手料理(アルセノ) ***
教令院の定時からきっかり一時間且つ帰宅から半時間ほど経った時、金属を打ち合う音がアルハイゼンの耳に届いた。初めは一度、一呼吸おいて二度、さらに三度。それらはすべて玄関のノッカーから発せられていることを知覚したアルハイゼンは読んでいた本を閉じ、玄関へ赴く。ノッカーの音は予め決め伝えておいた符号で、本日の来客到着を示した。定時後に自宅で人を迎えるなど狂気の沙汰と言いかねないと思われていそうだが、臨機応変までとは言わないが、アルハイゼンが許容する範疇、ごく僅かな者だけが来訪を許されている。
「先日は世話になったな」
アルハイゼンが玄関のドアを開くと正面には見慣れた大マハマトラ、束になったパティサラの包みと荷を小脇に抱えたセノが居た。
1909