水さにのできちゃった婚のおはなし「赤ちゃんできちゃった」
和やかな夕食を終え、満腹の腹を抱えつつ皆が厨へ食器を運ぶ時の事だった。
声を潜めるでもなく、ぽろりと言葉が漏れた様子でもなく。堂々と。審神者が隣にいた男士にそんなことを話し出した。
その言葉をいついかなる時にも主の命を聞き漏らさぬよう注意している男士達が聞き漏らすことはない。
あまりのことに食器を落としそうになる者、えーっ!? という悲鳴を飲み込んだものなどリアクションは様々であったが誰もがこれ以上ないほど驚いていた。
審神者に彼氏がいることも、それがこの本丸の男士であることも知らぬ者はいない。
だが初々しく手を握るやら握らないやらでイチャイチャしているところを見かけるなど、全員が微笑ましい付き合いをしているのだと思っていた。
なのであまりにも突然の爆弾発言に皆が凍り付いている。考えることは一つ。その言葉を飲み込んだ者がほとんどであったが、つい口から漏れた者が若干いた。
「あの二人、やることやってたんだ……」
そしてその言葉を同時に関係者と思われる隣にいる刀の方を一斉に見た。
真っ青になった水心子はさらに全員から驚愕の目を向けられ、どうしていいか分からずあわあわと震えるだけだ。
「多分ね。花火大会の時に、いっぱいしちゃったあれだと思う」
言葉にならず口をぱくぱく開けている水心子をじっと見ていた審神者は、少し恥ずかしそうに視線を逸らす。
「ちょっと危険日かなって思ってはいたんだけど、迫ってくる水心子すごくカッコよかったし、水心子との赤ちゃん欲しいなって思ってたしいいかなって……」
「あっあなたは何を」
「すっごく盛り上がったし、やっぱりOKして良かったなって思うから後悔してないよ」
「ちょっとその話くわ……むがっ」
横から口を挟もうとした源清麿が口を押さえられた。
審神者は愛おしそうに腹を撫でる。
「水心子は、どう? 後悔してる? 赤ちゃんできちゃったこと」
「えっ僕!? 僕は……」
「それとも……体だけが目当てだった?」
不安そうに視線を逸らし、口元を抑える審神者にカッと我に返った水心子は肩を掴む。
「そんなわけがないだろう! 愛しているに決まっている!!」
「本当!? じゃあ結婚しようね!!」
ぱあっと花がほころぶ様に笑う審神者に、水心子は自身の大胆な発言にようやく気づいた。
「うわあぁぁぁっ僕は今なにを……」
慌てる水心子の首に、審神者が抱き着くと周りの男士たちからひゅーひゅーとひやかしと喝さいの声が飛ぶ。
真っ赤になったり真っ青になったりを繰り返す水心子がわなわなと震えだし、ついに許容オーバーになってばたりと倒れた。
その語、審神者と二人きりの中庭で花束を渡しプロポーズをしているところを見ていた者が何人いたかは……数えるまでもないのであった。
終