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    myn_hsb

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    myn_hsb

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    赤の麻縄で真っ白なシャツごとぎちぎちに縄化粧を施したい

    腕拘束さにへし 護身術の一つとして、敵の捕縛法も学んでおこうと思い立った。
     朱色の麻縄を手にした審神者が墨色の両眼を瞬かせていると、その視線の先では背を伸ばして行儀良く居住まいを整えた長谷部がはあ、と生真面目にも拘らず、やや気の抜けた相槌を打った。
    「だから俺に縛り方を訊ねたと」
    「そう。何か全然解けないやつ、捕まえたらするんでしょ?」
    「……まあ、直ぐに斬ることの無い、人間相手であればそうですね」
     ただし、大概は見敵必殺ですが。そんなことを言いながら長谷部は少し考える素振りを見せる。一体今度は何に影響をされたのか。審神者から差し出された麻縄を手に取り、まじまじと見つめると、ちゃちな造りだな、という感想を抱く。彼女の言う実用に足るものではあるが、この程度ならば容易に引き千切れる。しかしそれは刀剣である自分だからこそ思うことであり、普通の人間は簡単には出来ないだろう。
    「それで? このような御考えに至った経緯をお聞かせ願えますか」
    「そんな大層なものじゃないよ。そんな場面の映像を観て、ちょっと学んでおこうかなってだけ」
     ふむ、と顎に手を当てて思案をする。確かに人間の中にそういう輩がいないとは限らない。万が一にも主の身の安全を守る為にも必要な知識かもしれない。だがしかし、そのような事態に陥らないように自分達が常に傍にいるのだ。わざわざ彼女が学ぶ必要など無いのではないか。そんな思考が頭を過るが、それを口に出すことはない。口に出してしまえばきっと彼女は自分を納得させる理論を上手に並べ立て始めるに違いないからだ。それに今から行うのはあくまで実践ではなく訓練なのだ。そこまで真剣になる必要はない。
    「……では恐れながら、一度御手を拝借しても宜しいでしょうか」
    「うん、どうぞ」
    「手順を通して見せますので、どうかご容赦ください」





    「でもさぁ、私がこれやるとしたら相当切迫してる状況だよね」
    「ええ、考えたくはありませんが……」
     長谷部が手解きを終え、次は実際に自分を縛ってみて欲しいと提案された審神者がそれを実行に移すべく、まず初めに長谷部の手首に麻縄を回したところでそんな会話を交わしていた。二人揃って畳の上に座り込み、背を向けた長谷部が後ろに回した腕を審神者が習った通りに縛り上げていく。肩越しに振り返りながらそれを見守り、迷って手が止まれば指示を出してやる。
    「そこ、その輪に通して強く引いて下さい」
    「大丈夫? ぎちぎちだけど痛くない?」
    「平気ですよ。寧ろ敵を縛り上げると言うなら、もっと強い方が良いでしょうね」
     戦場に出ない女の筋力ではこれが限界だと、審神者は眉尻を下げて笑った。縛り終えた出来栄えはやや形が悪いものの、それでも充分に人間相手であれば実用に耐え得るだろう。軽く力を込めれば僅かに軋んだ音を立てるだけで、解けるような気配は全く感じられない。真っ白いシャツの袖ごと赤い麻縄の食い込む長谷部の手首をしげしげと見つめていると、彼がそっと息を吐き出す音が聞こえた。
    「ね、ね、本当に動けないの?」
    「……まあ、難しいですね」
     そう頑丈でもない素材、そして自身の力を考慮すればこの程度破るのは容易いが、わざわざ解く意味も無いだろうと彼は答える。ふうん、と相槌を打ちつつ審神者の指先が彼の首筋に触れた。ぴくりと震えたものの抵抗する素振りは無く、大人しくされるがままになっている。
    「お戯れを」
     くすりと笑って謝罪を口にしながらも審神者の手は止まらない。長谷部の頬から顎にかけてをゆっくりと撫で擦り、耳元へと滑らせる。指先で耳の縁を辿るようになぞると、「主」と咎めるような声が上がった。しかし言葉とは裏腹に彼の表情には険しさなど欠片も無く、口元は緩やかな弧を描いている。
    「ふふ、だってなんか面白い状況だから」
    「ん……もう、困った方ですね」
     向けられた顔の目尻に唇を寄せて審神者が囁けば、長谷部は小さく吐息を漏らしながら目を細めた。無邪気なじゃれつきなのか、その他の意図があるのか。判断がつかないままに受け入れる。そのまま何度も触れてくる手の感触に思わず喉が鳴りそうになるが、どうにか押し留める。思わず動かそうとした腕からぎち、と麻縄が鳴いた。
    「そろそろ解いて頂けませんか」
    「えー勿体無い」
     もどかしい。長谷部は内心で独り言ちた。くすくすと耳元で笑う彼女の声が鼓膜に響くのは酷く心地が良いが、同時にじわじわと焦燥にも似た感覚が沸き上がる。審神者が今の自分の状態を気に入ってくれていること自体は悪い気はしないが、背中に感じる柔らかさと温もりに少しばかり身体が強張ってしまう。このままでは生殺しも良いところだ、と。
     そんな長谷部の内情を知ってか知らずか、審神者の手は未だに動き続けている。うなじに触れ、鎖骨を辿り、胸板に触れる。普段ならば服の下に隠された肌を暴くようにして触れるが、今は互いに衣服を身に付けたままである。その事実が妙な倒錯感を生み出せば、自然と心臓が早鐘を打つ。この場に漂う空気も何処か淫靡なものに感じられる。
    「ッ……ある、じ。こうして愛でていただけるのは嬉しいのですが、これでは俺が余りにも不甲斐無く、」
    「嫌?」
    「い、嫌ではありませんが……後に、御自身も同じ目に遭われるかもしれませんよ」
     口にはせずに甘んじてこの拘束を享受しているが、正直に言えば今すぐにでも解いて欲しかった。彼女の細い腕が自身に巻き付く光景は何とも言えない甘美さがあり、このまま身を任せてしまいたい気持ちが湧き上がってくる。しかしそれ以上に甘えてくる審神者への欲求が募るばかりでどうにもならない。
     今すぐその小さな身体を引き寄せて抱きしめたい。思う存分口付けて、柔肌の輪郭をなぞり、余すことなく味わい尽くしたい。そんな葛藤を知る由もないであろう、長谷部の背後に居る審神者へ向けた警告の言葉は随分と熱を帯びて掠れたものだった。
    「……同じ目って何」
     しかしそんな彼に対して返されたのはどこか冷淡とも言える口調。先程までの楽しそうな様子とは打って変わり、平坦な声で紡がれるそれに長谷部は困惑する。何か気に障ることでもしてしまったのだろうか。不安になりながらも振り返ろうと身を捩ると、それを制するかのように押さえ込まれた。
    「あの、」
    「長谷部は私のこと縛り上げて酷いことするんだ」
    「えっ……そ、そのようなことは決して」
     背後から聞こえる声音からは感情を読み取ることが出来ず、何を考えているのか分からない。ただ、それが良くない方向へと向かっていることだけは理解出来た。
    「気に入らないなら言えばいいのに」
    「で、ですから俺は嫌などではなく、」
     続くごめんねの一言に悲哀の色を感じ取り、咄嗟に脚に力を込めると押さえを振り切って振り返る。そして視界に飛び込んできた審神者は寂しさを織り交ぜたような表情を浮かべており、先の発言が軽率であったことを自覚した。
    「滅相も御座いません、俺が貴女の御身体に傷を付けるなど有り得ぬことです!」
    「同じ目って言った」
    「そっ、それは俺が貴女を愛でられないのが口惜しくて……いえ、守りたいと想う相手に対して掛ける言葉ではありませんでした。申し訳ございません……」
     審神者の機嫌を損ねるつもりは無かったのだが、結果としてそう取られても仕方の無い発言をしたことは確かだった。長谷部は即座に謝罪を口にすると、恐縮しきった面持ちで頭を下げる。閉じた室内を沈黙が支配する中、やがて自分に向けられた煤色の頭を審神者がそうっと撫でた。
    「主、どうかお許しを……俺は決して貴女に危害を及ぼそうなどと微塵も考えておりません」
    「本当に?」
    「勿論です。お望みであれば、この身を如何様にでもなさって下さい」
     畳の上で長谷部が深々と頭を垂れ、額を擦り付ける。麻縄で拘束されたままの後ろに回した腕は朱色の線に彩られ、まるで罪人のようにすら見えてしまう。その姿を暫し見下ろしていた審神者は小さく嘆息し、顔を上げて、と声を掛ける。
     その日、長谷部は運が悪かったのかもしれないし、逆に審神者は運が良かったのかもしれない。平伏していた長谷部が審神者の口角を目にすることは無く、元より損ねた機嫌など無い審神者がその表情を捉えさせることも無かった。





     拘束された腕で身体を支え、開いた脚の上に審神者が乗っかると長谷部は僅かに息を詰めた。審神者が自身の膝に跨るような体勢を取っているせいで、少し上から覗き込むような視線が向けられる。彼女の眼差しには普段の愛らしさに加え、何処か艶めかしさがあった。その表情を向けられただけで、長谷部は身体の奥底に燻る情欲が刺激されるのを感じる。心地の良い重みと温もり。頬を包み込んでくる掌は柔らかく、慈しみを孕んでいるように思えた。
    「長谷部、」
     名を呼ばれた。それだけのことで胸中が静かにざわめき、心臓が跳ねる。その音が彼女に聞こえていないかと心配になるほどに鼓動は速まり、体温が上昇する。長谷部の色素の薄い唇を細い指がなぞり、次いで吐息が掛かる距離まで近付いたところで瞼を伏せると、そのままゆっくりと顔を寄せる。互いの鼻先が触れ合い、審神者の柔らかな髪が肌をくすぐる。ほんの数秒にも満たない口付けの後、至近距離で見つめ合う。
    「ふふ、可愛い顔してる」
    「……男に可愛らしい、というのは褒め言葉では無いと思いますが」
    「だって可愛いから。緊張の気が抜けて、思考がふわふわしてる時の長谷部の顔好き」
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