ある野心家の夜ざわざわと木々が揺れる。
辺りはすっかり夜に呑まれ僅かな月光が手元を照らしていた。
町から少し離れたここにひとの気配はなく、それどころかけものの気配も虫の気配すらも感じられない。
感じられるものといえば湿った土のにおいとすえた風のにおいだ。
聞こえてくるのは木々のざわめきと己の呼気、そしてざくざくと土を掘り返す断続的な音。
近くの民家から拝借した鍬を振り上げ、削るように土を掘る。そうしてまた鍬を振り上げ土を掘る。
もう何時間と同じ事を繰り返していた。
手足は土にまみれ、身体中に疲労がのし掛かる。
それでも汗を滴らせて土を掘る。
闇に紛れひとりきり、ただひたすらに土を掘り続ける。
それはひとつの噂のためだ。
二百年の昔、この地で吸血鬼退治人をしていた男。
2285