ラッキースケベが全然ラッキーじゃなかった件②②
あれから月日が流れて。
俺にはフェル以外の従魔が増えていた。
俺は変な体質のせいで人と接触するのは宜しくないということで、屋敷を買って、従業員を雇って、生活の基盤を整えた後はほぼ引きこもり生活だ。
外に行くのは狩りに出掛ける時くらい。
料理に使う肉は必要だからね。
月日が経っても相変わらず俺の変な体質は直らず。
スイのポーションやエリクサーを試したり、最終手段!といつもお供えをしている女神達に泣き付いてみたんだけど。
原因も分からないし、愉快だからいいじゃない、と言われて俺の繊細なハートは傷ついたぞ……。
「うわーっ!」
今日も朝から俺は変な体質のせいで周りに迷惑をかけてしまう。
躓いてコップの牛乳を頭から被り、顔も着ていた白いシャツも牛乳まみれだ。
それだけなら良いんだけど巻き込んで一緒に転んだフェル(フェルが転ぶとこはじめて見た)が完全に仰向けになっておりその上に俺が倒れて牛乳まみれというカオス。
毎回毎回なんでこんなことに…と泣きたくなるよ。
フェルの腹の上に跨がったまま、フェルを見ると、怒ってはいないようだったが何か難しい顔をしていた。
『ぬぅぅ……何故お主はそんな……』
「いっぱいミルクかかっちゃった……」
ミルク、と俺が言うとフェルがぴくりと震えた。
あーあ。
ミルクまみれ。
フェルの毛もミルクまみれ。
「ごめんな?今フェルのきれいにするから」
俺はフェルの上で方向転換し、ペット用の拭き取りシートをアイテムボックスから取り出した。
ミルクのかかったところをふきふき。
ぬぉぉ、と苦しそうな声がして首をかしげる。痛かったのだろうか?
『お、お主!そこは!そこは良い!!』
「え?でも。放っておくとガビガビになるよ?」
『じ、自身でやるからいい!』
「えーだってココは……」
ぴしり。
毛をかき分けて拭いてたら見つけてしまった。
フェルの…ご立派なアレ。
『触るな……えっと…本物が、出る…から』
「う……うん、ごめん俺何も見てない」
本物?と首を傾げながらも毛を元に戻し、するりと腹の上から滑り降りた。
だって嫌だよな、いきなり他者にアレ見られたり拭かれたりするの。
それにしてもすごく大きいアレが零れたミルクで濡れてて………いや、忘れる!忘れよう。
フェルの身体から降りると、ゴン爺が俺の格好を見てウットリと眼を細めている。
ミルクが好きなんだろうか?
『主殿……えっちじゃあ…』
「え?」
『朝から全身ミルクまみれとは。フェルもやりおるのう』
「ん?」
『服もすっかり主殿の肌が透けて見えるのぉ。目の保養じゃあ…』
あ。
言われて見下ろせば酷い格好だった。
白いTシャツは濡れたことで身体に張り付き、肌色を滲ませている。
ぷっくりとした乳首の形やピンク色がはっきりと浮かび上がっている。へその窪みとか。
いやでもお風呂で散々裸なんて見せてるし、ここにいるのは従魔達。人じゃない。
だから全然恥ずかしがる事なんてないんだよな。
良かった、と思っていると足元にてんてんとスイが飛んでくる。
『あるじーミルクかぶって遊んだの-?』
「コケたんだよ」
『ミルクおいしそー!スイ、なめてもいい?』
「ミルクならお皿に入れてあげるよ?」
『あるじのがいいのー』
その場に座ると膝の上でスイが触手を伸ばし、俺の身体に滴ってるミルクを綺麗にしてくれる。
スイなりに俺のこと心配してくれてるんだな。
本当ごめんよ?
そして何て優しい子に育ったんだ…あるじは嬉しいです。
「ん…っ」
こちょこちょと体を這うように動く触手がくすぐったいよ。
折角スイが綺麗にしてくれているのにくすぐったくて「やめて」何て言ったらダメだよな。
俺は我慢しながらそのプニプニボディをなでなでする。
『ちゅーちゅー、あるじのミルクおいしー』
「ん……す、ィ、そこは大丈夫だよ……んっん、……っあ」
何かいつもこんな感じで皆にも迷惑をかけてしまうんだよなぁ。
一通り落ち着いて。
俺は一旦風呂に入って着替えた。
リビングに戻るとみんながいたからぺこりと頭を下げる。
「さっきはごめんな?」
従魔の皆に迷惑ばかりかけちゃう。
人じゃなくても誰にでも発動してしまうのが本当に俺の体質の悪いところで。
俺がしゅんとなって落ち込んでると、従魔の皆がソワソワと身体を揺らした。
『い、いや!我は!お主の面白い体質は、その、好ましく思っておる!!そのままで良いぞ!!』
「フェル……」
優しい。
本当は嫌だろうに…俺を元気づけるために…。
うんうんと皆も首を縦に振ってくれてる。
「ありがとう、みんな…」
その優しさにジーンとして、自分の可愛い従魔達を撫でようと一歩踏み出した。
「……うわ!」
ズルッと後ろにすっころんでスッポンと脱げるズボン。
『…』
『……』
『……』
『…』
「……」
何でだよ、なんでこんなことになるんだ?
おかしいだろ…。
『マジでお前、面白すぎて目が離せねぇ』
『あるじはいつも気がつくと服無くなるねー』
『我は、我はお前の体質を…とても好ましく思っておるッ!』
『若造め…最近欲望を隠さぬようになってきおるな』
従魔達がコメントを言い合ってる中、俺はいそいそと脱げてしまったズボンを身につける。
何故だ、何で簡単に脱げる?
しっかり紐で結んだと思ったのに…!
こんな酷い体質で街に行けるんだろうか?
…というのも。
「そろそろギルドに行かないとダメなんだ」
俺がそう言うと、その場の空気が固まった。
『ギルド……街に行くのか』
「そう。だってそろそろ肉が無くなるから」
『そ、それは致し方ないな。だが…』
4匹とも何か言いたげに俺のことを見ている。
屋敷から冒険者ギルドはさほど離れていない。
子どものおつかいでちょちょっと行ける距離だ。
だけど通りを歩いてる人は多い。
絶対俺の体質に巻き込んでご迷惑かけてしまうだろう。
「…みんな、付いてきてくれる?」
ひとりじゃ不安すぎる…。
また前の時みたいに知らない男の人に代わる代わるエッチな事されたら(相手は不本意だろうけど)嫌だし。
4匹がいれば、特にフェルとゴン爺がいれば大抵の人は道を空けてくれるから、少なくても対ヒトのハプニングは防げるはず。
聞けば4匹は力強く頷いてくれる。みんなイイコや…。
『絶対にお主を守る…!ヒトなんぞに美味しい想いをさせるか。お主は我にだけそれを起こしてれば良いのだ……!』
『あるじのことはースイがまもるのー!!ミルクこぼしたらスイがちゅーちゅーしてあげるからまたこぼしてねー?』
『お前の体質面白ぇけどさ、他の人間に味合わせるのは勿体ないよな-?俺が付いてるから心配すんなって!!』
『主殿は心配せずとも儂らがついておる。発動したくなったらフェルの若造ではなく儂にくっついておれば良い』
「…ありがとう!」
こんなに俺を思ってくれる従魔達がいてくれて、本当に心強い。
俺は手を広げて4匹まとめてぎゅーってする。
全然腕が足りないけどそこは身体をずらして万遍なくぎゅーした。
「あ」
誰かの爪がひっかかったのかびりりーっと破ける服。
果物の皮が剥けるみたいに裂けた服から現れる上半身裸の俺。
「…着替え、沢山持っていかなきゃ」
あはは、と力なく笑ってしんみりと言う俺。
慰めるつもりなのか、フェルが首筋を舐め、スイとドラちゃんが胸元に飛び込み、ゴン爺が鼻先を脇の下に突っ込んでくる。
「ん…っ、う、……ごめんな、みんな…あっ」
こんな変な体質の主で。
4匹にたっぷりと慰めて貰った後、俺は改めて準備をし久し振りに街に出かけるのだった。
勿論アイテムボックスに着替えを沢山詰め込んで。
おわり。