くういち小話 空却はけほっと咳を一つして目を覚ました。空気がとても乾燥している。目の前のホルダーに入れていたペットボトルを手に取り、水を一口飲んだ。あまり良くない姿勢で寝ていたようで首の後ろが少し痛む。隣のシートに座っていた名も知らぬ若い男性もすでに起きてスマホをいじっている。周りからもなんとなく人が起きている気配がした。どうやらこの夜行バスはもうすぐ目的地に到着するようだ。首を軽く左右に曲げながら、スカジャンのポケットにしまっていたスマホを取り出す。ロック画面にはメッセージアプリの通知があった。
『そういうのは前日に言うことじゃねえだろ』
それは液晶に表示されていたただの文字であったが、空却の脳内では容易に本人の声が再生された。一郎からのメッセージだった。通知バナーをタップし、メッセージアプリを開く。空却が夜行バスに乗り込む時に連絡を入れていたのだ。『明日の朝、五時半にイケブクロ西口公園に夜行バスで行く。迎えに来い』 それだけ送ると空却はさっさとバスの中で寝落ちていたが、一郎は十分後には返信をくれていたようだ。迎えにくるとは書かれていないが、さて。
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