檜佐木修兵は線を引く。
どうやらそれは、自分の領域に誰かが入って来られないようにするというよりも、自分が他人の領域に入らないようにするためらしかった。元来の性質なのか、あるいは瀞霊廷通信を取材していく上で身につけたものなのかは分からない。分からないが、そのことを感じ取った時に真っ先に浮かんだのは苛立ちであった。
憧れている、慕っていると、顔にも態度にも出す一方で、アイツは「俺」に踏み込んでこようとはしない。こちらが一歩踏み込めば、向こうが半歩下がるといった形で、いつまでも線を越えられない。
「憧れてるからこその距離なんちゃう?」と真子は言うが、俺にはそうとは思えなかった。
むしろ。
諦められている。しかも勝手に。
それが無性に気に食わない。