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    拳が修の前髪を切る話

    拳修小話ーージャキン、ジャキン
    縦に入れられた鋏は、前髪ひとつまみ分の長さを切り揃える。薄く目を開けると、「うーん?」と何やら難しい顔をしている隊長が視界に広がる。恐る恐る鋏を扱い、ジャキンと慎重に切っていくその姿は普段じゃ絶対に見られないものだった。愛しさが湧き上がるのを誤魔化すように瞼を下ろす。

    事の発端は隊長からの一言だった。
    「前髪長くねぇか?」
    勤務中 、たまりつつある書類を一緒に片付けていたら、書類に飽きた様子を見せた隊長がそう声をかけてきた。
    「そうですか?」
    言われてみればそうかもしれない。でも、少し目にかかるぐらいでそこまで気にはならない。
    「変なとこで無頓着だよなお前……」
    と呆れた様子の隊長に、へらっと笑って返す。
    「床屋にはどれぐらいの頻度で行くんだ?」
    「うーん……半年に1回行けばいいぐらいですかね」
    「はぁ!?」
    信じらんねぇと隊長がぼやく。
    しかし、元々流魂街でも治安の良くない地区にいたせいか、髪をそう頻繁に切ることがなかった。それどころか、他人から鋏を入れられることに抵抗があり、あの頃は自分で適当に切っていた。さすがに真央霊術院に入ってからは、それではダメだと思って、意を決して定期的に髪結床に行くようにはなったが。
    「前髪は大抵自分で切ってるんで、全体が伸びたら行くぐらいです」
    「ふーん。……じゃあ、俺が切ってやろうか?」
    「えっ!?」
    思いがけない提案に驚きつつ、なぜか楽しげな様子なので任せてみようかなと思ったところで、気になったことが一つ。
    「……普段誰かの髪を切られたことあるんですか?」
    「いや、ないな」
    即答。
    「…………それは、大丈夫なんスか」
    「なんとかなるだろ」
    「……」
    そんなやり取りが昼間の出来事。

    (めっちゃドキドキするなんだこれ……!!)
    リズムの良い鋏の音と、隊長の手のひらから伝わる体温が心地よい。
    だがその一方で鋏を入れる度に詰まり、無事に切れたらほうっとつかれる隊長の息遣いが近くで感じられるのが宜しくない。
    (ソーイウコトしてる気持ちになって落ち着かねぇんだけど!?)
    隊長は真剣に前髪を切ってくれてるだけなのに、邪なことを考えてしまう自分に罪悪感が募る。
    「……よし、目開けてちょっと顔上げろ」
    「は、はい……」
    言われた通りにすると、顎をくいと掴まれ固定される。バサバサと力強く前髪を乱されたかと思えば、さらと流すように指で梳かされた。
    「だいぶさっぱりしたろ」
    「そ、そうですね」
    「どうした?顔真っ赤だぞ」
    「な、なんでもないです!!ありがとうございます!!」
    「おう。なんならまた切ってやる」
    「だ、大丈夫です!!」
    切られるたびにこんなことになったら身が持たない。そう思い、言われる度に丁重にお断りするも、あれよあれよと切られるようになるのはまた別の話。
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