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    まりも

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    恭ピエ

    ##恭ピエ

    これからの話 ピエールが「母様がね、」と思わずといった風に口にする。きっと楽しい話なんだろう、そう思うのに、その言葉はそれ以上続かなかった。ニコニコと楽しげだった笑顔は消えて、紫の瞳は、視線を彷徨わせた後にカエールの王冠をじっと見つめる。
    「ごめん……なんでもない……」
    消えそうな声でそう呟く恋人に、俺は何もできずにいた。ピエールと旅行番組を観て、他愛もない話題で盛り上がった時のことだ。青い海と空、誰もいない砂浜を紹介するレポーター。
    「次の夏は海でも行くか、仕事じゃない時に」
    「……うん!海の家、楽しみ!」
    そんな話をしていた。きっと二人とも同じ仕事のことを思い出していた。仕事も楽しかったけれど、付き合い始めたばかりの恋人と行くのもきっと楽しい。ピエールもワクワクしていたんだろう、思わずといった感じで口を滑らせたのは、普段は避けてるであろう家族の話だった。
    「飲み物、持ってくる」
    結局、俺はそう言ってピエールの空になったグラスを手に、狭い台所へ向かった。脳内では、この雰囲気をどうにかするための作戦会議が開かれていたが、あいにく、そんなことで時間を稼げるほど、我が家は広くなかった。リビングに戻る。グラスを机に置くとカツ、という音が静かな部屋に響いた。少し悩んでから、さっきまでいたピエールの隣ではなく、後ろに座る。ピエールが少し高いところにある俺の顔を不思議そうに見上げた。カエールをギュッと抱きしめていたピエールを、同じように後ろからギュッと抱きしめる。付き合い始めたばかりで、まだ触れるのには躊躇いがある。それでも、しょげている恋人をなんとか元気づけたいと思った。これが正解かはわからないけど。俯いたピエールのうなじが見える。
    「ごめん……言えないこと、いっぱい、ある」
    「……気にするな」
    本当は俺が一番気にしてる。明るい恋人の、ふと見せる悲しげな顔の訳が知りたい。でも、俺にも話したくないことが、ある。だから、いい。いつか、話してくれるなら聞こうと思うし、話してくれなくても、別にいいんだ。少なくとも、出会ってから一緒にアイドルをやってきた今までも、恋人として付き合っていくこれからも、同じ思い出は二人の中に降り積もっていくから。
    「……海の他に行きたいところ、あるか?」
    「うーん……この間、テレビで観た、お花畑!行きたい!」
    「花畑か……どこだろうな」
    「恭二の目みたい、青くて、きれいだった」
    「……ネモフィラか?」
    花に例えられたのがなんだか気恥ずかしい気持ちもあるが、そんな風に一緒にいない時でも俺のことを思いだしていたのだと思うと、愛しさが勝る。それでも、それを伝える術はわからなくて、なんでもないふりをしながらスマホを手に取り検索する。ピエールはすっかり元気になり、検索結果の画像を見ながら「これ!」と微笑む。一緒にやりたいこと、行きたいところ、きっとこれからもたくさん出てくるだろう。それを一緒に一つずつ叶えていきたい、そう思いながら、ピエールに回していた左腕に少し力を込めた。
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