花屋の花子と新米警官のお寧々のハナシ様々な店が立ち並ぶ路面電車通りに面したその一角、とある花屋で花子は働いている。
物好きな店主の意向で、こじんまりとしながらも春先は色鮮やかに様々な花を、秋から冬は椿を主に取り扱うという一風変わった花屋だ。
学生時代のアルバイトから世話になってそのまま就職。忙し過ぎず、暇過ぎずなこの平和な仕事は正直向いていると思う。まあ、花束のラッピングは未だ独創的?ゲージュツテキ?すぎてまだやらせて貰えてないけど、それは置いといて。
今日も客足が一旦落ち着いたところでそろそろ水の取り替えしなきゃな と店の前に足を踏み出せば、いつもの彼女がいた。
「あれ、ヤシロ?こんにちは。制服ってことは今見廻りかな、お疲れ様」
「こんにちは花子くん!そうなの、今日も街の平和のためにパトロール中なのです!花子くんもお仕事お疲れ様」
えっへん、と誇らしげに胸を張りながらもこちらへの気遣いも忘れない律儀な彼女は、すぐそこの交番に勤務する警察官だ。といってもまだまだ新米警官、この前なんて無断駐車を注意すれば「うるせえ黙っとけ税金泥棒」だの、「ダイコン足」だのと罵倒されたらしい。「私は大根足じゃなーい!!」と泣く泣くファミレスで愚痴を吐く彼女に何度召喚されたことか。
………いや、この前の召喚は彼氏ができないことの愚痴だったな……「勤務先は筋肉ムキムキのマッチョ警官ばかりでタイプじゃないんだもん」の言葉にすこし安心したのはここだけの話。
「今年もここの向日葵綺麗だね!小さめだからお部屋に飾りやすそう」
「ミニ向日葵って言ってね、普通の向日葵より小ぶりで花束のプレゼントとして買われてくお客さんも今時期はよくいるよ」
「へえ〜!花束のプレゼントって素敵!いつかは私も沢山の花束と一緒に愛の告白とかされた……ってあーーーー!!時間!レポートもあるのに就業時間に間に合わなくなっちゃう!」
先ほどまでのポヤポヤはどこにいったのか、時間を確認して慌てた彼女も俺はもう何度も見ている
「まぁた深夜まで居残り残業デーになっちゃうよ〜?ホラ新米さんがんばれがんばれー!」
「もうっ!今日は絶対残業しないもん!」
乗ってきた自転車に跨ってじゃあまたね!と彼女がいいかけたところで、俺は前のカゴに手を掛け、彼女の耳元に口を近づけた。
「じゃあこのあと、俺の部屋で待ってるから」
ガンバッテ♡とそっと離れると彼女はボッと顔を真っ赤にして「〜〜〜っからかわないで!!」と叫びながら去っていった。からかっているつもりないんだケド
今日もダメか〜と諦めて店に戻ろうとしたその時、
「花子くーん!19時ならいいよーー!!」
なんて大声が聞こえて。
少し離れたところからもわざわざ伝えてくれる彼女は、やっぱり律儀だと思った。