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    myn_hsb

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    myn_hsb

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    ~共謀睡眠姦スペシャル~(予定)

    比較的平和なへしさにへしサンド ふわ、と込み上げてきた欠伸をしている審神者の胸の内は、早く柔らかな布団の極楽に潜り込んでしまいたい、という気持ちで埋め尽くされつつあった。穏やかな陽光が差し込んでいた本丸は今や夜の帳が下り、日中飛び交う賑やかな喧騒も今は聞こえない。聞こえる音といえば庭先から人工的に流される、微かに響く虫の声くらいなものだったが、それも執務室の更に奥、審神者の寝室まで届くような音量ではない。
    「ねえ、まだ?」
     寸分の狂いも皺の一つも無く敷かれた布団の上で、痺れてしまう前に正座の脚を崩した審神者が言った。その声を受け、彼女の目の前で睨み合うように対峙していた二人が顔を上げる。どちらも短く揃えられた煤色の髪を持ち、眉目秀麗と言っても違わぬ相貌に怜利な印象を与える鋭い青紫を湛えていた。二振りのへし切長谷部は外見上の共通点とは裏腹にまるで正反対の表情を浮かべている。片方は苦々しげに唇を引き結び、もう片方はその端整な面立ちに薄く笑みさえ浮かべて、相対する相手を見据えるばかりだ。
    「どっちが添寝でもいいし、そもそもしなくてもいいんだってば」
    「何を仰るのですか! 主に共寝させていただく、この名誉ある役回りを譲る気など毛頭ありません!」
    「俺も同じ意見ですが、主の御身を夜通し御守りするに相応しいのは言うまでも無いかと」
     双方一歩も譲らぬ姿勢で主張する二人の姿に、審神者は呆れた様子を隠すこともせず溜息を吐いた。頻繫に繰り広げられる押し問答は既に何度も繰り返され、似たやり取りは日常茶飯事となっている。何時如何なる時でも己が主への忠誠心を貫こうとする姿勢は評価に値するものの、どちらからも等しく同じだけの熱量を以て寄せられる懸想合戦に当の審神者はすっかり辟易していた。
    「分からん奴だな……見ろ、主は貴様の過剰な忠節にはうんざりしている」
    「ほう、俺より後に顕現しておきながら、主に取り入ろうとする手管だけは一級品だな」
    「何だと? 臣下の分際で御優しい主に我欲を押し付ける不敬者が良く言う」
     売り言葉に買い言葉で、遂に互いの額を突き合わせるようにして睨み合った二人の視線の間で火花が散っていた。また始まったと言わんばかりの視線を向ける審神者に構わず、二人の口論は激しさを増していく。相手の言葉尻を捉えては揚げ足を取り合い、最早言い争いというよりは罵り合っていると表現した方が適切な様相を呈し始めていた。互いに相手の主張を退けることのみに注力し、先に根を上げた方が勝ちだと言わんばかりの勢いで口火を切る一振り目に対し、言い返す二振り目も引かない。
    「大体貴様には忠義の心というものが無いのではないか? 主に対して下劣極まりない執着を見せるばかりではなく、あろうことか寵愛を賜りたいなどと烏滸がましい……」
    「随分と偉そうに……! その言葉そっくりそのまま返すぞ。忠誠どころか妄執にも等しい恋慕を抱くばかりか、寵愛を受けるのは自分だけだと浅ましい考えが見え透いているな」
     段々と諍いの主旨を見失いつつある二人は、相手の主張を捻じ伏せる方向に舌戦を発展させていた。相手の言動に対する不満を口にする内に次第に熱を帯びてきたのか、審神者の前だと言う意識が薄れ始めた証拠に口調は次第に荒くなっていく。収集が付かなそうだと判断した審神者は再度欠伸を漏らすと、軽い音を立てて布団に横たわった。
    「もう今日は一人で寝る……どっちも下がっていいよ」
    「えっ!?」
    「なッ……!」
     素っ気なく告げられた一言に、それまで喧々轟々たる有様だった二振りの長谷部が同時に驚きの声を上げて審神者の方を振り向いた。審神者の就寝を告げる言葉に愕然とした表情を浮かべる彼らだったが、天井を見上げたまま目を閉じた審神者がその様子を気に掛けることはない。
    「毎度言ってるけど、もう添寝制度止めようよ」
    「何故です! な、何か至らない点でも……?」
    「だって喧嘩するし、そもそもどっちにも頼んでないし」
     審神者の口から放たれた言葉に二振りの長谷部は反論の余地が無いと黙り込んだ。布団の傍らで正座で佇む二振りが叱られた犬のように項垂れ、先程までの剣幕が嘘のように大人しくなって肩を落としている。審神者が言う通り、この本丸では二振りの長谷部による過剰な献身と懸想により、度々衝突が起きていた。どちらも同じくらい大切だという旨を審神者から伝えられた上で、それでも優劣を付けて欲しいと懇願された結果、必ずどちらかを選んで貰えるまで退くまいという結論に至ったらしい。
     彼らが自分に対して抱いている強い好意を無下にするつもりは毛頭無い。だが、それ故にどちらか一方に偏って肩入れすることも出来ずにいるのもまた事実だと審神者は思考の片隅で思い悩んでいた。贔屓することの無いようにどちらも同じく平等に接した結果、二振りはどちらからも選ばれなかったという事実だけが残り、彼らの審神者への懸想は募るばかりだった。
    「で、でしたら主、今夜こそ俺と一緒に……」
    「待て。主はお疲れの様子だ。ここは気心の知れた俺が共に添寝するべきだ」
     意を決した様子で口を開いた二振り目の言葉を遮るように、その役回りを譲る気は無いとばかりに一振り目が声を上げる。天井を向いていた審神者が横向きに体勢を変えて瞼を開ければ、二振りの長谷部は揃って審神者を覗き込むように膝を突いて屈んでいた。
     左右対称に描かれた眉の形まで瓜二つの彼らは、審神者の指示一つで即座に己の立ち位置を変えることが出来るだろう。このまま放っておいても不毛な争いが続くばかりだろうと考えた審神者は溜息混じりに口を開く。
    「もう寝た」
    「はい?」
    「私は寝たから、もう知らない」
     審神者はそれだけ言うと、再び瞳を閉じてしまった。これ以上の会話を続けるつもりはないという意思表示を察して二振りは思わず顔を見合わせ、どうしたものかと困惑気味に視線を泳がせる。こうなったら審神者は頑として動かないことを良く知っている二振りは、どちらともつかない溜息を吐くと一振り目が審神者を横抱きに抱え、二振り目が衣擦れの音と共に掛け布を持ち上げて布団を整えた。
     やがて仰向けに横たわる審神者の身体を挟むようにして布団の中に潜り込んだ二振りは、其々左右に陣取ると審神者の両側に密着する形で寄り添う形で収まる。寝入ったところを起こしてしまわないよう配慮したのか、互いの距離感を保ったまま静かに呼吸を繰り返して審神者の様子を窺っていた。暫くすると審神者の穏やかな寝息が聞こえ始め、それを合図に二振りは安堵の表情を浮かべる。
    「……ん、」
    「おい、眠られて間もない主を起こすような真似は控えろ」
     不意に審神者の頬へ顔を寄せ、軽く口付けた一振り目の行動に気付いた二振り目はすかさず牽制するように低い声で咎めた。審神者の眠りを妨げたくないという思いは共通しているようで、普段の諍いと比較すれば比較的落ち着いた態度を見せている。ふん、とどこか得意げに鼻を鳴らした一振り目に対し、二振り目の内にある対抗心が刺激される。
     日中は近侍を務める為、審神者の傍に身を置く機会の多い一振り目に対し、二振り目は常に一歩遅れを取っている。審神者に一番近い存在になりたいという思いは同じ筈なのに、その差が二人の関係性の差を如実に表しており、一振り目が審神者の寵愛を賜っているのではという疑念が二振り目に焦燥を募らせていた。審神者の寵愛が欲しいという欲求は勿論のこと、それが自分にだけ向けられればいいと願わずには居られない。
    「貴様はいつもそうやって主に気安く触れ過ぎだ」
    「それは貴様も……その手は一体何だ」
    「こ、これは御髪が乱れていたから直して差し上げたまで」
     二振り目の手が審神者の髪を指先で弄び、頭の丸みをなぞるように撫でており、その様子を見た一振り目が苦々しい表情を浮かべる。優しい手付きに審神者の表情が緩んだように見え、余計な事をするなと言い掛けた言葉を飲み込んで唇を引き結んだ。規則正しい寝息を漏らす審神者の顔を間近で見つめながら、その表情の変化を眺めているだけで二振りの胸中を満たしていくものがある。
    「……主の寝顔を見れるだけでも役得だな」
    「それには同意するが、主の御身に障るような事はするなよ」
     まるで自分が審神者と添い遂げるのだと言わんばかりの口調で言い放った一振り目を、二振り目が胡散臭そうな眼差しを刺さんばかりに向けた。それきり静寂に包まれた部屋の中で二振りの長谷部は審神者の寝姿を飽くことなく見守り続けていたが、不意に審神者が身動いだことで微かに布団が揺れ動く。
    「ぁ……」
     薄く開かれた唇から漏れ出た吐息交じりの声は耳を澄ませていなければ聞き取れないほどに小さかったが、至近距離で審神者を見詰めていた二振りの耳には届いていた。どこか熱を帯びた音に対して二振り目の表情には緊張が滲んでおり、無意識のうちに喉を鳴らす。一振り目の方をちらりと見遣れば、変わらず審神者を見詰めたままだ。すぐさま反応を示しそうなものだが何故、と疑問を抱いたところで察した二振り目が掛け布を静かに捲る。
    「おい……!」
    「掛け布を剥がすな、主の御身体が冷えるだろう」
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