ねこ化したらどうなるのか?白衣の袖を捲りながら、スファレは黙々と試験管を振っていた。
今日もまた、己の研究の成果を確かめるための実験。だが――
「……っ!?」
視界が急に低くなり、身体がぐにゃりと変化していく感覚に襲われた。
気づけば机の上に乗るほどの小さな体躯。目の前に映るのは毛並みのある前足。
猫耳が生えた、などという中途半端な変化ではない。完全に、一匹の猫へと姿を変えてしまっていた。
(……ふむ、この状態では解毒薬は作れませんし……効果が切れるまで待つしかありませんね)
ひとまず冷静に状況を分析する。焦っても無駄だ。だが、よりによってそのとき。
最悪な人物が研究室の扉を開けてしまった。
「え? 猫? なんでここに……」
ライトだ。スファレにとって最も見られたくない相手。
逃げる間もなく、ひょいと抱き上げられてしまった。
「……にゃー」
必死に猫を演じ、どうにか誤魔化そうと鳴いてみるが――下ろしてはくれない。
「もふもふ……かわいい」
無邪気に頬ずりされるたびに、羞恥で耳まで熱くなる。
猫だから可愛いのであって、自分自身が可愛いわけではない。それはわかっている。
だが、それでも胸の奥に小さな火照りが広がってしまう。
「にゃあ!」
抗議のつもりで鳴く。だがライトには届かず、余計に腕の中で強く抱きしめられる。
「んー、かわいー……なんかスファレに似てんな、おまえ」
その言葉に思わず体がビクッと跳ねる。
まさか気づかれたのでは……と緊張するが、ライトはただ笑って続ける。
「お? 急に大人しくなった。名前、気に入ったか? スファレ〜」
撫でられる頭。すり寄せられる頬。
抵抗の声はまた「にゃー」としか出せず、もはやライトの好きにされるしかなかった。
──それから。
肉球をつつかれたり、丸めた背中を撫でまわされたり。
抱え上げられては「もふもふだ〜」と笑われ、散々遊ばれ続けること数時間。
体の奥から再び熱が走り、世界がぐらりと揺れる。
気がつけば――スファレは人間の姿へ戻っていた。
「……っ」
次に気づいた瞬間には、ライトの膝の上。
しかも、着ていたはずの白衣も服もすべて消え失せ、裸のまま抱きかかえられていた。
「……え?」
目を見開き、困惑した声をあげるライト。
膝の上で身を縮め、羞恥に耐え切れずに涙ぐむスファレ。
「っ……っ! な、なぜ……服が……!?」
「いや、それおれが聞きたいって……!」
互いに混乱したまま視線を交わす。
スファレは動けず、ライトもどうすればいいかわからない。
「……っ、見ないでください……!」
涙をこらえきれず、震える声が零れる。
その瞬間、ライトは黙り込み――そして小さく笑った。
「……やっぱり、おまえ可愛いな」
「~~っ!!!」
羞恥の極みに涙が零れ落ち、スファレはますますライトの胸へ顔を押しつけるしかなかった。