かわいそうはかわいい雨。水元素が体を包む。俺を押し倒して背に世界の涙を受けているのは、ファデュイの執行官「公子」。髪を伝い、顔を濡らす雨が、彼の涙のように目元を流れた。
「俺を……知った顔で、親みてえな顔で、笑うんじゃねえよ……。神様だから何でも知ってますってか?巫山戯ろクソッタレ!!」
胸元を乱暴に掴まれる。他者への信頼を捨てた薄暗いブルーの瞳に、怒りの炎が光を灯していた。赤く燃える瞳の中に、俺が、俺だけが映っている。
「っは……たった数回抱かれた程度で俺のオンナ面ってワケ?神様のクセに馬鹿な女みたいな態度取っちゃってさ、恥ずかしくないの?いや、もう神様、やめたんだもんね?ただの人に成り下がって、俺とおんなじ目線になりましたって?アハッ!アハハッ!良い加減にしろよ!!余計なお世話なんだよ!!俺を理解出来るはずない!!お前みたいな能天気な野郎に、俺が!!理解る訳ないんだよ!!嫌いだ、嫌いだ嫌いだ嫌いだ!!殺してやる!!お前なんか、お前……なんかァ!!」
息を吸うのも忘れて捲し立てる公子は、本物の涙を混じらせて俺に全てをぶつけていた。否、これでも全てではないと思う。きっと落ち着いた頃に、“何でもない、あの時はカッとして、本心じゃない、悪かった”などと並べ立てることだろう。ただ、これまでにここまで取り乱すことは、彼の人柄を考えても、彼の人生の中で滅多にあるようなことじゃない筈だ。そう思うと、俺という存在が彼にとってどれほどの存在かを浮き立たせて、つい微笑みたくなる。
俺は、人間が好きだ。璃月に生きる人々だけでない、この世界に生きる全ての人間を好ましく思っている。ちっぽけな一生を必死に使って、これだけの文明を築き上げた人という生命を、愛していると言っても過言ではない。
だからこそ、こんな風に誰か一人だけを求めるなどということは、俺の生きてきた中で初めてなのだ。この男に惹かれて止まない。なぜだか分からない。何かきっかけがあったのだろう。だが始まりなど最早どうでもいい。今、人となった俺は、ただ“鍾離”という男として、この“タルタリヤ”を欲している。
「俺を救えよ……神様だったんだろ……?俺が好きなんだろ……?たかが人の一人救うくらい容易いだろう……?頼むよ先生……俺を殺してくれ……」
誰かが言った。「可哀想は可愛い」のだと。聞いた時は理解出来なかった。だが今なら分かる。救いを求めて俺に縋りつくこの男を、俺は。
「そんなことを言うんじゃない。俺が居る。お前の為だけに、今の俺があるんだ……」
「うあ……あ……っせんせ……」
服が意味を成さないほどに濡れそぼったお互いの体を抱き合う。冷えた服越しにゆっくりと伝わり始める肌の温かさに、えも言われぬ快感を覚えた。
ライオンが可愛さゆえに食べたがる様に、親が自分の子を可愛がる様に、この人間を俺のものにしてしまいたいのだ。
「愛している……例えどんなことがあろうとも、俺がずっと、お前の傍に……」