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    拳の手の甲や手首にキスマークを残す修の話

    拳修小話修兵には色んな癖がある。
    機嫌が良い日には茶渡から習っているというギターのメロディーを鼻歌で歌ったり、天気が悪い日には顔の傷を撫でるように頬杖をついたり。
    好いてるヤツのそういう癖を一つづつ知っていくのは楽しい。が、これは一体どういうことだと己の手首に目を遣る。
    そこに散らばるのは無数の紅い痕。手の甲や手首に残るそれらは、すべて修兵が情事の際につけたものだ。
    「修兵、お前なんだってこんなとこにつけんだよ」
    隣で寝そべっている修兵に手首を向ければ、へへっと力無く笑う。その気怠い様子に、身体の熱が上がりそうになるのをなんとか抑える。
    「綺麗につきましたね」
    「いや、そうじゃなくてだな。なんで手首とか手の甲なんだよ」
    痕を残したい気持ちは、まぁ分からなくもない。でも「コイツは俺のモンだ」って主張するなら首筋とか胸につけるもんだろ。
    そう修兵に告げれば、うーんと腕を組んで思案顔を浮かべる。自分の想いを相手に伝えるにはどう言葉にしたら良いかを考えている時によく見せる表情だ。
    修兵は言葉を惜しまない。こちらが求めれば、考えや想いを明確に伝えることが出来る。それは盲であった東仙とのコミュニケーションの中で培ったものなのだろう。
    その一方で、表情を読んで察することにも長けていて、こちらが指示しなくても先んじて動くことができる。そのこと自体は助かる部分も多いのだが、殊にプライベートとなると話は別だ。
    「そうですね、」と言葉を区切って 、修兵が想いを言葉に乗せる。
    「拳西さんを俺のものだと主張したい訳ではなくて、こうすることが許されているというのを感じたいだけというか……」
    「……」
    「それに首筋とかだと周囲に見えちゃって居た堪れないですし……。ここなら手甲で隠せますし、煩わせることもないでしょう」
    「……色々言いたいことはあるが」
    修兵を押し倒すように覆いかぶさり、左頬に手を添えて、視線をこちらに向けさせる。目をそらすなんて許さねぇ。
    「お前が俺に寄越すものを煩わしいと思ったことねぇ」
    「……っ」
    「それからどうにも分かってねぇようだから言うが、俺はお前のモンなんだよ。で、お前は俺のモンだ。お前がそれを周りに見せたくないって言うならかまやしねぇが、それだけはちゃんと分かっとけよ」
    「~~っ」
    「返事は?」
    「は、はい……」
    自分ばかりが俺のことを好きだと思っているようだが、そんなのはお前の思い込みにすぎねぇんだよ、バーカ。
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