ドライorウェット「今宵、寝所にお伺いしたいのですが……宜しいでしょうか」
審神者がその日の職務を終え、執務室から夕餉の準備が済んだであろう大広間へと向かう前。互いを労いながら他愛の無い会話していた中で、彼女が部屋の障子戸に手を掛ける間にそっと耳打ちされた言葉である。
その文言を恭しく紡いだのは件の本丸に所属し、今の今まで近侍として審神者の補佐役に徹していたへし切長谷部だった。二回りほど己より背丈の低い審神者に配慮してやや身を屈めた所為で、普段よりも一層距離が近くなる。落ち着き払った低音ながらも秘めやかな声に静かに首を傾ければ、薄く青を帯びた紫色の眼差しがその感情を隠しもせずに熱烈に瞬いていた。
「えっ、と……な、何か相談事かな……?」
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