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    まりも

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    恭→ピエ

    ##恭ピエ

    今はまだ、 今夜はいつもと変わらない、楽しいお泊まりになると、さっきまでのボクは思ってた。
     恭二やみのりの家にテレビを観に行くのは珍しいことじゃない。反対にボクの家に二人が来ることもあった。ボクの家にもテレビはあるけど、大体ボクが観たい番組は315プロダクションの仲間が出てるものか、ボクたちBeitが出てるものだったから、観終わったら感想を言い合いたかった。だから、自然と三人で集まってテレビを観ることが多くなった。
     今日は北斗のでている恋愛ドラマだった。みのりはロケで少し遠いところに泊まりの仕事で行ってしまったから、恭二と二人。ヒロインの憧れの人として登場した北斗は、大人っぽくてかっこよかった。番組が終わった後、恭二にそう感想を伝えると、恭二は複雑そうな顔をした。そのままリモコンを手に取ってボタンを押し、微かなパチ、という音とともにテレビの画面は真っ黒になる。何かまずいことを言っただろうか?なんだか、恭二の機嫌がよくない気がする。
    「恭二、怒ってる?」
    「あー、いや、……怒ってはいない」
    その答えに少しホッとするけど、歯切れの悪い言葉に、やっぱり何か気になるところがあるんだろうと思った。
    「何か、あった?」
    思い当たるところはなくて、そう聞くことしかできない。恭二は、横を向いて視線を合わせない。伝えようかどうか、悩んでいるみたいだった。あとひと押しが必要かもしれない。
    「恭二の思ってること、知りたい」
    上目遣いでそう言えば、恭二はさまよわせていた視線をボクに合わせる。多分、言ってくれる。そう信じて、そのオッドアイをじっと見つめる。恭二は躊躇いながらも口を開いた。
    「……ただ、俺も同い年なのにな、って思っただけだ」
    「どういうこと?」
    恭二の目が視線がまた宙を見る。続きをいくらでも待とうと覚悟したけど、その沈黙はすぐ終わった。
    「だから、伊集院さんは俺と同い年だろ。……ピエールから、大人っぽいとか……言われた覚えないぞ」
    そうかも。恭二もボクより年上だけど、大人っぽいと思ったことはない。だから、そう伝えたこともない。きっと、普段はあまり感情を表に出さない恭二だけど、ボクたちと一緒の時は思ったことがすぐに顔に出るからだ。それに、ファンの子たちが思う『冷静でかっこいい恭二』がしない、子どもっぽいことを言ったり、したりするのもよく知っている。何度、恭二に嘘を教えられたことか。
    「ボク、恭二のこと、かっこいい、思ってるし、言ってるよ?」
    確かに北斗のことを大人っぽくてかっこいいと言った。その内の一つは恭二にも当てはまっているのだから、そんなに気にすることなのかな、と思う。恭二の頬が少し赤くなる。
    「……知ってる」
    じゃあなんで?と首を傾げて聞くと、恭二はまた口を閉ざす。今日の恭二は変だ。なんでそんなに口籠るんだろう、と不思議になった。
    「恭二、ボクに、大人っぽい、言われたい?」
    ここまでに出てきた情報を繋ぎ合わせると、多分そういうことだ。まだまだわからないことは多いけど。特に、恭二が変な理由が知りたかった。
    「……大人っぽい、じゃなくて、大人っぽくてかっこいい、だっただろ」
    「それって、違う?」
    「……違う。だって、ドラマのヒロインだって、伊集院さんの役のそんなところに惹かれてただろ」
    「でも、恭二と北斗、違うよ。だから、ボク、どう思うかも、違う。」
    「わかってる」
    恭二はガリガリと頭を掻いた。なんだか、少し苛立ってるみたいだった。さっきから、ボクたちの会話は妙に噛み合わないし、恭二の考えていることだって、いまいちわからないままだった。
    「……悪い、変なこと言った。忘れてくれ」
    「忘れない。恭二が思ってること、ちゃんと、わかりたい」
    恭二が目を見開く。さっきまでピリピリしていた雰囲気も和らぐ。
    「……俺は、伊集院さんが羨ましかったんだ。それで焦って、ピエールを困らせた。そりゃ、こんなことしてたら、大人っぽいとは真逆だよな……」
    「恭二、大人っぽくてかっこよく、なりたい?」
    まだ要領を得ない言葉にそう聞き返す。恭二が真剣な顔をする。その背中が、ステージの上にいる時みたいに、ピンと伸びる。恭二の緊張が伝わってきて、ボクまでドキドキしてきた。この後、何が起きるのか予想もつかなかった。
    「なりたいんじゃなくて、ピエールにそう思われたい。……ピエールだけに。おまえが、好きだから」
    驚きに、一瞬、呼吸すら忘れてしまった。頬が熱い。好きの意味なんて、聞かなくても伝わってきた。恋愛の意味だと。そんなことを誰かに言われるのは初めてで、当然、返事をするのだって初めてだった。今まで、誰かに恋するとか、逆に思われるとか、そんなことを自分ごととして考えたことがなかった。なんて返事をしたらいいのかわからなくて、恭二の顔も見られなくて、俯いたまま、手をぎゅっと握りしめる。そのまま、さっきより長い沈黙が落ちる。きっと、ボクが何か言うまで、この雰囲気は変わらない。早く、何か言わなきゃ。何か、この雰囲気を変えるような、一言を────。
    「……今日は困らせてばっかりだな」
    恭二の優しい声に、ゆっくり顔を上げる。傷ついた顔をして、それでも笑ってみせる恭二に、ズキリと胸が痛む。そうか、返事をしない、も断る内に入るんだ、とその時ようやく気づいた。それでも、まだボクは何も言えないままだった。
    「ほら、今日はもう帰れ。それで、今日のことは全部忘れて、……明日からはまたいつも通りのユニットメンバーでいい」
    「なんで……、今日、ボク、泊まるつもりで……」
    恭二が眉を寄せ、長い息を吐く。恭二の家に泊まるのは楽しい。この予定が決まった時から楽しみにしてたのだ。それを、こんな喧嘩みたいなまま、帰りたくない。
    「あのな、ピエールのことを好きだ、って言ってる男の家には絶対泊まるな。女でもダメだ。おまえにその気がないなら」
    その意味がわかって、恥ずかしさに消えたくなった。そこまで恭二に言わせてしまった。
    「……でも、恭二、何もしない、でしょ?」
    段々と小さくなる声で、そう尋ねる。今までだって何度だって恭二の家に泊まったし、同じ布団で眠った。それでも、恭二の思いに気づくようなことは、一回も起きなかった。だから、さっき「泊まりたい」と伝えてしまったのだ。恭二は目を逸らす。
    「ピエールの嫌がることは絶対しない。……でも、おまえに触れたい気持ちも、ある。自分で自分のことが信用できないから、今日は帰ってくれ」
    それに、うん、とは答えられなかった。だって、今日このまま帰ったら、恭二は絶対ボクから距離を置く。そんな予感がした。そんなの嫌だ。今だったら、まだ、恭二は数歩で触れられる場所にいる。ボクは、恭二に向かって歩み出した。そんなボクの一挙一動を、恭二はじっと見ていた。さっきよりもっと近くなった恭二に、腕を伸ばして抱きしめる。
    「触ってもいいよ、恭二なら」
    「……よくない。触れるって、……これだけで、済まないかもしれないんだぞ」
    「でも、恭二が、今までみたいに、一緒にいてくれない方が、やだ……」
    今だって、恭二は動かない。いつもは抱きつけば背中に回してくれる腕だって、今は床に向かって伸びたままだ。これが当たり前になるなんて、嫌だった。
    「……勘違い、しそうになる。というか、もうしたんだ。おまえが俺のことを好きだと勘違いしたから、告白なんてしちまった」
    そうじゃなければ、一生言わなかった、と静かに言う恭二に、ボクの方が泣きたくなった。
    「あのね、恭二。ボク、さっき、なんて答えたらいいのか、わからなかった。恭二に恋してるのか、してないのか、わからなかったから。……ボク、もう少し、考えたい。だから……それまでは、今までみたいに、一緒にいて」
    多分、ひどいことを言っている。
    「ボク、恭二のこと、好きだよ。恋かどうかは、わからないけど。」
    顔を恭二の胸に押し付けたまま話しているから、互いの顔は見えない。でも、恭二の腕が背中に回されたから、慌てて顔を上げる。
    「……好きなやつにそこまで言われて、お願いなんて断れるわけがないだろ」
    恭二の優しい顔にドキッとする。そんな自分に困惑したけど、嬉しさの方が勝った。
     告白の返事を待ってもらうということは、いつかは決断しなきゃいけないということだ。それでも、今はその日を少しでも遠ざけたかった。だって、本当は、ボクは恋なんてしてはいけないから。日本に来る前に言われてるのだ。恋人は作るな、と。その時は、自分からあまりにも遠いことだったから躊躇いもせず頷いた。きっと、いつかは帰らなきゃいけないボクが傷つかないようにとの思いもあっただろうし、王家のスキャンダルになるようなことを避けたい思いもあっただろう。それなのに、恭二の告白を断ることができなかった。その時点で答えは出ているような気もするけど、とそこまで考えて、頭を振る。
    「じゃあ、恭二、今日、泊まってもいい!?」
    「……ああ」
    恭二は、不本意だ、と言外に伝えるようにため息を吐いたけど、その頬が緩んでいたから、ボクも笑顔を返す。
    「やふー!先にお風呂、入ってくるね!」
    そう言って、着替えとタオルを持って、勝手知ったる風呂場へ向かう。恭二の家は、浴槽はあるけど、狭い上にお湯もすぐ冷めるから、使ってないのだと言っていた。だから、自然とボクも恭二の家ではシャワーを浴びるだけだった。お泊まりにウキウキと浮かれながら、風呂場のドアを開けた。
     だから、恭二がその時、緊張と後悔のあまり死にそうだったことも、その夜は同じ布団で一睡もできないまま朝を迎えたことも、数ヶ月後教えてもらうまで知らなかった。
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