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    まりも

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    まりも

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    恭→ピエ

    ##恭ピエ

    「恭二!行こう!」
    次の撮影に向かうため、そう言って恭二の腕に自分の腕を、する、と絡ませる。恭二は何も言わない。視線を感じて後ろを振り返ると、みのりが目だけでボクを窘めた。ちら、と気付かれないように見上げれば、恭二の赤い頬が見えた。またやってしまった。
     恭二がボクのことを好きなのは、すぐに気が付いた。きっと本人は知らないけれど、恭二はとてもわかりやすい。ボクのスキンシップに緊張する体も、ボクを見つめる優しい瞳も、他の人には向けられないもので、心がふわふわした。きっと、嬉しかった、んだと思う。ボクは、そんなボクたちをみのりがじっと見てることもわかっていた。でも、何か言われるまでは知らないふりをしようと、今まで通り振る舞うことにした。でも、それもある日みのりと二人きりになるまでだった。
    「ピエール、気付いてるよね?」
    その言葉にギクリとする。でも、まだ逃げられる。みのりだって確信がないから、こんなどうとでも取れる言い方で、疑問系で聞いてきたのだ。
    「……何に?」
    できるだけ普通に、笑顔で首を傾げる。そんなボクに、珍しくみのりが眉を顰める。あ、だめかも。
    「恭二の、気持ち」
    言葉に詰まる。なんて答えたらいいかわからないけど、逃げられないことはわかった。そんなボクに構わず、みのりは続ける。
    「ピエールのこと、好きだって」
    ここまで言われたら、もう否定はできない。でも、みのりに言わせてしまった罪悪感が、ボクに頷かせた。
    「……じゃあ、思わせぶりな態度はやめないと」
    「……オモワセブリ?」
    今度は本当にわからなくて首を傾げる。みのりはちょっと考えて、もう一回口を開く。
    「両思いかも、って思わせるような態度、かな」
    「……そう見える?ボク、いつもと変わらない、やってた」
    「うーん、その通りなんだけど、ピエールは元々距離が近いからなあ。ただ、恭二が気の毒だな、と思って」
    そう言われると何も言えない。……本当は、わかっていた。恭二を困らせてること。それでも距離を取りたくなかったのは、ボクのわがままだ。
    「心配かけて、ごめん、なさい。ボク……もうやらない」
    そこまで言うと、みのりは、にこ、と微笑んだ。その微笑みの意味がわからなくて、みのりを見つめる。
    「……付き合う、っていう手もあるよ?」
    満更でもなさそうだし、と続けられて、狼狽える。……考えなかったわけじゃ、ない。きっと、恭二とあっちこっちデートに行くのはとっても楽しいだろうし、普段から優しい恭二は恋人にはもっと優しいのかな、とか想像しては、頭を振って、それを打ち消していたのだ。何度も。ボクを見つめるみのりの目は全てを見透かすようで、そんなことを考えてるのも全てバレてるのかも。そう思うと顔が熱くて、俯いたままみのりの顔を見られなかった。
    「何か、訳がある?」
    本当に、全部バレてるのかも、と心配になってきてしまう。訳なんて、一つしかない。……いつか、国に帰ることがわかっていて付き合うなんて、できない。さっきまで熱かった頭が、一気に冷めた。
    「……言えない。でも、ボク、このままがいい……」
    「そう……恭二が傷つかないなら、それでいいんだけど、」
    言葉を切ったみのりに、思わず、俯いていた顔を上げる。責められているのかも、と思っていたけど、みのりの目は優しくボクを見ていた。
    「俺は、ピエールにも傷ついてほしくないよ」
    みのりはいつもみたいに微笑んでいたけど、その声は真剣で、全て話したい気持ちが一瞬、湧いてしまう。でも、そんなことはもちろんできなくて、結局ボクはただ黙るしかできない。恭二の気持ちにも、みのりの気持ちにも、何も応えることができない。どうしようもない気持ちで泣きたくなったけど、みのりはその雰囲気を打ち切るように明るい声で話題を変えたから、その優しさに甘えてしまった。
     それから、みのりの言うような“思わせぶり”なことをしないように、気をつけている。でも、みんなには今まで通りで恭二にだけ距離を取ったら、きっと傷つける。みのりにも恭二を傷つけないように言われたし、ボクだって恭二を傷つけたくなかった。それに、以前みたいに恭二に接することができない、と考えると寂しかった。みのりだけじゃなくて、もう自分すら騙せなかった。恭二が、すき。だからつい、恭二にさっきみたいに触れてしまって、その度に反省する毎日だった。変に思われないように、さりげなく絡ませた腕を解く。情けない顔をしているかも、と思うと恭二に顔を見せたくなくて振り返ることができなかった。だから、恭二がどんな顔でボクを見ていたのかも、知らなかった。
     仕事が終わって事務所を後にする時、みのりが「あ、プロデューサーに話したいことがあったんだ」と言って、ボクたちに先に帰るように言った。ボクは、二人きりにされた、と思った。どうして、と慌てるボクに、恭二が「帰るぞ」と声をかけるから、その声に抗うこともできなくて、少し後ろからついて行った。
     帰り道では、以前が嘘のように、ボクたちの間には会話がなかった。恭二の思いに気付く前には、あれだけ一緒にいるのが楽しかったのに。今は、速く時間が過ぎ去ってくれないか、と無茶なことを願うばかりだった。だから、いつも別れる十字路に来た時はホッとしたのに。
    「……家まで、送ってく」
    そう言われて、理由も聞き返せず、困惑して少し高いところにある恭二の顔を見つめる。恭二は、何か言いたげだったけど、結局何も言わなかった。くるりと背を向けてボクの家へと向かって歩き出す恭二の数歩後ろを歩くしか、ボクにはできなかった。
     ようやくボクの家に着いた時には、ようやくこの居心地の悪い状況も終わるのかと思った。でも、恭二は門を過ぎて、ボクの家の玄関に向かう。
    「恭二!?……ボクの家、寄るの?」
    言った後で、自分の声が震えてしまったことに気が付いた。こんな声で、こんなことを恭二に言いたかった訳じゃないのに。恭二が振り返る。その顔が見られなくて俯く。でも、恭二は、ボクじゃなくてもっと後ろを見た。SPの三人の方を。ボクもちら、と三人の方を見ると、みんなが目を逸らした。その様子に混乱していたから、恭二が目の前に来たことに、その大きな手がボクの頬に触れるまで気が付かなかった。びくり、と体が揺れてしまう。恭二の顔に、きっと縋るような目を向けてしまった。言わないで、と。それは、多分恭二にも伝わったと思う。でも恭二は一瞬怯んだようだったけど、すぐ口を開いた。
    「そんな顔、しないでくれ……」
    「……どんな顔?ボク、わからない……」
    「困った顔、だ。……俺が何を言いたいか、わかってるだろ」
    沈黙は肯定になってしまうと、わかっているのに何も言えない。俯いて表情を隠したいけど、優しく頬に添えられた手に、それもできなかった。ピエール、と普段より緊張した声で呼ばれて、その続きに怯えてしまう。
    「……好きだ」
    「……恭二、ボクの答えも、わかってる。うんって、言えない……」
    言いながら泣いてしまいそうで、泣くな、と心の中で自分に言う。目を逸らすこともできず、恭二の目をじっと見つめる。
    「でも……俺のこと憎からず、思ってくれてるだろ」
    恭二の言葉の意味がわからず、目だけで問いかけると、恭二が照れたように視線を彷徨わせる。
    「俺のこと……好きだろ」
    ボクにだけ聞こえるように潜められた声に、じわ、と涙が滲んでしまう。そんなボクに慌てる恭二の胸に飛び込んで、頭を押し付けて涙を隠した。全てを隠せるほど、大人になれなかった。うん、と小さな声で答える。ボクを落ち着かせるように背中を優しく撫でる手に、涙は当分止まらなさそうだった。
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