星エマ「…ここが町か」
俺はいま俺が生まれた場所を抜けた先にある町にいた、ずっとあそこで暇を潰しながら生きるのも飽きてきた。
俺はただ製造者を殺し、そのまま寝ることすら出来ず強制スリープを待ち寝た気のしない眠りにつくだけの人生を送っているだけ、退屈でしょうがなかった。
「夜だから人間は少ないとは思うが…出会ってもあんまり怖がらせないようにしないとな、騒ぎになると面倒だし」
異能警察とか色々なものと面倒事を起こしたくない、人間はこわい、すぐ壊れるから、の癖に俺みたいなのを造ったりとかして求めるのもそうだ。そんなことを考えながら町の中を歩く、ここは人間の敷居だから俺みたいな人外がいていい場所じゃない、それはわかっている。
「ねえ、そこのキミ、なんでこんな時間に外を歩いているの?」
ふと、声をかけられる。振り向けばそこには人間がいた、首に十字架をぶら下げる紫色の長い髪の女。
「…お前こそなんでこの時間に外にいるんだ?」
「…キミこの町で見ない顔だとは思ったけど異能警察とか知らないの?」
「…異能警察のやつか」
「異能警察のことは知ってるんだね」
「だったら話は早いな、俺はEMA。そういえばわかるだろ」
「ああ、EMA…EMAってキミのことだったんだ」
「で?異能警察さんが俺になんの用だ?」
「別に、ただ女の子がいたからわるいこだったら補導しちゃおうかなとか思っただけだよ」
異能警察の人間はこの言葉を放っていたときちょっとだけ笑っていた気がする、気のせいだろうけど。
「へえ、そうか。でも俺はそんな補導されるようなやつじゃないし、ここで…」
「あれだけのことしたやつがのこのこと町に現れてきて逃がすと思う?」
あ、面倒なことになってしまった…あの連中だしなにされるかわからない、なんとかできないか…
「…こっちもあんま面倒起こしたくねえんだよ、異能警察の人間」
「ん?ああ、そうか。ワタシは名乗ってなかったね、ワタシは銀湾星華、星華でいいよ」
「で、星華…仮にお前に捕まったら俺はどうなる?」
「いや?ちょっと異能警察の元に引き渡しになるだけだよ?」
「拒否権は」
「ないよ」
町に来た理由は暇潰しだったが異能警察の世話になるとなると話は別だ、確かに退屈ではなくなるだろうが俺の本能がこいつに身を任せたらダメだと言っている。
「…」
「まあそんな耳とか尻尾とかある時点で人間とは思ってなかったんだけどあのEMAとは…それ生えてるんでしょ?」
「ま…まあな」
そう言いながらちょっとずつ星華から距離を置く。
「アンタがなにしてきてもおかしくないからあまり近寄らなかったけど、戦う気はなさそうだね」
「そっちは俺が抵抗してきたらすぐにでも戦闘態勢に入りそうだけどな」
「そりゃそうだよ、アンタみたいなのを取り締まるのが異能警察だし」
「あー…異能警察さんには俺がなに言っても無駄かもな」
逃げても追われるのだろう、だったら星華の記憶から俺を消させてもらおうか、俺が星華と会ってあんまり経ってないしワンチャン記憶から消せるかもしれない、なんて考え始める。
一旦距離を置くのをやめ、少し足に力を入れる。当然逃がすまいとじわじわこちらに近付いていた星華には警戒される。
「お前の記憶から俺を消させてもらおうか、お前が死なない程度で」
「…どんだけ強く殴られれば記憶ってなくなるんだろうね?」
「ちょっと力加減を間違えてもお前らは生き返るんだろ?」
「そこまで知ってるんだ」
「じゃ、いかせてもらうぞ…っ!?」
当たり前ではあるが避けられる。
「ワタシを半分殺しにかかってるのにアンタ異能は使おうとしないんだね」
「異能警察のやつとは言え人間一人相手にそこまでしたくない」
確かに星華から俺と出会ったことの記憶がなくなる確率を上げればいいだけだ、だけどそれで星華がどうなるかはわからない。だって俺自身の意思でこの力を試したことがないから。
「舐められてる…のかな、ワタシも生き返るって言ったところでワタシが死んだと聞いたら自分まで死のうとしそうなのがいるからさ、死ぬわけにもいかないんだ、それに…」
「…?」
「いまのはアンタには関係ない、なんでもないよ」
「そうか」
「…ねえ、猫さん」
さっきまで目の前にいたはずの星華に不意に腕を捕まれる。なかなか力が強く痛みを感じてきたから痛覚を切る。
「アンタにこれ以上なんかされる前に一回壊しちゃおうかな、機械だしコアさえ無事なら直せるでしょ?」
「確かにそうかもしれんが…」
いまなら腕を斬られようとなにも感じないしなにも出てこない、だからいまなら壊されたってこわくは…いや、ここで負けたらおわりだ。
でも、こいつは自分から近付いてくれた、それも密着してるくらいに。俺は本来異能警察には手に負えないとされているくらいなのだ、それはいまだってそうだ。
「俺は本当に殺す気はないからだいぶ舐めた動きをしてたけどお前はどうだ?お互いまだ本気じゃなそうだけど」
「元々ワタシからアンタへの記憶消すんじゃなかったの…?でもこれ以上戦ってもな…だってアンタ異能警察でどうすることもできない存在なんでしょ?」
「俺はただ連れていかれるのは嫌だと思って」
「ほんとにそれだけ…もういいよ、言わないよ、本気出したアンタに対してワタシじゃ仲間が到着するまで捕まえられないだろうし」
警戒は解かれてないままのようだが腕を解放される、あっちから諦めてくれて助かった。
「でもこの町にはあんまりいない方がいいよ、他のやつがアンタになにしてくるかわかんないし」
「暴れないのは約束するから居させてくれないか…追い出されたらなんのために来たのかわからん」
「…ワタシの偵察区域ならいいよ、たまに変わるかもだけどそんときは教えるし」
「今の星華の偵察区域ってここらだよな?」
「…まあ、そうだね」
「人間にバレないように息を潜められるようにしないとだな、まあ退屈はしなさそうだ」
「隠れ場所としてそこら辺の路地裏とかは?ここら辺はまだ治安もいい方だし、滅多に人は来てないよ」
「先住の野良猫はいるけどね」
「あんときも猫って呼んでたよな…俺を猫扱いするなって…」
「こんな耳と尻尾生やしておいて猫じゃないって?」
「ニャ!?…おい!急に触んなよおめー!」
「ごめんごめん、でもやっぱ猫そっくりだね」
「…」
そんなこんなで町に入り込めた俺は昼間は息を潜め、人の声や足音の聞こえない夜に活動していた。そして待ち合わせてもないのに毎晩星華と会う。
「あ、エマ。ここの町はどう?」
「騒がしいけど悪い感じはしないな…」
「そう、ワタシも好きだよ、ここの昼間は騒がしくて夜は静かなところ」
そして次の日
「エマってここに住んでるんだ、本当に人目につかないところだね」
「それを見つけてくるお前さ…」
また次の日
「お前っていつ寝てんの?」
「キミに言われたくないな、人間って数日くらい寝なくても生きていけるんだよ」
「…そうなのか…?」
こんな感じの会話を日々繰り返す、そして繰り返すうちに強制スリープが起こる日が来た。
「(今回はちょっと早めか…?)」
前より動いたからだろうか、すこし早めに感じるそれで身体が動かなくなる。
眠い。いつもは寝ようとしたって寝れないのに。…
「あれ…寝てるのか、初めてみるな、エマの寝てるところ。」
眠りに付く直前、よく聞きなれた声がした。
──
「…充電完了ってところか」
「おはよう、エマ」
「おは…え!?」
目が覚め、おはようって言われておはようと返したのは初めてだ。でもそんなことより…
「星華…!?」
「いつ起きるんだろうって思って」
「は…見てたのか…?俺を…?」
「さすがに偵察はしたけど偵察が一通りおわっても目覚めなかったから…」
だからといってそんな目覚めるまで待ってるか普通、普通に生きてないから人間のいう普通はわからんが。
「なんで…なんでそんな…」
「キミ寝るにしては無防備すぎるし、もうちょっと場所は考えた方がいいと思って、でもメカだし動かせるかわかんない、あと何が起こって不思議じゃないから…」
「あーそう…そうか…」
そんな心配かけられてることに困惑している、だって星華からしたら俺はちょっとした話し相手くらいだと思ってたから。
「まあ…ありがとう…?」
「じゃあまた、今夜会おう」
そういって星華は本来自分のいるべきところに向かっていった。