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    yohira_gaku

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    yohira_gaku

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    書きたいところだけを書き出して体裁を整えていない未完成の短編です。いずれ内容を調整したいと考えています。

    手料理(アルセノ) ***

     教令院の定時からきっかり一時間且つ帰宅から半時間ほど経った時、金属を打ち合う音がアルハイゼンの耳に届いた。初めは一度、一呼吸おいて二度、さらに三度。それらはすべて玄関のノッカーから発せられていることを知覚したアルハイゼンは読んでいた本を閉じ、玄関へ赴く。ノッカーの音は予め決め伝えておいた符号で、本日の来客到着を示した。定時後に自宅で人を迎えるなど狂気の沙汰と言いかねないと思われていそうだが、臨機応変までとは言わないが、アルハイゼンが許容する範疇、ごく僅かな者だけが来訪を許されている。
    「先日は世話になったな」
    アルハイゼンが玄関のドアを開くと正面には見慣れた大マハマトラ、束になったパティサラの包みと荷を小脇に抱えたセノが居た。

     セノがここへ来たことは初めてではない。早朝酔ったカーヴェを送り届けたことも、ガンダルヴァ村に寄った際ティナリについででいいと頼まれたカーヴェの忘れ物を届けたことも、マハマトラとしての業務で必要な書類がアルハイゼンの自宅にあるということで業務時間内外を問わず取りに来たこともあった。その度に良くも悪くも在宅状態にあったアルハイゼンはセノの急な来訪に対応していたが、あまりにもカーヴェ関連と(自宅で書類対応をしようとする事があるゆえの)書類の紛れ込みが多かったため、アルハイゼンとセノ間において、訪問目的がわかるように、指定したリズムでノッカーを鳴らした。

     アルハイゼンの自宅内に招かれたセノは花の包みをアルハイゼンに渡し、特徴的な頭の装飾を外すと慣れた手付きで装飾の施されたテーブルに置くと同時に荷をほどき始めた。中から紙に巻かれた獣肉と魚肉、パンパンに袋に詰まった米に、紐とその他紙ものが出てきた。紙ものについては何も言うまい。
    「キッチンを借りる」
    「ああ、構わない」
     アルハイゼンが是で返すと、セノは紐で髪を束ねて食材をまとめる。今日彼がアルハイゼンの自宅を訪れた理由は手料理を振る舞うためだ。
     
     先日マハマトラによる対応を発端としてアルハイゼンの手を煩わせる事態が発生した。端的に説明すると、審査する書類増え、食事が一回分物理的に飛んだ。口にする前に宙に舞ったのだ。
    「あのピタは作れないからな」
    「売り物を模せとは言わない。得意な料理で構わない」   不慮の事故とはいえ、無惨に散るピタを目の当たりにしたセノは、悲痛な面持ちでアルハイゼンに補填を提案した。アルハイゼンは表情一つ動かないが力が抜けた声色で公的な対応としては不要だが、私的な対応であれば手料理一回で手を打つと。アルハイゼンの回答に従いセノは手料理を振る舞うことになったわけだ。

    「何かあれば言う。お前は何もしなくていい」
    「そうさせてもらう。キッチンには居よう」
     セノはキッチンに立ち、アルハイゼンはテーブルにパティサラの包みを置くと邪魔にならないであろう辺りに椅子を出して座った。
     タフチーンを作ることは事前に伝えてあった。カーヴェが調理器具まで含めてキッチンが完成すると酔っ払いながら言ったとか言っていないとか、そのあたりの真偽は別としても幸いなことに器具と食器は揃っている。塩を始めとした調味料もあった。セノは皿の形状や枚数を確認する。食器は何を使ってもいいと確認済みだが、見たところアルハイゼンやカーヴェが大切に隠していそうな食器はないため、適当なサイズの大皿を2枚準備しておく。
     まな板を始めとした器具を簡単に洗い、魚肉と獣肉を一口大に切り分ける、塩コショウで下味を付ける。米の計量も終えておく。
    「準備したのは俺だが、この量は過剰だな」
     テーブルの方を向き、セノが腕を組み考え出すのを見たアルハイゼンは椅子から立ち上がりセノの横に寄る。
    「パティサラか」
    「ああ。些か多い」
     実現できるかは別として、花冠が編めそうな量ではある。
    「生憎花瓶はないが、カーヴェが空けた酒瓶なら幾つかある」
    「使えそうだな」
    「サイズ違いで数個持ってこよう」
    「頼む」
     
     その間にセノはパティサラを調理に使用する部分に分け始めた。花を崩さずに添えるかもしれないから取り敢えず二本は手付けず残す。花の部分とそれ以外に毟って分け、次は花弁と花蕊とそれ以外に分ける。
     取り出した花蕊をサッと水にくぐらせ砂埃やチリを落とし水を切る。ナイフで粗く刻みむとナイフを置き、竈に火を点けて大きめの炒め鍋を載せる。多めの油と刻んだ花蕊を鍋に流し込んだ頃、アルハイゼンが複数の酒瓶を抱えて戻った。
    「花を飾るものだと思っていたが」
    「久々の料理に興が乗った」
    二人は山盛りの花弁に目を向けた。
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