【約二時間暇なので】とある都市を訪れたら門のところに長蛇の列が出来ていた。
どうやら街道で商人の荷馬車が盗賊団に襲われたらしく、検問を強化しているらしい。
持ってる荷物を全部開けられて被害にあった品がないか、危険物を持ち込もうとしていないか等細かく見られているみたい。
並んでいる人数から見て1時間半から二時間ほど待つやつだ。
はぁ、とため息をつくのも仕方が無い。
仕方なしに最後尾に並ぶ。
フェルがのしのしと歩いてくると前の商人風の男の人がびっくりしてたから「従魔ですグレートウルフです」といつもの台詞を棒読みで。
『我はグレートウルフではない』
とフェルが反論するのもいつもの流れ。
…ていうか普通に喋るなよ。
俺の穏便に検問を抜けたいという想いを無に帰すなよ。
ギョッとしたようにフェルを見上げる男に「ふ、腹話術です!……コンニチハオジサン」
フェルの前足をつかんでフリフリ揺らしながら適当に誤魔化す。
そして、フェルに向かって口の前で指でバツを作った。
喋っちゃダメ、というジェスチャーが通じたのか、フェルは念話に切り替えたようだ。
『…じっと並ぶのは退屈で疲れる。門を飛び越えるか』
「ダメだって!怒られちゃうよ。……俺が」
そう。
イライラしたフェルをまあまあと宥めるように言うのも、もしフェルが苛立って暴れたときに周囲に謝るのも俺なんだからな。
某テーマパークの待ち時間みたいに周りを見たりして二時間楽しめれば良いのにね。
『あるじー、スイは鞄ででねんねしてるねー…』
「え、スイちゃん眠いの?」
あぁスイちゃん。
俺の癒し。
スイがいろいろお話ししてくれたら俺が癒されるしフェルのイライラも少しいいのにな……
「少しあるじとお話ししようか?」
『ううん、スイねむいー』
あぁダメか。
まぁ眠くてヤダヤダグズるよりは良いか。
いいな!俺も寝たいよスイちゃん…!
するりと鞄の中に入ったスイは数秒で沈黙した。
俺は愛しい鞄の重みを感じながら隣のフェルを見る。
そんな険しい顔して…。こわいよ。
周りがビビってるだろ!?
イライラしたフェルがイライラを俺にぶつけてくるのをいつもクッション役になって真ん中で緩和してくれるスイちゃんはもういない。
というわけで、長蛇の列に並んで苛つくフェルと2人っきり二時間コースが決定したのだった。
「あ、そうだ!じゃあフェルどこかでお昼寝してきてよ。狩りでも良いし!俺が並んでて、近くなってきたら呼ぶから」
『……お主は学習しない生き物なのか?以前にそれをやってどんなことが起きたかもう忘れてしまったのか?』
呆れたようにフェルが俺を見てくる。
う。
忘れてないよ…。
そう、前にも街に入る前に長蛇の列で並んだことがあるんだけど、フェル、イライラするし、だったらどこかで昼寝でもして貰って、良いタイミングで呼ぶよ、て提案したんだよね。
長時間ひとりで並ぶのは俺だって大変だけど、イライラしたフェルを宥めるのはもっと大変だからね。
良い作戦だと思ったんだ。
でも、フェルが何処かに行った途端…。
「Sランク冒険者のムコーダさんですよね!?」
「オレ、ムコーダさんにお会いしてみたかったんです!!」
「握手してください!!うわー何てスベスベしてキレイな肌なんだ」
「え。えっ!?ちょっと…あ、そんな!勝手に触っちゃ……待っ!!」
あれよあれよという間に俺は周りの冒険者集団に囲まれて文字の如く揉みくちゃにされた。
無数に伸びてきた逞しい腕。
男たちに囲まれて、肩を叩かれて背中をさすられて、腰を撫でられ…段々調子に乗ってきたのかお尻も…!
「待って!やめてください…!」
「ムコーダさん、めっちゃ良い匂いするな…」
「マジか!嗅がせて下さいよ」
「や、うなじやめ…っ、ひっ!」
もうあの時は必死に念話でフェル助けて-!!て叫んだよね。
秒で来てくれたフェルが涙目の俺を見て怒り狂ったのを宥めるのが大変だったけど、フェルがいるだけで男たちは蜘蛛の子を散らす勢いで居なくなってた。
弱っちい見た目の俺は実はフェルにいつも守られてたことが分かって感謝した出来事だった。
「フェルには…俺の側に居て欲しいです」
『それで良い。お主には我が必要だろう』
「うん」
フンと鼻を鳴らすフェルにそっと身を寄せる。
フワリと温かいフェルの体温。
少しくすぐったい毛。
フェルのにおい。
思わず顔を埋めたら前足でもっとくっつくように押された。
『どうした?急に可愛いことしよって』
「改めてフェルに感謝しなきゃって」
念話でやり取りしながら、フェルに甘えている俺。
旗から見たら従魔とのスキンシップしてるくらいに思われるだけかな?
なら、もっとくっつこうかな。
フェルも俺が甘えたらイライラおさまったみたいだし。
そうか、こうすれば良かったのか。
俺も気持ちいいし、フェルも落ち着く。
WINWINじゃん。
「フェル…大好き」
『…我にとってお主は最愛の番で最も大切な存在だ』
あぁ、キュンってする。
念話のフェルの声、好きなんだ。
耳の奥に直接届くから、心が直接刺激されたように震える。
「キスしたい」
『我は気にせんが』
「でもしたら止められ無くなっちゃうしな…」
『我は気にせんが』
フェルさんや。
前足の甲で俺の顎をすくって上向かせて。
スタンバイするの早くて笑ってしまう。
俺はさりげなく周囲の様子を見る。
荷物検査を受けていた冒険者が何かあったのか声を上げ、周囲がなんだなんだ?とざわめいた瞬間。
ちゅ。
とさりげなく触れるだけのキス。
ぽっと身体に灯る火。
まるでそれがスイッチだったかのようにフェルも俺もたまらなくなってしまって、スキをみながらキスを繰り返す。
さすがにダメだ、と後は胸毛に顔をうずめて熱をやり過ごす。
フェルの前足が俺を引き寄せるからフェルもきっと同じ気持ちなんだろう。
『したいな』
「したい」
同時に言ってて笑ってしまった。
「我慢」
『苦行過ぎる』
「街に着いたらフェルも一緒に寝れる宿探すから。大きな街だからきっとあるよ」
『早くお主の身体に我の子種を注ぎたい』
「うん…俺もフェルにいっぱい奥を…突いてもらいたい…」
『念話だとお主は大胆だな』
「だって…思うだけで伝わっちゃうからさ、恥ずかしがる暇が無いし」
『ほう?ではいつもそんな事を思っているのか?』
「思ってるよ…悪いかよ!フェルとえっちする、好き、だから」
『…ならばこれから毎晩だ。我ら魔獣は本来、子作りの為にしか交尾をしない。だが人はそうではないのだろう?』
「うん。お互いの愛を確かめ合うために、自分の想いを伝えるためにするのかも。でもさ、さすがに毎晩は俺が疲れちゃうよ」
『む。やはりもう少し鍛えるべきだな。そして毎晩できるようにするのだ』
「フェルの精子枯れないの?」
『お主を見てると無限に湧くな』
「不思議な泉かよ…」
「じゃあ俺は…フェルの上に乗ってフェルの、いっぱい奥まで入れて…」
『我が突けばお主は弾みながら甘い声で啼く…あの声は良い…ずっと啼かせてやりたくなる』
「あっ…あっ、俺は気持ちよすぎて、逃げたいけどフェルのものが奥まで入り込んじゃってるから声をあげることしか出来ない…」
少しずつ列は進む。
俺は相変わらずフェルに抱きついたまま。
段々念話がエスカレートしえっちな話題になってきて、俺もフェルも頬が赤い。
「フェル、イジメッコだから俺に声を出させるためにワザとイイトコロばっかり狙ってくる…上に乗るときはフェルが深く入って来るから俺の体の中がどうにかなっちゃいそうでちょっと怖いけど、フェルのいつもより野性的な顔見れるから好き……あっ、もっと、突いて…」
『お主は為す術がないまま、我の上で1番弱きところを突かれて跳ねるしかない。我を煽るように無意識なのか挿入した我の性器をキツく締めてくる。雄のくせに射精を促す術を知っておる……厭らしい生き物よ』
「その言葉そっくりそのまま返すよ……だってフェル、さっきからハァハァ煩いもん。…ていうか、戦うときは息も乱れないのに、俺とスるときはハァハァしてるよな……すごくえっち」
『お主を前にして発情せずにはおられんからな……早く最奥に子種を注いでやりたい。お主をメスにしてやりたい』
「メスになれるかは分からないけどさ、俺に夢中になってるフェル……嬉しいな。そしてちょっと可愛い」
『ぬ!?可愛い…か……。可愛い、という概念は魔獣である我らにはないものだ。それはスイのような幼きものに向ける感情だと思ってたが』
「フェルは可愛いよ」
『ぬぅ……お主に想って貰えるという点で悪い気はしないが…複雑だ』
「ふふ。じゃスイちゃんみたいに俺に甘えてみて?」
『鞄には入らんぞ』
「ぷっ……!そうじゃないよ。んー…赤ちゃんプレイでもしてみる?」
『なんだそれは』
「俺の元いた世界であったの。大の大人が赤ちゃんになりきってお世話して貰う体験をするってやつ……何だよその目。俺はやったことないぞ!」
そもそも風俗なんて行った事なかったんだからな!
『スイの真似か』
「うん」
『お主…の乳飲みを所望する』
「ぷーっ!!だめ!ひっ…ひぃ、笑っちゃ……あっ!」
『本当にこの場で吸ってやるぞ!?』
「うそうそ!……あー…、はっ、でもフェルなら……吸ってもらいたい、かも」
『ふむ……いつもお主の乳首は舐めてやるだけだったからな…今後はここを開発するのも良いかもしれぬ』
「か、開発って……んっ」
フェルの前足が軽く俺の胸を撫でていく。
『メスのようにここから乳が出るように毎日躾けていく』
「あっ……それは……んっ、」
『想像して厭らしい声出しよって…』
「だって……っ」
『我はお主の感じる場所をすべて心得ておる。いつか全部同時に攻めてみたいものだな?』
「あ……フェルっ」
ぎゅう、一層強く抱きつく。
そんなことされちゃったら、俺は…。
早くこの雄にめちゃくちゃに抱いて欲しくて。
フェルの事を笑えないくらい、はぁはぁと息が上がって、汗がじんわりと滲んでくる。
念話してるだけなのに。
いや、念話だから。
心に直接届くフェルの声で、俺は心までこの魔獣に犯されていく。
その時。やっと前の人が兵士に呼ばれて進んだ。
ドキドキと鼓動が煩い。
頭の中、フェルに抱かれる事でいっぱいで…。
えっちなスイッチ入っちゃってる。
「フェル…っえっちしたい」
「次の方どうぞ!」
年若い兵士が俺を呼んでいる。
『我もだ。ほれ、早く済ませてこい』
「うんっ」
フェルの声も熱っぽい。
あぁ、俺と同じなんだと思うと嬉しい。
頬を赤くし、少し息が上がってるのを何とか堪えながら冒険者カードを門兵に提示する俺。
「は……ふぅ……間違いございませんか?」
「はい。確認できました。カードお返ししますね」
Sランクの冒険者カードってすごい便利。
見せればすぐパスしてくれるから時短で助かる。
手荷物の検査も、俺はアイテムボックス持ちだから、手提げ鞄を少し開けて寝ているスイを見て貰うだけで終わった。
「はい、では通行を許可します」
「はぁっ、ありがとう…ございます…っ」
「大丈夫ですか?具合でも…」
「ちょっと暑くて…平気ですから」
フェルとえっちしたくて、こんなことになってます…。
大丈夫でも平気でもないです。
「あの、…っ、この街に従魔との一緒に泊まれる宿あります?」
「その大きな通りの奥ですね。具合悪そうですし私が送りますか?」
兵士の手が肩に触れるか触れないかの所でそれを制する赤い毛の生えた前足。
『必要ない。我が運ぶ』
「は、はい!では!ご、ごゆっくり…」
慌てて去っていく兵士。
「あ、フェル…っ!」
『そんないやらしい顔をするな!分かっておる!』
フェルが伏せてくれたので縋り付くみたいに抱きついて背に乗せて貰った。
『行くぞ』
「うん、フェル…早く」
いつもは街の中で走っちゃいけませんって注意する俺なんだけど。
今回は別。
早く早くと急かす俺にわかっておるわ、と答えるフェルという図。
宿屋で部屋を借り、転がり込むように入った大きな部屋の中に入るなり、もうたまらなかった。
「あ…ん、フェル…っ、フェルぅ…!」
『ハァ、待ちわびたぞ…!』
ごめん、スイちゃんもう少し寝ていてね。
疼いた熱はふたつ分。
だって約2時間分我慢したんだ。
重なり合って身体がひとつになっても、それはすぐにおさまることは無かった。
おわり。