れおなぎ 進捗「アルファ同士の恋愛ってどう思う?」
神妙な顔つきで発せられたその言葉に、凪は僅かに目を見開いた。本人はそのつもりは一切無いが、深淵のような黒曜石の瞳は、感情があまり乗っていないらしい。それでも玲王は凪の気分をそれとなく汲み取るのが上手かったので、一緒にいることに随分と気楽さを感じていた。
友達で、相方で、それで……。
あれ。レオと俺って「好き同士」じゃなかったんだ?
確認したわけではなかったけれど、玲王からは何度かキスされていた。てっきり好かれているからそうされていると思っていたけれど、違ったらしい。だって、さっき告げられた玲王の台詞はつまり、「アルファを好きになってしまった」そういう意味だろう。
凪ではない、別の誰かを。
「レオ、好きな人、できたの?」
「……ああ」
「そっか」
レオに、すきなひと。
そんなに真剣な表情をしてしまうくらいの想い人がいるんだ。
なんで気づかなかったんだろう。ずっとそばにいたのに。好かれてると思い込んでたから気づかなかったのか。都合の良い夢を見ていたせいで。
「……凪は、どう思う?」
「え? 俺?」
なんでそんなこと俺に聞くんだろ。
凪に、アルファ同士のことなんてわからない。そもそも凪は、アルファではないのだから。
「……わかんない」
「凪?」
「わかんないから、この話、もうやめていい?」
玲王の心が誰に向こうとも、玲王の自由だ。好きにすればいい。
ただ、もう二度と玲王とはキスすることもないのかと思うと、寂しい気持ちもあった。
最後のキスだってわかってたら、ちゃんと覚えておいたのにな。
いつもなんの前触れもなくくちびるを塞がれるものだから、覚悟も準備もすることなく終わってしまっていた。玲王も凪も、何も言わないから、甘い余韻も生まれない。そんなキスしか、したことがなかった。
そうか、あれは恋ではなく、あらゆる愛のひとつの愛情表現だったのだろうと、凪は自身の中でひとつの落とし所を見つけた。
友達。相方。大切な存在。
それはきっと、ずっと変わらないものだと、凪は信じていた。