少し不思議な話を 村から外れた丘を登る一つの影。
まだ枯れている下草を踏むとカサっと音がする。その下には新しい芽が土を持ち上げ、頭を出そうとしている。
「こんなところでやってたのか。探すの大変なんだけど」
たどり着いた先には刀を振っているもう一つの影があった。
「ここなら人がいなくていいって聞いたんだよ」
デュランが日課にしている鍛錬は、狭い宿ではできないと断られ、宿の主人に何もないところを勧められた。
そこには一本の枯れ木しかない。その上には大きくて丸い月。空気が澄んでいるからはっきりと輪郭が見える。
枝の先には膨らみ色づき始めたつぼみがついているのが月明かりでよく見える。
花見にしてはまだ早すぎるし、月見にしては少し肌寒い。
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