アヴァロンルフェの標本植物を愛したその男は、一つの花園を作った。誰にも邪魔されない、誰も踏み込めない、まさに秘密の花園。アヴァロンと名付けたその温室。
「ただいま」
植物に優しく話しかけると綺麗に花を咲かすという。
だからその男ーーマーリンは温室の花たちに丁寧に話しかけ、水をやり、愛情を込めて花を育てる。
巷でマーリンの育てた花は何よりも美しいと評判であった。
植物学者の天才、と謳われ、その研究室であるその温室は、美しい花々の周りを、宝石のような翅を持つ蝶が舞い、まるで御伽噺に出てくるかのような神秘的な光景を描いた絵画のようだった。
マーリンはゆっくりと温室の奥へと進むと、花園の中心に大きな円形のベッドが置いてある。
そのベッドは、一際美しい花に囲まれており、そこにはこれまた御伽噺に出てくる王子様のような青年が、まるまって穏やかに寝息を立てている。
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