
     俺が投げつけた言葉と視線に、鶴見少尉は今度こそ驚いてぱちぱちとその長い睫毛を瞬かせる。
     そして幾らかそれを繰り返した後、俺の耳元へ顔を寄せて静かに囁いた。
    「─…いいだろう。相手をしてやろうじゃないか、百之助」
    「…ッッ…!」
     それまでの人をからかうような声色とは明らかに違う、濡れた低い声を鼓膜へと吹き込んで、鶴見少尉は咄嗟に離してしまった俺の手を自分から掴み直して歩き出す。
     待合でも兵舎でもない方向へ歩き始めた彼の背中を慌てて追う俺の頭の中では、最後に呼ばれた自分の名前がずっと反響し続けていた。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    🇱🇴🇻🇪💒👏😍👍💘💘💘💘😭👏👏❤💕💖💞💘💗💞💖💕💘👏
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works