パンプキンボム遠投大会「お前、こういうの好きだろ」
デュランがホークアイに差し出したのは一枚のチラシ。
『パンプキンボム 遠投大会』
つい受け取ってしまったチラシは見覚えがある。何年もデザインが使い回されていて、遠方から来た商人達によってナバールにも張り出されていた。
「ホークアイ、投げるの上手。きっと一位になれる!」
追い討ちをかけるかのようにケヴィンがキラキラの目で見てくる。優勝して当たり前だと期待されているのが伝わってくる。
好きも何も、その昔、ナバールの連中とイベントを荒らしまくったなんて言えない。
規定量以上の火薬を詰めたり、運に任せて遠投したりとやりたい放題で出禁を食らっている。
そんなことなど、気にしては盗賊団の恥だ。と、各所の祭りで遊んでいたことを思い出す。
若気の至り。というより、悪い先輩の悪い遊びに付き合っただけだ。そういうことにしておこう。
チラシをよく見ると、一位の商品が特産のカボチャと肉とあり、ケヴィンの好物が他にも用意されている。
デュランもホークアイも年下のケヴィンには大概甘い。
「久しぶりにいっちょやるかね」
ホークアイは不敵に笑い、肩をほぐし始めた。
雲一つない青空に、ポンポンと小さめのパンプキンボムが鳴り響く中、祭りが始まった。
この日のために、自分の畑で取れたパンプキンボムを持ち込む者、世界各地の逸品を買い付けた者、ある特殊技術で何も無いところから作り出せる者によって様々なパンプキンボムが会場に並ぶ。
いよいよ、遠投というときに、会場に怒声が響き渡る。
ホークアイの持ち込んだパンプキンボムに待ったがかかる。オレンジ色が主流のパンプキンボムに潜む怪しげな緑色のボム。
「そいつぁ、レギュレーション違反のグレネードボムじゃねえか!」
「こいつ、前に見たことあるかもしれねえ。昔、大会荒らしやってただろ!」
どうやら当時のことを覚えている村人がいたらしく、ホークアイに対し、詰め寄っている。
「おまえ、マジで何やらかしたんだ……?」
隣にいたデュランが呆れつつ、村人に対し牽制もする。
「ちょっと悪ふざけをしたかな?」
ホークアイは悪びれもせず言う。
その態度が村人たちの怒りを燃え上がらせる。
「ふざけんなよ! オレ達がどれだけこの祭りを大事にしているか分かってんのか!」
いよいよ村人がホークアイの胸ぐらをつかみかかろうとしたとき、雷が落ちた。
「おだまり!」
「ば、ばさま! こいつは!」
ギロリと村人を一瞥すると、睨まれた者は竦んでしまった。
「ふむ、どれ、見せてみな。なるほど、じさまが昔、作ってたパンプキンボムにそっくりじゃ」
突如現れた老人はホークアイの持ち込んだボムを手に取る。ぽんぽんと軽く叩くと、村人たちからひゅっと息を呑む音が出る。少しの衝撃でも運が悪いと爆発しかねない。
「音、色、艶。どれをとっても逸品じゃないか」
ばさまは、グレネードボムを愛おしそうに眺める。
そして、ホークアイの方を見て、
「じさまの若いころにそっくりじゃ。懐かしいのお」
と顔を赤らめるものだから、先ほどまで立ちすくんでいた村人が一斉に動き出す。
「んだよ、ばさまの贔屓じゃねぇか!」
「そうだそうだ! 顔が良いからって何でも許されると思うなよ! というか、じさま、そんな顔だったか?」
村人たちの疑念の声に辺りがざわつく。
「お前たちはまだまだじゃ。完璧なパンプキンボムを作れるようになってから文句を言え。バカタレが」
ゴン、ゴンと村人達の頭を杖で叩いていく。
デュランもケヴィンもあっけにとられている。内心思う。なんだこの茶番。
ホークアイがばさまに礼を言う。
「貴女のような方に褒められて光栄です。これは貴女に捧げましょう」
ばさま用に新たに作った立派なグレネードボムを渡す。
ついでに村の若い女性にも、とびっきりうさんくさい笑顔を振りまく。
「これじゃこれ。この手触り、重さ。懐かしい」
ばさまは、にっこり微笑み、おもむろに力強く投げる。グレネードボムは美しい弧を描いて空を飛んでいく。
昔を知る人が言うには、活躍していた頃と全く変わらない投げ方だったそうだ。
今日一番の記録が出た。
地面に着地したとき、畑の土を全てまき散らしたかのような爆発と耳をつんざく大音量を村中に響かせた。
「おい、ホークアイ……」
パラパラと舞い落ちる土を払いながら、デュランがホークアイをにらむ。
「ああ。ちょっとあれはやり過ぎだな。あの人の力が乗ったからだと思う……」
ホークアイとしてはいつもより丁寧にボムの形を作っただけだ。
あのばさまの見事な投げ方で爆発力が倍増したに違いない。
いまの大爆発で表彰どころではなくなってしまった。会場の畑が吹っ飛んだと、関係者が右往左往している。
「肉、食べたかった……」
ケヴィンの悲しげなつぶやきに、ホークアイは苦笑する。
ホークアイが一位を取れると信じて疑わなかったケヴィンにとって、驚きの結果となったわけだ。
「確かに残念だった。でも、良い肉ならデュランが食わせてくれるよ」
「おい! 勝手に決めるな!」
話を振られたデュランはたまったものじゃない。ケヴィンの食費が底なしなのを分かっていて押し付けるホークアイにも腹が立つ。
次に何を言い返そうとむぐぐとつぐんでいると、先ほどのばさまが近づいてきた。
「お待ち。肉はおまえたちにやろう。今日は懐かしいものをありがとう」
くしゃくしゃの顔をさらにくしゃくしゃにさせ、肉をケヴィンに手渡す。
「いいの? ありがとう!」
落ち込んでいたケヴィンもぱっと顔を明るくする。
「また来るといい」
と言い、ばさまは行ってしまった。
「いい人だった!」
肉を抱きしめ、ケヴィンは素直に喜んでいる。
「おまえ、マジで気に入られたな」
どんな人にも気に入られることはホークアイの特技と言うべきか。毎回、見ているデュランの背筋がかゆくなる。
「女性に気に入られることは大切なことだよ」
ホークアイは上機嫌でケヴィンの後を追った。
この村の遠投大会で、今日のばさまの記録を塗り替える者はついぞ現れることはなかった。