心配してくれていたのは最初からわかっている。ライトのために仕事を調整して、店のことも調整して、きっとこちらに見せていない面もある、それだけのことをして時間を作り出してわざわざ郊外にきた。その前に集められる情報を集めて手配して、アキラは、自分にできることを惜しまず実行してそばにいる。
全部がライトのためだけに、されたことだ。
「すこし外に出てみるかい。散歩して、お腹が空いたらお昼ご飯も考えよう」
アキラはスマホに視線を戻して続ける。またチートピアにいくか、それとも何か買ってくるか、作るのは…ライトさんの部屋を借りていいなら何か作るのもいいね。まぁ、僕の料理が期待できないのはもう知ってるだろうけれど。
「アキラ」
呼べば、ぱ、と顔を上げてくれる。なんだい、と気のせいだろうか、その目もいつもより雄弁だ。
もう一度、今度はちゃんと、キスをした。アキラも少しの間をおいて返してくれる。ひどくゆっくりとしたキスだった。唇を重ねて、挟んで、ずらしてはまた重ねて、吐息混じりの静かな口付け。
は、と息を吐いて離れれば、アキラの目尻がすこしだけ赤くなっている。
「…念のため言っておくけれど、」
「? なんだ、?」
口の動きを読めなかった。それがわかったのか、アキラがスマホを素早く操作する。ただ、その手はなぜかやや逡巡しているようだった。手元を覗き込んでくるライトを見て、困った顔もする。なんだ、と繰り返せば、肩を揺らして手を動かした。溜め息でも吐いたのだろう。
『念の為に言っておくけれど、その、えっちは治ってからじゃないとだめだからね。あと、ここではしない』
その文字を見てぴたりと動きを止めたライトに、アキラが顔を上げる。
チャットの画面に打たれてはいるが送られていないそのメッセージに手を伸ばし、ライトは送信ボタンを押した。
「あ、」
それから自分のスマホを操作して、いまのが送られていることを確認する。我ながら顔がにやけそうだなと思っていたら、頬をつねられた。
『ライトさん、どういうつもりかな』
『すまん。あんたがかわいくて』
『か』
『なぁ、治ったらえっちしていいのか?』
『………』
わざわざ無言を送ってくるのがおかしくて隣を見た。目尻から頬に赤が広がっている。指が動いては止まり、また動こうとして、また止まった。
すでに体を合わせたことはある。何度もある。なのに時々、こうしてライトにはわからないところで照れを見せるのがたまらない。このやり取りが、アキラには照れ臭いらしい。
キスしかするつもりはなかったのに、と苦笑していたら、ぱ、とアキラが顔を上げた。
赤く染まった目尻のままじっと見上げてくるオリーブグリーンは、荷台の天井から明かりを受けてきらきらしている。
「なおるまで、おあずけだ」
そう、言葉を区切って聞かされた聞こえない声に、ライトは口元を押さえて笑った。
「了解だ」