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    【モブブラ】過去ワンライ参加作そのまま(全年齢)
    第17回 「魔除け」
    ※盗賊団の昔の話。何もかも捏造。少しだけ真っ当なモブ

    第17回 「魔除け」 ひゅおおおお、と吹き荒ぶ風が鳴く。叩かれたように赤く色づいた耳と白く立ちのぼる呼気。一段と冷え込む季節になったこの時期は、北の国各地で冬を越すための魔除けの祭が行われる。
    元々は人間どもが生きていくには厳しい北の自然のなかで来春までの無事を祈りあう儀式が始まりのそれ。けれど自然の厳しさは人間魔法使い問わず平等に振るわれること、魔法使いは心躍ることに目がないことなどからいつしか人間の風習だったそれに魔法使いも紛れては各人の縄張り下で祭として取り入れられるようになっていった。
    それはここ、死の盗賊団でも同じく――
    「ボス! ここの飾りはどこに仕舞いましたっけ」
    「ワイン樽置いてる部屋の更に奥の湿気た部屋だ、ってこれ去年も言わなかったか」
    「干し肉ってこれだけしかねえの?」
    「そこにある分で足りなけりゃ街まで買い出し行ってきな!」
    「なあなあなあ、今年は誰が射止めんだろうな」
    「おっまえ去年選ばれたからってよお」
    「おいお前ら、口より手え動かさねえと終わらねえぞー」
     お馴染みの行事となって久しい祭の当日。今日は朝からボスも込みで盗賊団の全員が一夜限りの祭の準備に取り掛かってはひっきりなしに右から左へと声が飛び交う。
    久々の全員そろっての休暇に団員たちは朝から浮足立っていた。というのも、ここ最近は冬に備えてのあれやこれやの準備で各々忙しく、盗賊稼業も殆ど開店休業状態だったからだ。つまり、盗みの後のデカい宴がない中での久々のボス直々お墨付き羽伸ばし日というわけである。それに、この魔除けの祭は元々無事を祈りあう、つまり人間の風習に合わせて言えば冬を越すために生存本能を高め合うという意味合いもある。生存本能の最たるもの――死に面した時と生殖行為を行う時特有の、あの獣じみた欲求の開放ないしはぶつけ合いの祭というのだからこれにアガらない団員はない。
    みんなして美味い肉と酒を浴びるように飲み、街でひっかけた、あるいは心に決めた大切な人らと体を温め合いながら夜を越す。そのための申込みと承諾の儀式に必要なのは季節外れの小ぶりの赤い実。日中のうちに意中の相手に手渡して、陽が沈みきる前に相手がそれを齧れば成立というなんともロマンチックな性夜である。
    「お前も狙うんだろ、ボスのこと?」
     表にワインを運び出している最中、軽い調子で叩かれた肩にぐ、と重みがかけられる。そのまま声を潜めて「頑張れよ」とはにかむのは普段同じ任務をこなす魔法使いの友人の一人。表や街で作業をしている面子が多いせいか芳醇なワイン樽に囲まれた部屋には珍しくそいつと自分の二人だけで、作業の合間の僅かなじゃれ合いを止める人影は他に誰もいない。
    喉奥でくつくつと笑うそいつも自分も去年からボスを射止めようと躍起になっている、ある種ライバルのような変な間柄だ。
    男所帯の盗賊団、その中でも魔法使いとなれば相手が男だろうが道に咲く花だろうが本人が良いと思えば誰彼構わず恋をする。強くて格好良くて綺麗なボスはそんな連中の初恋キラーみたいなものだった。今日という日にボスを狙っている輩は一人や二人じゃないのは去年でいやというほど身に染みていて、渡すことすら出来ず結局自分で食べることになった実の酸っぱさが口内に苦い味を伴って広がる。
    今年こそは。
    ポケットに突っこんでいる赤い実に意識を向けながら、軽い調子で背を叩く友人の言葉に小さく頷いた。自分なんかボスの記憶の端にも留まっていないかもしれないけれど、今日は祭りなのだから。祭――その言葉の傘のお蔭で叶わない願いだって描くことが出来るだけでもありがたいのに。
    「もし万が一にもオーケーしてもらえたら死ねるかも」
     下げた眉の下で本音がこぼれ、背後の友が薄く静かなため息をついたのがわかった。残念がるような、拍子抜けしたような、毒気を抜かれたとでもいうような、そんな吐息。
    ぐいと襟首が背後に引っ張られ、たたらを踏んだ。
    「……おいおい、勿体ねえこと言ってんなよ」
     抱くんだろこの俺様を。
    それは呆れたような低い声。日夜問わず擦り切れるほど脳内で再生した独特のそれ。背後の声はいつしか友人のものではなく、首に回された腕は緑色のモッズコートに覆われていた。少し脂っぽい男臭さの中に混じるレザーの匂い。
    間違えるはずがなかった。
    ボスが今、自分の耳元で喋っている。
    いつから。
    どこから。
    どうして。
    元々良いとはいえない頭が混乱する。混乱していても何故か、ぴったりと楽し気に身を寄せてくる背後の人物がボスなのは確かにわかっていて。
    「え、あっ、あいつは……?」
     情けないことに声が震えた。今まで喋っていた友はいったいどこに消えたのか。友だと思っていた相手が最初からボスだったというのならオーケーの返事さえ待たず恥ずかしさで死ねそうだ。
    「第一声がそれとはちと残念だが……まあ俺様の変身魔法は完璧だし仕方ねえか。多めに見てやるさ。――そのポケットの、今年こそ俺にくれるんだろ?」
     するりとポケットに伸ばされた長い指が擦れてくたくたになったズボンの腿をなぞり落ちていく。意識を全力で股間に向けてあらゆる煩悩を抑えつけながら、せめてポケットが浅いズボンにするんだったと、これまたボスに聞かれたら呆れられそうなことをぼんやりと思ってぎゅっと目を瞑った。
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