無題髪の長い女が部屋の窓から月を見ていた。
寝る前の、およそ人前に出る装いではなかったが、人ならぬ白い影がほうきに乗って近付いていた。
「随分呑気だね
これから戦う厄災に見惚れて」
「オーエン…」
「ふふ、何を考えてるの?帰れるかわからない異世界の事?」
「可哀想な賢者様。
異世界の為に命まで賭けるのに、全部終わったら都合よく忘れ去られて…………」
窓枠にもたれていた女は、慣れたように微笑んでみせる。
「……………はぁ、いいや」
女が少し身を引くと、ほうきに乗っていた男は自然な仕草で窓枠に足をかけた。
そのままひょいと縁に座り込んで、帽子を外して寛ぎだす。
「1年もこんなところに詰め込まれて疲れた
やっと終わる」
「ふふ、沢山手伝ってくれて、ありがとうございました!困ったこともいっぱいありましたけど、オーエンと居られて嬉しかったです」
1998