さはん現代転生AU「師尊……?」
現世では一度も呼ばれたことのない敬称で己を呼ぶ声を、忘れたことはない。だが沈垣は前へ踏み出す足を止めるわけにはいかなかった。
頼まれた買い物のために、いつもより遠回りをした帰り道。葉を落とした木々が並ぶ公園に人影はまばらで、夕暮れの小路をマフラーに顔を埋めるようにして足早に通り抜けようとした。
四方を住宅街に囲まれた広い公園に入口は無数にある。それなのに、何故よりによってこの道を選んでしまったのだろう。街に住んで十年は経つというのに、どうして今さら再会してしまうのだろう。
相手の存在を予想をしていなかったわけじゃない。だが最悪の光景を目の当たりにした瞬間、彼らの元へ真っ直ぐに伸びている煉瓦畳が今すぐ崩れ落ちてくれればいいと願った。
3162