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    君は背伸びしている「これで良しっと……修理完了であります!」

    童顔の青年が、愛車の陰から顔を覗かせた。
    アドベンチャーベイの町外れ、俺以外の町人はほとんど使わないような細い裏道。
    そんな場所で車が立ち往生して、照りつける太陽の下、途方に暮れていた少し前。
    たまたま通りかかったこの青年は、まさに救世主だった。

    『──何かトラブルでありますか?』

    柔和であどけない顔立ちに、飴玉を転がすような声。一見頼りない印象すら与える青年だが、この町ではちょっとした有名人である。

    様々なトラブルに対応すべく、あらゆる技能を持つ精鋭達で構成された組織、それがパウ・パトロール。
    ここアドベンチャー・ベイを拠点とする彼らは、町人達に愛され頼られる存在だ。
    そして彼はメンバーの中で、最も修理の技術に長けた、物作りのスペシャリストである。

    市長をはじめ、頻繁に助けてもらっている町人も多いようだが、俺が彼等の世話になるのはこれが初めてだ。
    噂に違わず彼は、瞬時に愛車の故障箇所を見つけ出し、見事な手際であっという間に修理してしまった。
    ちなみに、なかなか大掛かりな作業内容だった。熟練の修理工でも、これほど早く直せる者はおそらくいないだろう。

    「ぼくの手持ち部品で対応できて良かった。試運転したけど、特に問題なく動いたから──」

    穏やかな口調で、修理内容を説明する青年。
    その顔には汗が滲んでいて、顔や手のあちこちには、オイルや煤汚れが散っている。

    炎天下の日差しを跳ね返すアスファルト上での作業は、過酷を極めただろう。俺には日陰で休むよう気遣いの言葉をかけてくれたから、その過酷さは共有できなかったけれど。

    「悪いね、せっかくの貴重な休みだろうに」

    そう声をかけると、青年は一度目を丸くした。そして浮かべる、ひかえめな笑顔。

    「ぼくはパウ・パトロールの一員だから、困っている人を助けるのは当然であります。だから、どうか気にしないで」

    被っていたキャップを脱いで、額の汗を拭う青年。黄緑色の鍔から落ちていた濃い影が取り払われて、眩い日差しがその顔を照らした。

    (…………へえ、)

    笑った顔が可愛いと、素直にそう思った。
    優しげな瞼にふちどられた、琥珀色の丸い瞳。
    淡い灰色の髪はふわふわとしていて、あちこち跳ねている。けれど、触ると柔らかそうだ。
    甘い音色で紡がれる丁寧な言葉には、腰の低さや穏やかな人柄が滲み出ている。

    彼らがいつも些細なトラブルで頻繁に呼び出されているというのは、町でも周知の事実だ。俺ならそんな役回り、絶対に御免だと思う。
    なのにそれを当然の責務だと言うかのような、心からの笑顔。

    ちなみに俺は、そういう健気な子に滅法弱い。
    たとえそれが女の子だろうと、男だろうと──まあ厳密に言うと、こういう可愛い顔をした男限定なのだけれど。

    「流石だね。修理の技術もそうだけど……君のそういう精神が、町のヒーローたる所以なんだろうな」

    声色を甘くして、その顔を見つめる。
    自慢じゃないが、今までこの手であらゆる相手を堕としてきた。
    先週は花屋の女の子、先月はカーショップの看板娘──いや、あれは男だったか。ちなみに今日はこれから、昨日クラブで引っかけた女の子を迎えに行くところだった。車が直ったおかげで約束の時間には間に合いそうだから、この青年には感謝している。

    「ええ、そんな……褒めすぎでありますよ」
    「そうかな? ただ、心から思ったことを言ったまでだよ」

    照れ臭そうな表情を見て、内心悦に入った。
    自分の顔が整っているのは自覚している。
    相手がどんな言葉をかければ喜ぶのか、そういう雰囲気を読み取るのも、割と得意な方だ。

    彼は町の有名人だけれど、おそらく「ヒーロー」などという大袈裟な褒め言葉には、意外と慣れていないのではないか。

    物を作ったり修理をしたり、彼の能力が町の人々を救っているのは間違いないだろう。
    けれどたとえば──空を飛んだり、敵を追跡したりだとか──そういう華々しい活躍に比べれば、どうしても彼の仕事は霞みがちになるのではないだろうか。
    ついさっき助けてもらった身でありながら、好き勝手失礼な仮説を頭の中で組み立てる。

    「俺は君を尊敬するよ。いつも町の皆のために頑張ってくれて、ありがとう」
    「どういたしまして。でもそんなに褒められると、ちょっと恥ずかしいでありますね」
    「ただの本心なんだけどね。──あ、待って。髪に何か付いてる」

    ぐっと距離をつめて、柔らかそうな髪に手を伸ばす。褒め言葉からのボディタッチ──成功率は八割五分といったところ。
    琥珀色の丸い瞳が、至近距離で見上げてくる。ちなみに自慢じゃないが、身長は高い方だ。
    もう少しで手が届く──そんな時だった。


    「──何してるの?」

    溌剌とした、けれど同時に刺すような声が、俺の手を制止した。
    横へ振り向いて、声の主に目を向ける。

    「ズーマ! どうしたの、こんな所で」

    隣で青年──ロッキーが声を弾ませた。
    ズーマと呼ばれた青年は、軽く片手を上げたあと、こちらへ歩み寄ってくる。
    精悍な顔立ちの彼もまた、ロッキーと同じくパウ・パトロールの一員だ。

    年相応の身長でありながら、服の上からでも分かる、引き締まった身体つき。
    彼が海上で任務する姿を何度か見かけたことがあるけれど、それは見事なものだった。

    横切りざまに、ふと投げられる一瞥。
    陽光を反射した金色の瞳が、やけにぎらりと光った気がして、理由も分からず背筋が冷える。別に、睨まれた訳でもないというのに。

    彼はそのまま、ロッキーの隣に並ぶ。するりと間に入られたことで、手が届かないほどの距離が空いた。

    「ちょうど今日、あの辺でサーフィンしてたんだよね。そしたら車修理してるロッキーが見えたから──何かトラブルかなと思って、顔出してみた」

    そう言って、遠くに見える海岸を指差すズーマ。
    ここからは結構な距離がある。彼がいつも乗っているホバークラフトも、今日は見当たらない。もしかして、歩いてここまで来たのだろうか。
    けれどロッキーはさして気にした様子もなく、ただ「そうなんだぁ」と相槌を打っている。

    「車、故障してたの?」
    「うん。でももう直したよ」
    「そっか。お兄さん、大変だったね」
    「あ、ああ」

    ただ労りの言葉を向けられただけなのに、なぜか声が硬くなる。

    「車、もう動くの? 送っていかなくて大丈夫?」
    「……もう大丈夫だよ。二人とも心配かけてすまなかったね」

    本当は修理のお礼にかこつけて、ロッキーを車で送るよう申し出るつもりだった。
    けれど人数が増えてしまったし、逆に送るよう申し出られてしまっては、引き下がらざるを得なかった。なんだかそういう風に誘導された気がしないでもない。

    「じゃあ、僕たちも帰ろっか」

    そう提案するズーマに「そうだね」と答えたあと、ロッキーが視線をこちらへ向けた。

    「また困ったことがあれば、いつでも呼んでね」
    「ああ、そうさせてもらうよ。今日は本当にありがとう。また会うことがあれば、その時はよろしく」

    勿論であーります、と澄んだ声。
    ああ、やっぱり笑顔が可愛い。つられて思わず表情が綻んだ。また会えたなら、そして邪魔が入らなければ、今度はじっくり口説いてみよう。

    背を向けた二人に手を振りながら、黄緑色の後ろ姿をしばらく見つめた。
    ──けれど、また。

    振り返ったのは、その隣のズーマだった。
    ぎくり、と明確に身が強張る。今度は明確に、鋭い視線を投げられたのだ。勘違いじゃない、これは確実に睨まれている。

    俺よりも年下で、さらに身長も低い。
    それなのに、射抜くような金色の眼光には、浮き足立った気持ちを完全に萎ませる威力があった。

    (……なるほど、そういうことね)

    二人の姿が見えなくなって、深い溜息が漏れる。

    「……やっぱ女の子だな」

    そう呟いて車に乗り込み、運転席のドアを半ば八つ当たりのように閉めたのだった。






    *************






    パウステーションへの帰路にある、長い階段。
    ゆるやかな傾斜をズーマと二人、並んで歩く。
    他に人気のない道には木々の影が落ちていて、日差しは遮られているけれど、とにかく蒸し暑い。
    茹だるような熱気が体を包んで、たまらず脱いだキャップで顔を扇ぐ。

    「暑いねえ……」

    何気なく呟いてみるけれど、返事はない。
    いつもなら、「アイスでも食べて帰る?」だとか「また海に入ろっかな」だなんて笑いながら、他愛ないお喋りが始まるのに。

    「……修理、どのくらいかかったの?」
    「うーん、一時間くらいかな」

    返ってきたのは別の話題だったけれど、特に気にせず答えた。
    気を遣わずに何でも言える。多分それはお互い様で、ズーマと居るときのそういう気楽な空気が、ぼくは好きだ。

    「時間かかりそうなら、一旦ケントに連絡入れても良かったんじゃない?」
    「え、大丈夫だよ。ぼく一人でも対応できたし」

    いつもなら「それもそうだね」なんて返ってくる言葉が、今日はない。やっぱりなんだか、いつもと様子が違う気がする。
    そう思いながらも、それはそれとして喉が渇いた。なにか冷たいものでも食べたいな。たとえば、アイスとか。

    「──ズーマ?」

    そのとき、隣でふと足が止まった。
    ぼくもそれに倣い、二段先の階段から降りて、ズーマの横に並んだ。
    ざあっとぬるい風が、木々を揺らす音がする。

    「……あのさあ」

    少し間を置いて、いつもよりトーンの低い声。
    視線は、合わない。

    「さっきの人、ロッキーの頭触ろうとしてたよ」
    「え? あ、うん」
    「うんって……気づいてたの?」

    片眉を上げて、少し不服そうな顔をするズーマ。

    「ぼくの頭にゴミか何か付いてたみたいで、それを取ろうとしてくれてたんだって。……そういえば、どこに付いてたんだろ?」

    思い出しがてら、自分の髪を探ってみる。
    その隣で、ズーマが深い溜め息を吐く音がした。

    「そんなの付いてないよ。……それ、多分口実じゃない? ロッキーに触るための」
    「ええー、そうかな?」
    「絶対そう」

    ぼくの気楽な返答に対して、じとりと目を細めたズーマ。口元が少しだけ尖っている。何か不服なことがあるときに見せる顔だ。

    「だからさっき言ったんだよ、一度ケントに連絡入れたらって」
    「うーん……でも、多分大丈夫でありますよ。万が一そういう人だったとしても、自分でなんとかできるし」

    というか、頭を触られるくらいは別にいい。だって正直、そういうことは時々あるからだ。
    喋り方のせいなのか、それとも外見のせいなのか──ぼくは時々どうしても、甘く見られやすい時がある。

    パウパトロールの仲間達や、交流の深いグッドウェイ市長やケイティ、タルボット船長──周囲には彼らのように優しい人たちがほとんどだけれど、ぼく相手ならば何をしても良いと思っていそうな、そういう人間は一定数存在する。

    まあ、この喋り方や雰囲気のおかげで、町の人との関係がスムーズにいく場合もあるし、特に変えるつもりはないのだけれど。というか、染み付いているので今更変えられない。
    脳内が少し脱線している間も、ズーマは腑に落ちない表情のままだった。

    「自分で何とかできるって……そんなの分かんないじゃん。相手、車持ってたんだし。連れ込まれたらどう逃げるつもりだったの?」

    さすがにそれは考えすぎな気もする。けれどそれを指摘するよりも、今気にすべきなのは──。

    「もしかして、ぼくのこと心配してくれてるの? ズーマは優しいでありますね」

    できるだけ優しい声を出して、そっと頭を撫でた。夏の熱気を孕んだ髪から、手のひらに温度が伝わってくる。

    この年下の青年は、時々こんなふうに、ぼくを気にかけてくれることがあるのだ。
    普段は陽気で飄々としているのに、ぼくが水に濡れそうになると、気遣いの言葉をかけてくれたりする。

    年下に心配をかけてしまうなんて申し訳ないなと思いつつ、その優しさは素直に嬉しくもある。
    このあとアイスでも奢ってあげようかな、なんて思っていたら、手を掴まれて撫でるのを制止された。といっても、力はほとんど込められていないけれど。

    「ねえ、僕真剣に言ってるんだけど」
    「うーん、でも……ケントも忙しいんだし、急を要する事態じゃなければ、わざわざ連絡するのも悪いかなぁって」
    「わかった。それなら──」

    言いかけて、無言になって、そのまま階段を登るズーマ。
    二段上で足を止めて、こちらを振り向いた。
    ぼくより少し背の低い彼から、こうして見下ろされるのはなんだか珍しい。
    そういえばさっきの男の人も、このくらい背が高かった。

    「そういう時は、僕のこと呼んでいいよ」

    まっすぐに向けられた言葉。
    ふたりの間を、ざあっと風が通り抜けていく。

    「え、なんで?」
    「なんでって……」

    純粋な疑問をぶつけると、なぜかズーマは視線を泳がせて、そのあと黙り込んでしまった。
    しばらく訝しんでいると、頭上にぽんと軽い感覚。
    なぜかズーマが、ぼくの頭に手を置いている。

    「…………?」

    頭を押さえられているから、顔が上げられない。だから目線だけを動かして、ズーマを見上げた。
    目が合うと、なぜか口元を引き結ぶ顔。

    しばらく二人、見つめ合ったまま沈黙が流れた。
    心なしか、ズーマの頬がだんだん赤く染まっていく気がする。さっき撫でた頭が熱かったし、熱中症になっていないといいのだけれど。
    ──なんて思っていると、なぜかそのまま、わしゃわしゃと髪を掻き回された。

    「ちょ、ちょっと何!?」

    突然の謎すぎる行動に戸惑う。
    髪を乾かすときのような、雑な手の動き。弄ばれた髪が視界のあちこちを踊って、それから頭に籠った熱が逃げていく。

    「……ここ、汚れ付いてるから」
    「さっき付いてないって言わなかった!?」

    そう突っ込んでも返事はない。いつもなら冗談めかして乗ってくるのに。
    もしかして、本当に何か付いてた? だとしても、こんなにわしゃわしゃする必要はあるのだろうか。いや、ない。

    「ねえ、やめてよぉ……!」
    「……これからは僕のこと呼ぶって、約束するまでやめない」
    「ええ〜〜!?」

    そこまで心配させていたのが、申し訳ないのを通り越してもはや不思議だ。
    ぼくってそんなに頼りないのかな、なんて少し落ち込みながらも、まずはこの無遠慮な手をなんとかしなければ。

    「わ、わかったであります、呼ぶからぁ!」

    観念してそう叫ぶと、ようやく手が止まった。

    「ほんとに?」
    「う、うん、本当」
    「約束だからね」

    ズーマの表情が緩んで、それから手が離れていく。あんなに解放してほしいと思っていたのに、なぜかそれが少しだけ、名残惜しい。

    「もー、髪の毛ぐしゃぐしゃだよぉ」

    そう溢すと「ごめん」と小さな声が聞こえた。
    だけどそのあと、いつもの表情に戻ったズーマが言った。

    「でもロッキー、いつも寝癖ついたままでも気にしないじゃん」
    「それとこれとは別問題でありますよ!」

    言ってくれたな、と思いつつ、いつもみたいな軽口が返ってきたのはなんだか嬉しい。
    ぼくの好きな、太陽みたいな笑顔を咲かせて、ズーマがこう言う。

    「ねえ、アイスでも食べに行かない?」
    「いいね。行きたい!」

    階段を二段登って、また隣に並ぶ。少し上から、いつもの顔を見下ろした。
    今日は何味のアイスにしようか。二人でポーターさんの店のメニューを思い出しながら、足取り軽く、町へと向かった。
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