エメ光♀ / 爪紅のはなし 穏やかに晴れた日の、澄み渡るような空の色が好きだと彼は言った。
彼が珍しく自分のことを語ったので、その言葉が頭に残ってしまった影響だろうか──今日の私の爪には、空色の紅が塗られている。
クリスタリウムの美容店で爪紅を塗ってもらう時、普段と違う色を所望した私に、店員が驚いたのを思い出した。自分の機嫌を取るためにおしゃれをするのだと、常日頃から言っていた私が、誰かのために爪を塗りたいと言ったのだから、驚くのも無理はないだろう。
実際、私が他人を意識しておしゃれをしたのは初めてのことだった。どうしてそんなことをしたのかは、正直自分でもよく分からない。
ただ、彼が好きな色の話をした時、普段は飄々としている声が掠れていたとか、全てを見透かすような瞳が揺らいでいたとか、そういった彼のいつもと違う一面を垣間見て、酷く動揺したのは確かだった。
1962