空厳寺に現れた野良のkitty郎のお話空却がいつも通り寺で掃除をしていると1匹の猫が遠くからコチラを見ていることに気づく。空厳寺にはたくさんの猫が出入りするが見慣れない猫だった。それがキティ郎。見た目は随分とボロボロで、さらにはどうやら腹を空かせているようだった。空却が餌を置くとさっとそれを咥えてどこかに消えてしまった。何日かそんなことが続いて、だんだんとキティ郎くんは空却に懐いて撫でられたりするようになる。しかし餌を空却の前で食べることはない。おそらくどこか別の場所に家族がいて餌を持っていき食わせているのだろうと空却は予想していた。
ある日、珍しくキティ郎が「にゃーにゃー」鳴きながら空却の足元をフラフラと回るのでついて行ってみると、茂みにひっそりと小さい生き物が2匹いた。ポチャ郎とポム郎だった。
「ひゃはは、もしかして家族紹介してくれたのか?」
「にゃ……」
キティ郎くんが低い鳴き声で答える。戻ってきたキティ郎くんに弟たちが嬉しそうに駆け寄る。3匹の毛玉がすりすりと寄り添い合う様子はとても微笑ましい。
(……こいつら犬じゃね?)
空却は生命の神秘を感じた。
それからは3匹とも空厳寺に遊びにくるようになった。天気が悪い日は軒下や床下で過ごすこともある。ある日、空厳寺にやってきた獄が思い立って3匹のことを調べた。
「本来ならイケブクロに生息する種みたいだな。こいつらがナゴヤにいるのは……珍しい生き物だから、捕獲されてどこかに売り飛ばされるところだったのかかもしれねえ。逃げ出してきたんじゃねえか」
「そうか……」
獄が資料用に開いていたタブレットに映し出されたイケブクロの写真をじっと見つめているキティ郎くん。空却はキティ郎くんの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でる。
「帰りたいんだな」
「にゃ……」
って感じで空却が山田サン兄弟をイケブクロに帰してあげる話。