激化した任務で戦闘不能に陥るコンビクトが多くなったせいか、最近局内で葬式ごっこが流行っている。彼らが不謹慎なのは今に始まった事では無いから今更わざわざ注意する程の事でもないし、それに葬式とはいえ生前葬のような明るい雰囲気のパーティーを開いているらしく、ただ集まって飲み食いする理由が欲しいようにも見える。なによりそんな事をさせない為にはまずこちらが戦場で倒れるコンビクトをなくすよう対策をとる必要があるので葬式ごっこの件は放置していた。そんなある日、私の執務室にfoxが箱を抱えてやってきた。
「なんだそれは。」
「先程レヴィとトトさんの合同葬式に参加させられて、その香典返しです。」
「あなたまでそんな事を……というか香典!?金を渡したのか!?」
「無理やり巻き上げられたんですよ。まあ香典というよりは……高級食材を使った料理の食事代とか、チャルメラ演奏代とか、そういう理由で高額請求されそうになりましたが価格もやり方も詐欺なので反論して一旦は香典の件は無くなりましたよ。けれど、折角香典返しを用意したのにと嘘泣きし始めて、お礼の品に釣られたコンビクトたちはある程度のディスコインを払いましたけどね……。」
しまった……そういう事も起こるのか。クソ、忙しくて葬式ごっこに詐欺師が目をつけるなんて想定外だった。
「あなたは別にお礼が欲しい訳じゃなかったんだろう、わざわざ払ったのか?」
「……他の方が払ってるのに金持ってるはずの私が払わないのはどうなんだと文句を言われたので。」
「あぁ……プライドか……。ところで中身はなんだったんだ?」
「何でしょうね、まだ開けてないですけど。」
机の上に箱を置いたfoxに開けろと目線で訴えられ、箱を開くとシャワーヘッドが出てきた。もう本当に呆れた……。
「……葬式ごっこは今後禁止にしないとな。」
シャワーヘッドを箱に戻し、中断していた作業を再開する。ついでに葬式ごっこ禁止のポスターを作成してもらうように事務員に局内メールを送らなければいけなくなった。
「まあ詐欺行為はともかく、それはやり過ぎでは?」
「?」
「健全に葬式を行うコンビクトが殆どですし、それに……」
「……fox?」
「私もやりたいですよ、生前葬。」
「!?」
まさか、彼が局内の流行りに乗ってくるとは思わなかった。参加するどころか自分からパーティーを開くようなキャラじゃなかったと思っていたが、やはり人の内面はブラックボックスだと実感する。
「ふっ、なんですかその顔。別に私はあの人たちみたいに宴会を開きたい訳でも、ましてや詐欺をしたい訳でもないですからね。ただ、コンビクトの再生能力に加え医療班の方々の治療もあり、それにあなたの枷で私たちは簡単に死ねないかもしれませんが、それでも不死身になった訳では無い。私を地獄へ送り出すための二人だけの儀式をいつかあなたにして頂けたら、……などと、そんな事を考えていたのです。」
地獄に行く話をしながら、まるで旅行の計画を立てるかのような、表情で、それでいてどこか悲しげな声色で、foxはそう語った。
「……そうか。その時はあなたと私の好きな食事を用意しよう。折角なら私の葬式を兼ねて、合同葬だな。」
その日の夜は、foxと2人で珈琲を飲みながら互いの好きな食べ物や欲しい物を教え合った。いつか行う生前葬の為に。