Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    nanamemikan

    @nanamemikan

    @nanamemikan

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 1

    nanamemikan

    ☆quiet follow

    とりあえずかけたとこまで。マチュとニャアン。

    #ジークアクス

    それぞれの残響 誰かのために生きるより、自分のために生きたい。
     いつかの朝、マチュはそう言った。その姿はただただ、美しかった。
     終わりのない旅を続けて、私たちはいつまでも同じ袋小路にいる。
     なのに、私はずいぶんと幸せだった。
    「ニャアン、もう一歩後ろ。……ちゃんと隠れてて」
     そういったマチュが窓際で引き金を引くのを、私は突っ立たまま見ている。ぱしゅん、とサイレンサー付きの拳銃は弾丸を打ち出して、眼下で昼食をとっていた目標に命中する。どうっと大きな男の体が倒れこむ音。地面に流れ出す赤い血。叫び声。闇市の人混みの中をいくつもの感情が駆け抜けていって、気持ち悪い、と胸の底がざわついた。ぎゅっと奥歯を強くかみしめて、影の中の体を両手で抱きしめて、じっと身をひそめる。
    「行こう」
     乾いたマチュの声が言う。銃をカバンにしまった姿には、まだあどけない少女の面影が残っていた。マチュは動じない。いつだって、必要な時に、必要な分だけ引き金を引ける。出会ったときから、そういう子だった。
    「うん。……死んだの」
    「たぶん。殺せって依頼だったし」
     悪党だよ、とマチュは付け加えるように言った。それから、ふぅッと細く息を吐き出して、にっとわざとらしく口角を上げて笑ってみせる。
    「……あ、振り込みきた。これでしばらくは大丈夫だね」
     足取りも軽く、マチュは歩み始める。私はその後ろに連れだって歩みだす。
    「お昼、ニャアンは何食べたい?」
     あらかじめ考えておいた逃走経路をゆっくりと進みながらマチュが聞く。
    「なんだろ……今日暑いし、麺、かな」
    「いいね」
     できるだけ当たり障りのない会話をするのは、マチュの癖みたいなものだった。悪党だよ、などと言ってみても、人ひとりの命を奪うのは、気持ちのいいことじゃない。
     けど私たちにはそれしかなかった。正規のIDもなく、仕事につけるような知恵もスキルもなく、あるのはニュータイプ特有の感覚の鋭さと、モビルスーツに乗って人を殺した経験と。それから、お尋ね者のレッテル。
     どこにも行けない人生の、袋小路。
     なのに、ふたりでいればどこまでも自由だった。
     私たちはきっと、もうしばらくの間、最強のマブでいられる。
    「あー、ビール飲みたい」
    「アイスにしなよ、まだ昼だよ」
    「じゃあ、アイスでいい」
     たしか美味しい冷麺をだすお店が、闇市の端っこにあった。そこに行きたい、とマチュに水を向けると「いいよ」と答えが返ってくる。
     私たちは、どこに向かっているんだろう。
     こんな風に袋小路の日常を積み重ねて、それで、本当にもう一度シュウジに会うことができるだろうか。
    「やっぱ、ビール飲みたいな」
    「まだ未成年だよ、マチュ」
    「いーじゃん。もうスグじゃん」
     法律なんかじゃ、マチュを、私たちを縛ることなんかできない。
     だって私たちはこの世界を――救った、んだし?
     なら少しくらい、羽目を外したっていいはずじゃない。
     そんな戯言を心の中に押し込めて、私は笑った。闇市の大通りを通り抜けて、殺人現場から私たちは遠ざかっていく。
     喧騒、悲鳴、無関心。
     壊れてしまった地球では誰もが、自分のために生きている。
     だから私たちも。
     自分のために生きている。
     ずっとこの袋小路が続けばいい。マチュの隣でなら、私は最強でいられるから。

     この世界は、終わるはずだった世界。
     でも私たちの日常はまだ、続いている。

     どこまでも、自由に。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works