その微笑を目にしたときに、呼吸の仕方を忘れたようだった。血が沸きたつように熱を感じ、震えた肺から漏れそうになった息はあまりにも己の心の内をさらけ出すようで、そのような初心な反応など、ここしばらくか、ずいぶんと記憶をさかのぼっても覚えがない。長い刻を生きて、心乱されるものなど、璃月の先を憂える以外にもはやないと思っていた。
新月夜に似た黒髪に、紫水晶よりも澄んだ瞳からは好意的な反応が感じられる。
「旅人。初めて会うが、彼は?」
知り合いとなった旅人に問いかけると、空は、ああ、とその青年を振り返る。微笑んでいる青年は自分から口を開く様子はない。
「えーっと、」
なぜか言葉を探す空に対し、パイモンが口を開いた。
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