その瞳が愛おしそうに俺を見るのに、まだ慣れずにいた。二人で俺の部屋の畳に横になって、向き合いながら他愛のない話をしていた。その合間合間にピエールはそんな目を俺に向ける。まだ付き合い始めてひと月くらいだ。でも、ピエールにとって時間の長さは関係ないらしかった。むしろ、俺の踏ん切りがつかなくて待たせた分、今、こうして幸せそうに微笑むのかもしれなかった。
会話が、途切れる。ピエールの手がそっと、壊れやすいものでも触るかのように、俺の頬に触れる。そんな風に触れられたのは初めてで、ピエールへの愛しさで胸がギュッと苦しくなる。
「恭二、なんでそんな顔、するの?」
「……手を出すべきか、出さずにいるべきか、悩んでる」
本当はそんなの、出さずにいるべきだなんてわかってる。なのに、実際にはもう手を出してしまっている。触れるだけのキスではあるけど。そんなことをグルグル考えている俺は、ピエールの顔が段々近づいてくるのに気がつくのが遅かった。きっと避けようと思えば避けられたけども、避けたくなかったのだ。
ピエールの柔い唇が俺の唇に触れる。すぐ離れたけれど、恋人の頬は桜色に染まっており、そんな姿をかわいいと、もっと見たいと思ってしまう。
「手、出しちゃった」
いたずらっぽく笑う姿に、堪らず今度は俺から口付ける。それからは、どちらからともなく触れるだけのキスを繰り返した。段々ピエールがポーッとしてきて、俺の肩を掴む手からも力が抜けてきたから、この辺りで止まらなければと思う。自制心を振り絞って、少し距離を取る。俺は俺の頼りない理性で、なんとか線引きをしていた。軽いキスだけ、と。ピエールのぼんやりとした姿を見ると、揺らぎそうになるが。
「恭二……もっと、大人みたいなキス、して……」
理性なんて吹っ飛ぶような一言だった。あまりの衝撃に俺は硬直する。そんな俺に焦れたように、再びピエールからのキスを受ける。舌を入れたのは、俺の方からだった。きっとこれからもこんな風に、俺の自制心なんてピエールの前では脆く崩れ去ってしまう。そんな予感がした。