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    サモ🐟

    @Samoopink

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    サモ🐟

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    とある酒場のマスターとムコさんがお話しするだけのお話。モブ→ムコ。多分続きます。
    フェルさまの愛故の束縛にちょっと疲れたムコさんがいます。

    Sランク冒険者様は癒しが欲しい(仮)「束縛男」

    前に今日は何してどこに行ってを詳しく聞かれたから冗談でそう呼んだことがある。
    でも番になってみてわかった……フェル、お前は束縛男だ。


    「いつもの酒場だって」
    『我も行く。夜道は何かと危険だからな』
    「女子じゃないんだから。俺には女神様の加護も完全防御のスキルもあるし大丈夫だよ」
    『お主は抜けてるし、騙されやすいだろう。我が睨みをきかせていないと手を出すやつもおるだろうし』
    「あのな、フェルが守ってくれるのはありがたいよ?でも危害を加えるつもりのない一般の人がそれじゃ怖がるんだよ…俺は普通に情報収集とか世間話とかしたいのに」
    『話をせずとも良い!大体お前は誰のものだ?そうやって我以外の者に愛想を振りまいて火種ばかり作りおって…!』
    「もう束縛男!俺、男!27歳!大人なの。大丈夫だから家でお留守番してて!ステイ!!」

    そう言って飛び出すように家を出た。

    フェルが俺のこと心配してくれてるのはすごく嬉しい。
    嬉しいけど限度ってものがあるだろ…。

    常に傍にいたがるし、少し離れるときは俺の行動把握して監視してるし、すぐ威嚇するから街の人と話もできない、買い物もゆっくりさせて貰えないし酒場も行っちゃダメとか…!!

    俺はフェルの傍にいて、毎日ご飯作って、たまに夜セックスさせてくれれば良いと思ってるのかな…思ってそうだな…。

    はぁ…。
    重いため息を吐きながら酒場への道を歩く。
    もうさ……用があるときに家の従業員とギルドの人たちと話すくらいなんだよ、ヒトと関わるのって。
    一日中従魔たちだけと過ごしているのはどうなんだろう…?俺、大丈夫…?
    無いと思うけど、そのうち魔物化したりするんじゃない???

    …というのは怖い想像だけど、自分から積極的にヒトと関わることを増やしてもいいのかなぁと思った。

    だから今夜はひとりで酒場に行ってみたりしている。

    俺にも「人」恋しい夜があるのだ。





    カランカランとドアベルを鳴らしながら入店すると、何回か行ったことで俺の顔を覚えた店員さんが「あ、ムコーダさん」と手を振ってくれた。
    「いらっしゃい」
    「こんばんは」

    「カウンター座りなよ。今夜はひとりなんだろ?」
    店の奥にいたマスターが手招きをする。

    「たまにはちょっとのんびりしたくて…」
    「良いんじゃ無いか?子育てって大変だもんな」
    「まぁその子どもは魔獣なんですけどね」
    「あはは」

    流石に番のフェンリルとケンカして飛び出してきました、とは言えなかった。
    あと、一般の人には従魔達と自分の関係は『子育て』…なるほどそう見えているのか…。


    酒場のマスターは俺より少し年上で、こういう商売をしているからか、順応力が高く、俺の事情を色々理解して汲んでくれる。

    俺がはじめてこの酒場に来たときに従魔がついてきてしまったのだが、驚きはしたものの、従魔達も店内に入れて他の客と同じように接してくれたのだ。店の奥の方のテーブルを寄せてわざわざスペースまで作ってくれたマスター…何て神対応…!と嬉しかったのを覚えている。
    だって従魔達を見ると怖がったり立ち入り禁止されることが多くて……。
    従魔同伴OKな飲食店は無いわけではないが、とても貴重なんだ。

    その件があって、俺はこの酒場を贔屓にしている。
    マスターは聞き上手で話していてとても心地が良い。
    何となく容姿が、元の世界にいたときにお世話になっていた先輩に似ている。
    イケメンで仕事も出来て、でもそれを鼻にかけない気さくなとこがそっくりで、懐かしい思いがする。
    彼に会えるのもこの店に行く理由だったりする。

    「ムコーダさん、何飲む?」
    「マスターのおすすめのものを」
    「ちょうど新作の果実酒が入ってるんだ。甘いけど口当たりさっぱりでおすすめだね。食事はどうする?」
    「食べて来ちゃいましたね。だから軽いおつまみ程度で」
    「分かった。じゃ作るからちょっと待ってな?」
    「はい」
    俺はカウンターに頬杖をついて、マスターがお酒やおつまみを用意するのを見て寛ぐ。
    大きくて男らしいゴツゴツした手が、小型のナイフを動かして果物を加工するのを「おぉ…」と見ていたら。

    「(お、おい…)」
    「(あぁ。アレって……)」


    酒場にいた周りの男たちが俺を見て肘で互いを突き合いはじめた。
    それを見てマスターも始まったなぁと苦笑いする。
    「有名人だなぁムコーダさんは」
    「どうせSランクに見えないとかそういうのですよ」
    「そうかなぁ?でもそれだって、ムコーダさんが可愛らしいからだと思うけど」
    「む。マスターは誉め上手だと思いますけど、今のはダメですよ」
    「ええ?ダメ?俺は本心がすーぐ口から出ちゃうの」
    くるりと回した手元のナイフが果物の皮を器用に剝き、皿に盛り付けていく。
    自分より大きくて男らしい手が繊細な動きをしているのに何か既視感を感じる……あぁ。
    料理動画を見てた時だ。
    料理研究家の男の配信者がこんな感じだった。
    テキパキと魔法みたいに料理を仕上げていく様子に憧れたものだ。

    「Sランクってムコーダさんが従魔達の主になったから勝ち得た称号でしょ?あんなすごい魔獣たちが認めた主なんだから堂々としてれば?」
    「……」
    「…聞いてるー?」
    「そのおつまみ、早く食べさせて下さい」
    「ムコーダ……はぁ」
    本当にマイペースなやつ、とマスターが呆れたように言う。
    その肩の竦め方とか、やっぱり元の世界にいた職場の先輩にそっくりだなぁなんて思った。



    ーーーーーーーーーーーーーーーー
    ※ここからマスター視点※



    ムコーダが俺の店に来ると一気に客が増えるんだ。

    さっき肘を突きあったヤツ…店の外のやつに何やら合図送ってたな。
    俺の店は一応、内装や家具とかにもこだわって、女性やカップルにも足を運んで貰えるような感じを目指してるんだけど、ムコーダが来るとあらくれみたいな連中がどっと増えやがる。
    まぁ金落としてくれるなら良いんだけどさ。


    噂に聞くSランク冒険者がどんなやつか見に来るやつ。
    こちらは新規様。いらっしゃいませー。
    ムコーダどうです?物腰柔らかで好青年ですよ。

    で、ムコーダが来てるってだけで見に来たやつ。
    こちらはリピーター。
    ムコーダ、ファンできてるぞお前。全員男だけどな。
    こちらは完全ムコーダ狙いのやつ。
    確かにムコーダはいいにおいするけど鼻息荒くするのやめてもらえますか。


    「これ、美味しいですね」

    ムコーダが柔らかい声で話をすると、店の中の男たちは耳をそばだてて聞いている。
    貴重なSランク冒険者の話、と研究熱心な新米冒険者から、金儲けができるかも、とアンテナをはるもの……全員の事情なんて知らん。

    だが大半はこの温厚で清潔感のある少し華奢な青年に何かしらの思いを寄せる男たちだ。

    ほら、ムコーダが美味しいとか言うもんだから「同じのを」ていう注文が続々と…。
    俺は店員が慌ただしく注文をとっているのを真顔で見つめてしまう。
    …うん、毎度ありがとうございます。


    じゃあ少し連中にサービスしとくか。

    「そう言えば、お前に聞いてくれって言われてた事があるんだよな」

    俺はカウンターの下から箱を取り出す。
    「何ですかそれ」

    中には羊皮紙の切れ端が何枚か入っていて、そん中から適当に1枚引っ張り出した。

    「お前が店に来たときに聞いてくれって他のお客さんから頼まれたことメモしてたんだよ」
    「例えばどんな?」

    「ムコーダさんて結婚されてないんですか?だって」
    「え!?あ、あの……その質問したのは…どんな…」
    おお、なんだその食いつきは。
    もじもじと指先をくっつけて少し赤くなるムコーダ…珍しい反応だ。

    「質問してきたのはかわいい」
    「え!?」


    「かわいい…………おじさんだったよ」
    「……っマスター嫌い!」

    わっとカウンターに伏せるムコーダ。
    いや、可愛いのはお前だよ。
    それにこの酒場に年若い女子が来ると思うなよ?俺の狙いは外れてあらくれみたいなやつばかりくるんだからな!
    …というか、こんな好青年で温厚な性格のムコーダでもそういうのに興味はあるんだな。
    はじめて知った。

    ちらりと周囲を見渡すと、客達が期待の眼差しでムコーダを見ている。
    質問コーナー、なかなか良いサービス提供だろ?

    「…で。質問の答えは?」
    「…あぁええと……結婚…か…」
    ムコーダはカウンターに伏せたままうーん…と唸っている。
    「そういうの、従魔達が許さないとか?」
    「あはは。みんな束縛男みたいな連中ですからね。実は俺がこうしてひとりで出かけてるのもあまり良い顔してなくて」

    特にフェルが…と目線を落とす。
    フェル…というのはあのフェンリルか。

    束縛…ねぇ。
    人語を喋る魔獣。
    はじめてムコーダがこの店に来たとき…追いかけてきたフェンリルが『このようなとこにひとりで行くなど』と怒っていたのを思い出す。
    逃がさないとムコーダに尻尾を巻きつけ、周囲を威嚇するようにしていた。
    ムコーダが優しくなだめるとコロリと態度を変え大人しい大きな犬みたいになってたな。

    「何処に行くのもついてくるか、監視してるかなんで……フェルなりに俺を心配してくれてるんでしょうけど、たまにこうやってひとりになりたくもなります。実は今日はそのことで喧嘩して飛び出して来ちゃったんですけど…」
    ムコーダは困ったような笑顔を浮かべる。

    従魔なのだから、主であるムコーダがぴしゃりと言えば何とかなる話のような気もするが…。
    いや、この男にそれは無理か。
    温厚なムコーダが「束縛男」というくらいだから、日頃からもっと色々あるのかもしれない。

    「フェルだけじゃなくて、スイも…あ、スライムの子どもなんですけど、俺がいないと泣いちゃうし」
    「え、スライムって泣くの!?」
    「泣きますよ-。とっても可愛い声であるじーって。甘えん坊でいつも一緒に寝てるんですけど……あ。………泣いてるかな、帰ろうかな……」
    「落ち着けよ。大丈夫だから」
    急に席を立ち母性を出してきたムコーダを宥めて座らせる。
    自分で自分を束縛するのは優しいムコーダらしい。
    「ピクシードラゴンのドラちゃんもお兄さんぶってるけど寂しがり屋だし……ゴン爺とフェルはすぐ喧嘩するから……。……やっぱり帰りま…」
    「コラ。気分転換しに来たのにそれじゃ意味ないだろうが」
    「でも…」
    「お前が従魔達に愛情かけてるのはよぉーーく分かった。でもさ、お前自身を甘やかしてくれるのは誰だ?」

    お前、雰囲気がシングルマザーみたいだと思ってたけど実は子育てじゃなくて、従魔達全員束縛男…旦那ポジション…?

    「今夜はお兄さんがたっぷり話聞いてやるから」
    「…先輩」

    ん、先輩?……まぁいいか。
    ムコーダを見ればハッとしたように目線を逸らし「あ、間違えました…」なんて言う。
    おい、本当にいちいち………はぁぁ。

    落ち着け俺。

    「…で、ホラ早く結婚について話せよ」
    お前にリクエストしたかわいいおじさんが聞きたがってるだろ?
    店を見渡せば客達が席をコッチに向けて期待を込めてムコーダを見てるんだが。
    ナニコレ、いつの間に講演会会場になってんのここ。

    「…うーん。実を言うと元々あまり女性には縁がないんです。付き合ったりすることは何度かあったんですけど」
    「ほう?」
    「…俺が色々つい世話を焼き過ぎちゃったり、料理作ったりしちゃうとこがダメだって言われましたね……」
    「女子力高いからなお前…」
    「あー、それです、そう言ってました……うぅ…」
    「まぁわかる。お前…どちらかというと嫁にしたいタイプだもんな」
    「な、何ですかそれ…!」
    「料理上手くて世話好きで?おまけにこうやってからかうと面白いし飽きないんだよなぁ。…嫁に来るか?」
    「マスター!」

    もぅ、と頬を膨らませるムコーダを周囲の男たちは萌えという空気で包んでいたが勿論本人は気がついていない。
    あと悔しそうに俺を睨むのもやめてもらえますか。
    ここは俺の酒場だから。ムコーダを弄るのはマスター特権です。

    「でも本当、結婚したらお前は良い嫁……親になるだろうよ。ここに初めて来た時さ、従魔達への諭し方というか、接し方がさ……見てたやつなんて言ってたか教えようか?」

    ムコーダを迎えに来た気の立ったフェンリル。
    ムコーダはそんなフェンリルを撫で、優しく話しかけ、ものの数秒で大きな犬みたいに変えてしまったのだ。

    「聖母サマ」
    「…はいはい。言ってて下さい」

    ムコーダは拗ねた目のままグラスを煽り、おかわりください、とテーブルにトンと置いた。
    ムコーダにしては雑な置き方に苦笑いしつつ、ご機嫌を直して貰うために急いでおかわりを作った。

    「…からかって悪かった。これはおごり。お詫びだ」
    「……マスター、優しい。好き」
    「っ……お前な。はぁ…もういい。飲め」

    ニコリと笑ってグラスに口をつけるムコーダ…。
    俺も飲みたい気分だよ、と思わず頭を抱えた。
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