サイコパスな家族「ただいま、寧々」
「……おかえり」
朝方、庭の方から馬車の音が聞こえてきて、朝食を作っているえむに代わって、その馬車を出迎えに行った。
馬車が開くと、中からは司を抱いた類が出てきて、司の方を見ると子供のような寝息を立てていた。
「すぅ……すぅ……」
普段うるさい司からは想像もできないほどの大人しさで、思わずそっと司の頬に触れる。
「……司の目が腫れてる……。……類……」
「そう怖い目で見つめないでおくれ。少しからかっただけのつもりなんだけど…」
いつも類の部屋に行った次の日の司は、目が少しだけ腫れていた。
特に言及したいと思わなかったから、何も反応はしなかったけど…
「……いつもより、腫れてる……。……司のこんな顔、えむが見たらどう思うか分からない?」
「……えむくんは、もう司くんのことを大切な家族として見てるだろうからね。……悲しむかな」
「…分かってるじゃん…。なら、いつまでも司に嫉妬してたってしょうがないでしょ」
私がそう言うと、類は笑ったまま黙ってしまい、背伸びをしてそっと類の頭を撫でた。
「程々にしてあげてよ」
◇
ドサリと司くんをそっとベッドに寝かせる。
寧々が言っていたとおり、いつもより腫れているその目を親指で少しなぞった。
プライドが高くて、あまり自分の弱みを見せない彼が初めて僕を求めた。
その事が自分が思っているよりもかなり嬉しく、思い出しては自然と笑みが毀れる。
それと同時に、彼がいなくなる日が来るのを嫌だとも感じる。
『いつまでも司に嫉妬してたってしょうがないでしょ』
「…そうだね、しょうがないんだけどね」
自分はやはり異常者でサイコパスだなと思う。
「……君も、家族がいなかったらな」
本当に妹さんが死んでいたらな。
僕が本当の家族になれたかもしれないのに。
ごそごそと司くんの服のポケットから、妹さんであろう少女が映っている写真を取りだし、それを見てふっと目を細めた。
「本当に司くんそっくりな子」
クスッと笑い、その写真を元あった場所に戻す。
「大丈夫だよ、君の妹さんは生きてる」
司くんの頭を撫でながら、机の上に置いていた首輪を取り出す。
「僕なら、きっとすぐに会わせられるけど……君の辛そうな顔がまだ見たいから…」
「だから、もう少しだけ、異常者な僕の恋人でいてね」
「すぅ……すぅ……」
変わらず寝息を立てている司くんの口に触れるだけのキスをして、カシャンと首輪をつけた。